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【給料戦争】基本給=手取りと錯覚していた時代もありました【感想】

何の因果か終戦間際の1945年からタイムスリップしてきた日本兵・花沢武。旅行先のラオスで花沢を助けるはめになった浅野敬一は、何の因果か花沢を連れて日本に帰国することに……。

家賃+3万の新居と基本給25万+非課税交通費1万5千、手取り20万弱の現状で突如増えてしまった扶養家族を養っていけるのか?
頑張れ敬ちゃん、負けるな浅野課長殿、頼みの綱は昇進と彼女である倉前由美子(社会保険労務士資格持ち)だけだ!

【第1章 基本給は25万円なのに、手取り額が20万円ちょっとになる理由】

1945年からタイムスリップしてきた花沢を
「お人好しの敬ちゃんが連れてきた友達なんだから受け入れるしかないわよ、彼女としては」
と浅野の彼女である倉前由美子はあっさり許容してしまう。何とも男前な彼女である。

さて、花沢の存在を受け入れたところで三人は今後の生活について頭を悩ませる。
生活資金は言うまでも無く浅野の給料だが、給与明細を見れば

【支給】
基本給 250,000
非課税交通費 15,000

【控除】
健康保険 12,948
厚生年金保険 23,637
雇用保険 1,060
所得税 5,200
住民税 15,400

差引支給額 206,755
控除額合計 58,245

当たり前のように会社勤めをしていたときは給与明細を真面目に見たことなんてほとんどなかったが、他人の明細とはいえこうして具体的な数字を目の当たりにしてしまうと、精神衛生上やはり直視しなくて正解だったかなあ、と思ったり思わなかったり。

ちなみに、「給料から自動的に徴収すれば取りっぱぐれもなく平等」だと指摘する由美子に、花沢が記憶にあるいくつかの制度を思い出す。

(1)昭和15年「源泉徴収制度」
(2)昭和16年「労働者年金制度」

(1)
所得を受け取った者が申告納税するのではなく、源泉徴収義務者が徴収、納税する仕組みのこと。
出典 (社)投資信託協会投資信託の用語集
(2)
被用者が老齢,障害,死亡により所得を喪失した場合,本人および家族の生活を保障するために主として年金給付を行う社会保険である。 
1942年実施の労働者年金保険に始まり,44年に一般事務職,女子も対象に加えて,厚生年金保険の名称に改められた。
戦時体制下に制定されたこの年金制度には,生産力の拡充のための労働力の増強確保と強制貯蓄的な機能が期待されていた。
出典|株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版

しかし、基本給から6万近く差し引かれている浅野としては徴収される税金が高すぎるのでは? と不満を隠しもしない。
「所得税を国に住民税を市町村に支払うのはわかる。けれど『健康保険』『厚生年金保険』『雇用保険』ってそもそ何だ?」
というわけで、税金や保険について由美子の講義が始まる。

【所得税や住民税の基準や計算ってどうするの?】

所得税:給料の金額によって累進で課税される。

【図解】所得税の計算方法・年収別の課税率を税理士さんが解説! https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-2873/

説明を言葉だけではわかりにくいので、図解を探した結果行き着いたのが上記。国税局はまったくもって目に優しくないのでスルー。何より日本人に理解させる気がない日本語の拒否感がすごい。

住民税:給料に比例して支払う税金が決まる。
なお、計算のもとになるのは前年の給与。なので、前年稼ぎまくった人間が翌年不幸にも失業の憂き目にあうと地獄を見るハメに……。

年末調整:1月1日から12月31日までにもらった給料をもとに会社が社員の所得税を計算して、社員に代わって税務署に申告すること。そして、その際に必要になるのが「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書」である。

医療費他細かいところは以下略。

さて、ここで花沢から質問が、
「年末調整で所得税だけでなく、住民税も一緒に申告して支払っているという認識であっているのでしょうか?」
花沢の質問に対し、由美子は「住民税の税率の平均は10%」だが、市町村によって税率は違うという。これは知らなかった。しかも、税率は市町村がそれぞれ毎年のように改正しているというから、そんなほいほい改定していいのか、というか改定できるものなのかっ!?

思わずツッコんでしまったが、これで花沢の疑問は解けた。住民税に関しては会社が申告するのではなく、年末調整や確定申告をもとに市町村が計算しているのだ。

「税金のことは理解したが、所得税よりも高い社会保険はどうにか安くできないのか?」

うん、まあ、気持ちはよくわかる。
特に「厚生年金保険」。健康保険と違って頻繁に恩恵を受けている実感が沸かないから余計に。とはいえ、社会保険に関してはサラリーマンは強制的に加入が義務づけられているので逃げようがない……。

余談。浅野の大学時代の同級生の給料は浅野とほぼ同であったが、給与明細には社会保険の項目はなく、手取額は浅野よりも多かった。しかもその同級生、よくよく聞いてみれば残業だけで1ヶ月100時間超だったのである。
ちなみに仕事内容は海外から安く仕入れた木彫り人形や壺を訪問販売で主に高齢者に売るというもの。他にも呪いの藁人形やお金が貯まるパワーストーン等など。
———よし、通報しましょう、そうしましょ!
脱線したので軌道修正。

【サラリーマンは社会保険が多すぎる?】

サラリーマンの場合、社会保険の種類は
・健康保険
・介護保険
・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
以上の5種類がある。

【健康保険の保険料はどうやって決めるのか?】
毎年4月・5月・6月の3ヶ月に支払った給料を平均して「標準報酬」とし、これを「保険料額表」にあてはめて決める。

参照:全国健康保険協会
www.kyoukaikenpo.or.jp

*賞与を1年間に4回以上出すとそれは賞与ではなく給料と見なされ、12分割されて「標準報酬」に加算される。
*1回の賞与が150万で厚生年金の保険料は上限となり、年間の累計額が537万で健康保険の保険料は上限に達する。

健康保険は自分が勤務する事業所のある都道府県の保険料率を使う。
これはわかる。が、実はこの保険料が都道府県で違う言われたら、結構な数の人間が「はぁっ!?Σ(゜▽゜;」となるのではなかろうか。「保険料額表」全国一律ではなかったのか。
一例として東京都と埼玉県を上げると埼玉のほうが保険料は安いのだそうだ。物価か? 物価が高いからか!?

ちなみに「保険料額表」の参照元である全国健康保険協会は業界団体の健康保険組合に入れない企業が集まったもので、健康保険の中ではおそらく一番高額らしい……。

では、個人事業主ではどうだろうか?
答えは———NOである。
個人事業主であっても、常時5人以上の社員を雇用しているのであれば、原則、健康保険に加入しなければならない。
八面六臂のフリーランスなら国民健康保険。健康保険組合に加入する場合は「文芸美術国民健康保険組合」や「東京美容国民健康保険組合」などがある。

健康保険の解説が終わり、次は介護保険かと思ったが、介護保険は40歳以上の社員だけが健康保険に追加して払うものなので40歳未満の浅野には不要とスキップ。そして、介護保険の先に待っていたのが社会保険の中でもっとも金額が大きい厚生年金保険である。

【年金って高いよね。……本音を言えば不安です】

まず、国民年金はすべての国民が加入しなければならない制度であり、厚生年金の一部は国民年金である。頭ではわかっているのだが、現状を考えると将来に不安しかないのが正直なところ、

ちょっと端折って国民年金と厚生年金が破綻しないカラクリについて。

◆年金を受け取る条件
国民年金・厚生年金の加入期間が通算25年以上。
◆老後にもらえる国民年金
反映されるのは最大で40年間分の保険料の支払い。
仮にサラリーマンで47年間厚生年金の保険料を支払っていたとしても、40年間以上の国民年金は掛け捨てとなり、7年間分は反映されない。

解せぬ

しかし、掛け捨ての7年間分年金に余裕ができると考えれば、不承不承ではあるが納得せねばなるまい。すでに国民年金の財源が足りず税金で補填している状態なのだから。

もうひとつのカラクリは、まあ、誰でも想像がつくのだから、受給年齢の引き上げである。事実、以前は60歳からもらえていた年金が今は原則65歳からだ。

2019年10月18日に開催された厚労省内の審議会では、「年金の繰下げ支給を75歳まで拡大する見直し」の資料が提出されている。

・年金が84%増える! 75歳年金繰り下げを厚労省が提案 - シニアガイド

受給開始年齢が引き上げられるわけではないが、受給年齢の繰り下げ上限を70歳から75歳に引き上げるというものだ。
仮に75歳受給を選んだ場合、恩恵として年金が84%増額される。
正直、増額目当てに10年繰り下げを選ぶくらいなら、年金受給年齢に達する前に太く短く前のめりで突然死する道を選ぶぞ。未練らしい未練もおネコ様の老後くらいなので、埋葬が完了したらその場でぱったりと突然死したい。

ところで問題の渦中にいながら影の薄い浅野、
・厚生年金と国民年金の両方を支払っている
・大学卒業からすぐサラリーマンになった
・よって年金の満額受給も夢じゃない
と一人で勝手に盛り上がるのだが、その妄想は由美子にあっさり叩き落とされる。

厚生年金も健康保険同様、給料から標準報酬を計算して保険料額表で金額を決めるため、給料が安ければ比例して受け取れる年金も少ないのである。

残るは「労災保険」と「雇用保険」であるが、これはもう「読んで字の如し」なのでいちいち説明するまでもないだろう。雇用保険にはお世話になりました。
ところで労災保険って会社が全額負担なのな。給与明細に記載がないのはそのせいだったのか。

一通りの説明が終わり、これでさっ引かれた58,245に納得したかと思えば、やはり浅野は納得できないようだった。すべて将来に備えた保険のようなもので、払い損になっていないだろうか、と。だが、そんな浅野の不満も花沢の言葉の前ではただの贅沢でしかない。
「給料からいくら差し引かれても、普通に生活が送れて、病気を治療するお金を気にすることなく老後も安心して生活できる今の日本は天国です」
由美子と浅野は花沢にかける言葉が見つからず、しんみりした空気の中でその日の会話は終わりを告げたのだった……。

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