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【夜叉姫伝 2 朱い牙の章】を読み始める

四の五の抜かさず正座しろ、魔界医師。
月光と極光が妬みうらやみ嫌悪し焦がれたその美貌、今こそ蹴飛ばしてくれる!

新書では全8巻。文庫では全4巻の夜叉姫伝。
初めて手にしてから約20年。文字通りページがすり切れ、外れ、色あせた8冊のうち、特に痛みがひどかった3・6・8巻の3冊。これをもう一度手にしたくてKindle化を祈願したのはいつのこどだったか。ちなみにKindle Paperwhiteを新調した勢いで文庫版を衝動買いしたのはつい最近の話である。

全巻まとめ買いは安くなかったので、まずは旧3・4巻と旧5・6巻それぞれの合本である【文庫版 2巻-朱い牙の章】と【文庫版 3巻-魔都凶変の章】を購入。

【夜叉姫伝】概要

いつ終わるとも知れぬ航海の果て、「船」に乗って<新宿>に現れた4人の吸血鬼。かつで妲己の名で歴史に朱い牙を残した吸血姫を頂点として、彼らは<新宿>に侵攻する。
マン・サーチャー秋せつらは人捜しの「依頼」を受け、結果として彼らの侵攻を阻止するべく凄惨極まりない死闘へ身を投じていく。


【秋せつら】

本業せんべい屋のマン・サーチャー。最初から最後まで何かやらかしとる。以上。

主人公だが20年近く経ったい今でも特に思い入れは無い。なぜならヤツは主人公の皮を被った魔界都市<新宿>仕様の「機械仕掛けの神 (deus ex machina) 」。
「人」物として見るにはいささか"存在"に難がありすぎる。

とりあえず人形娘に感謝しろ。そして詫びの折り菓子ならぬ詫びせんべいを持って人形娘をねぎらうのだ。

【ドクター・メフィスト】

四の五の抜かさずそこへなおれ、魔界医師。
もはや処置なしの人格であることは理解しているが、それでも、地球上に存在する全女性に対して一度きちんと謝罪会見を開け。そして、今すぐ人形娘に土下座しろ。

美貌の2文字が嫉妬で発狂死するレベルのツラだろうが何だろうが、無礼に対する絶対応報は行使されて然るべき。

職務放棄しなかったことは褒める。だが、手段を選べ。言うだけ無駄だと理解はしているが、大事なことなので2回言う。手段を選べ藪医者。

【人形娘】

良心。夜叉姫伝屈指の良心。淫蕩と凄惨を煮込んだ坩堝の本作に蒔かれた一粒の清涼剤。健気でとても可愛い。サテンドレスが似合う。ヌーレンブルグ家万歳。3巻初登場。夜叉姫伝は人形娘推しである!

【ベイ将軍 】

所感。誰かと思えばカズィグル・ベイ。妲己の次が串刺し公とは豪華だな。大盤振る舞いか。むしろ自重しろ。

美丈夫ではないが偉丈夫。その所業は野蛮であり残忍であるが、それでもおのれが定めた礼を守る律儀さはある。そこは曲がりなりにも将であった男。矜持の二文字はまだ生きていた。

決着がつくのは次巻(旧6巻)だが、確実に訪れる退場を思うと少し寂しい。

【梶原区長】

凡人。そして、魔界都市<新宿>の区長に上り詰め、今や幸運と悪運にまみれた革張り椅子でふんぞり返る<新宿>の長。そして、【朱い牙の章】を買い直す理由のひとつとなった男。

暴力と威圧と証拠をもって区長室に乗り込んできた陸上自衛隊特務班分科F———歴戦の傭兵部隊を相手に、このとぼけた金庫番のような男は啖呵を切ったのだ。
<魔界都市>に生あるものはいかなる存在であれ生きる権利を持ち、みな等しく<区民>である、と。身に寸鉄帯びぬただの凡人の身で。

<魔界都市>に存在するすべての生あるものに生きる権利を認めた<区民>を彼は誇りに思うと言い切った。なら、そんな<区民>たちに選ばれた<区長>にはさらなる敬意を払おう。

漆黒のマン・サーチャーより白銀の魔界医師より、果ては4千年を生きる吸血姫よりもこの巻で輝き燃え盛っていたのはこの凡人だ。
この演説だけで対価を支払うには十分すぎる。

さて、【朱い牙の章】で粗方の勢力が出揃うわけだが、いざ出揃ってみるとどうしても目に付くのが「常識」を信奉する<区外>の人間の脆弱さよ…。

"殺せば人は死ぬ" <区外>の「常識」は、<新宿>にとっては"殺しただけで人が死ぬ"という非常識でしかない。スタート地点がすでに違うのだ。
そんな「常識」の信徒が<新宿>で七面倒くさい魔人と吸血姫一党を相手に一体何ができようか。

人形娘の初登場とベイ将軍との初戦、そして区長の演説が主な目的だったのだが、<区外>から自信満々にやってきて、登場した端からばたばたばらばらどっかん! と倒れていく常識的人類御一行にはさすがにちょっと同情してしまう。

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