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3 揺籃の国土は南北を峻厳な山に挟まれ、西は大洋に臨んでいる。東は隣国〈異教国〉に…
第二章 Grow 1 水の入った盥を、デグマが泳いでいる。 ロエルはそれを黙って見つ…
-1 「スサノの技能は、〈圧〉を操ることです」 ホメロを師に据えた訓練初日、休憩時間…
彼女は〈蔚藍の〉トラーネと名乗った。 半地下の店の一番奥の席。客は不機嫌そうな中年の…
3 金属製の小さな函の上でデグマが丸くなっている。 ロエルはそれを黙って見つめて…
4~7 et 9(Digest) 小さな磁石の函の隅でデグマが丸くなっている。 ロエルはそ…
8 一年が経った。 トラーネは週の二日か三日を、ロエルの家で過ごした。色々なところに義理があって、ひとつの場所に腰を落ち着かせるわけにはいかないという。やってくる度にどこで手に入れたのかどっさりと本を持ち込むので、奥の部屋は書籍で鬱蒼としている。 ホメロとの訓練は、何の進展もなかった。何も。手に入る範囲のあらゆる器材を試してみたが、何の効果も現象も見出さず、蜃体学校の二年間と同じような日々を、一年間、群青の町で過ごしたのだった。 その日、訓練終了後にホメロはロ
10 日付の変わる少し前、ロエルは自室で荷物の整理をしていた。といっても、元々持って…
第三章 Bear 1 ロエルとホメロは、蜃体学校の最上階を歩いていた。時刻は昼下がり…
今回の蜃体師争議の首謀者、非派の中心、空翠のアルガ。伸張体扱い者で、史上初となる音声伝…
2 ヘッドライトの灯りで夜闇を裂くように、車が走っていく。蜃体学校を出てどれほど経…
4 深夜。庁舎から一ブロック隔てた路地に、二台の車両が停まっている。ロエルは付近の…
5 顔面に水をぶちまけられた。意識が痙攣するように覚醒する。 「起きろ。お前は現行犯…
第四章 Dreams 1 列車の車輪が線路を擦り、疾走する。動力源の張力体という蜃体は、もつれ合わせることで二つの蜃体同士が磁石よりも強烈な力で引き合う性質を持ち、レールの上を走る列車と相性が良い。 そうして実現した高速移動技術も、デグマの真価の前では歩けるようになったばかりの赤子のようなもので、ロエル達は囹圄から線路への距離を一跨ぎして、難なく荷台の一つに潜り込んだ。荷台の中身は、隅っこに毛布が数枚積まれているばかりで空っぽだった。 「何も積んでいない……」