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梨さんの『おとみまけ』に思いを馳せる

梨さんがオモコロに投稿した『おとみまけ』について、調べたり、考察したり、妄想したりしたものの記録です。
ナチュラルにネタバレしてます。

◉一 むつきさんよう

〈章のタイトルについて〉
たぶんこれかな、っていう意味合いをチョイスしてみた。

【睦月】(むつき)
「睦び月(むつびづき)」が略されたもの。
「睦(むつ)ぶ」とは、仲よくすること。新年を祝って、家族や親族が集まり、睦び親しむ月だからという説。

 【三陽】(さんよう)
春の三か月。 三春。
また、正月をいう。 

どっちも、正月とか新年とかめでたい感じの単語なのかな?

〈章の内容について〉
「手に何かを書く」というおまじないの話。
・「願掛けの行為をする→本当に効果あった人が出る→儀式やおまじないとして定着」の流れ説明。

・中国、四国の一部地方では【車子(くるまご)】という子供が続けて死んでしまうといった意味の民族語彙がある。

・高知県室戸市の『吉良川老媼夜譚』では「車子は十二人まで死に続く」などとも言われる。
車子の子供を埋葬するときは、その子の掌に文字を書くと、生まれ直した時にそれを握って生まれてくるとされている。

⇨車子の原因は何なのか?
疫病?飢饉?
口減らしや栄養失調での衰弱死が原因なら掌に「米」と書くのも頷ける。

・北九州の伝承
ヒダルガミを退ける手段として掌に文字を書いて舐めるというものが伝わっている。

掌の上で何かを書く、書く動作をする
その動作によって、書かれたものを手にすることができる。

何かを書きつけるという動作は、ともすれば呪術的になりうる営為と「相性がいい」ものだったのかもしれません。

本文より抜粋

⇨本作のギミックとして、”スマホを使って文章を読む行為”が、”掌の上で上下の線を書く動作”……呪術的動作とされてしまっている点が挙げられる。

〈写真について〉
・「もう宿もなくなっていたそうです」の宿とはタクシー運転手が泊まったところ……?
ちなみにGoogle画像検索で徳島県の住吉島川がヒットした。
一応、運転手が語っていた「四国の或る県」に該当する?


◉二 ひだるがみ

〈章のタイトルについて〉

【ヒダルガミ】
山道などを歩いている人間に空腹感をもたらす悪霊の類をいう。これに憑かれると、歩いている最中に突然にして激しい空腹感、飢餓感、疲労を覚え、手足が痺れたり体の自由を奪われたりし、その場から一歩も進めなくなり、ひどいときにはそのまま死んでしまうこともあるという。

ウィキペディアより


〈章の内容〉
・車子の話題からして中国、四国の一部地方の話か?

・そこでは他でよく聞く「米」とかではなく「上から下へ線」を書くらしい

上から下に線を引くのは、上の世界──つまり天とかお空と呼ばれるようなところに行こうとしている人を戻そうとする意味合い

本文より抜粋

⇨魂がお空に行ってしまうのを留めるようなニュアンスか。

・この地域ではヒダルガミは餓鬼のような姿をしているという。
極度の栄養失調で、お腹の中に水と脂肪がたまった状態か。

基本的に何か一口でも食べ物を食べればヒダルガミを退けられるとされるが、この地域では「食糧がないときは掌に縦線を引く」おまじないでヒダルガミに対処する。

⇨順番的には、もとは死にそうな子供を引き戻すためのまじないが、ヒダルガミ対策に流用されたということか?
余分な食糧もなく、最後の最後に切羽詰まって、かろうじて書けるのが一本の線。
しかもヒダルガミを退けるというより、自分の魂が飛んでいかないようにする感じだな……

・調べたら『丨(コン)と呼ぶ縦棒の漢字』が出てきた。

書き順が、下から上なら「すすむ」で上から下なら「しりぞく」という意味になるとか。
たまたまだろうけど、スマホの動きと合うね……意味深😅

〈写真について〉
「その年は車子がとりわけ多く、幕も足りないほどだったそうです」

⇨葬式の幕のことだよね。
いつの時代の話かわからないが、最近ではなさそう。
ヒイナくんが生きていた頃のことか?

◉三 ひなさき

〈章のタイトルについて〉
・男性妊娠的なお話なので、たぶんこの意味もあると思う。

比奈佐岐(ヒナサキ)

女の陰核のこと。
「吉舌」又は「雛尖」とも書く。
『和名抄』に「吉舌和名比奈佐岐」とある。
ヒナは女、女の先に出たものの意。

・あとは「ヒイナの掌を裂いた」ので「ヒナサキ」。

上の『比奈佐岐』の意味と合わせると、ヒイナくんは掌に女性器を作られてしまったことになる?
一章で「埋葬する子の掌に文字を書くと、生まれ直した時にそれを握って生まれてくるとされている」とあるので、ヒイナくんは女性器を持って生まれてくることになりそう……

・作品タイトル『おとみまけ』と、梨さんのTwitterでの紹介文「ひいなくんの受けた復讐の話です。」から考えるに”復讐した”のは「ヒイナの先に生まれていた兄弟」→「ヒナサキ」という説もある。

おとみまけ
=おとみづわり(弟見悪阻)

乳飲み子のあるうちに母親が妊娠し,母乳がよく出なくなったために,子供が起こす病気。一種の栄養不良。

ヒイナくんを妊娠してせいで、上の子が栄養失調で死んだという推測。

〈章の内容〉
・嘗てこの地に暮らしていた”ヒイナという名の子供が、ヒダルガミの憑依などを原因として死に至る”結末の怪異譚について。

「伝承される地域や書き手・語り手によって細かな異同はある」とあるので、けっこうな人数に語り継がれてそうな雰囲気。

・ヒイナの性別は言及されてないが、梨さんのツイートによると『男子』みたいね。
男性妊娠の怪談だから、やっぱりヒイナは男の子ですかね。

頻繁に空腹を訴えるため様々に食べ物を用意するのだが、いざ出された料理には殆ど手を付けない。
心配した親兄弟が半ば無理矢理にそれらを食べさせても間もなくして嘔吐する

健やかであった身体は痩せ細り腹だけが不自然に出た、餓鬼のような容貌に変化したのだという。

本文より抜粋

⇨ここの描写が「妊娠を指す」っていう考察もありましたね。
食欲あるけど、いざ食べると気持ち悪くて吐いちゃう……ってのは悪阻の症状として、あるにはある。
餓鬼のようにぽっこりお腹が出るのは妊婦の腹とイメージ掛けてるんだよね。

家族で臥所を囲んでいたその時、突然に家族のひとり(両親のどちらかであるとされる)が布団の中からヒイナの片手を引っ張り出し、にこにこと笑いながら自らの指でヒイナの掌を引っ掻きだした

それは、ヒイナの掌を下から上になぞるような動きであった。

本文より抜粋

⇨ここで「にこにこと笑い」ってのが異様。嬉しいってこと?

しかも”掌を下から上になぞる”行為は、先の説明文によると「誰かが死の淵にいる時に、その人をこちら側の世界に戻す時のおまじない」の逆。
つまりヒイナが”死ぬように願う”まじないとなるはず。

・あと、少しひっかかったのが↓の部分。

これはヒダルガミの仕業であるとして家族は様々な対処法を試し、腕利きの祈禱師や咒師も招聘したがまるで効果はなく

本文より抜粋

⇨ヒイナくん、もしかしてそれなりに裕福な家庭の子?
食べたいと言えば食べ物を用意できるようだし、腕利きの祈祷師を呼ぶお金もある……

〈写真について〉
「そこら一帯に聞こえるような声だったといいます。
またか、と辟易した人の方が多かったのでしょう」

⇨タクシー運転手が裏声で「ぼくがおかあさんだからねぇ」と叫んでるのと同様なことがあったとか?


◉四 くせやみ

〈章のタイトルについて〉

【くせやみ】
妻の悪阻のときに,夫が悪阻のような状態になることをいう。

〈章の内容〉
・話者の男性が体験した、九州旅行での出来事。

・乗ったタクシーの運転手が、10年くらい前に四国を旅行したときの不思議な夢の話をしてくれた。

(概要)
ふと目覚めると布団がいやに重い。
そこで布団を動かそうと手を移動させると、腰から膝にかけてのあたりで柔らかいナニカに触れてしまった。

さらに、足元のあたりで40代くらいのおじさんの声で「ありがとうございます」と聞こえた。

手を擦るような音と共に、含み笑いで「ありがとうございます」を連呼している。 
どうやらタクシー運転手はその柔らかいナニカを産んだらしい。

⇨謎のおじさんが

「また うまれなおしていただいて
まことに ありがとうございます」

って、生まれてきたモノに対して言ってる?
タクシー運転手に言ってるなら「うみなおしていただいて」になるよね?

・翌朝、宿屋の女性にそれとなく聞くと「ざしきわらしみたいなものです」と嬉しそうに話をされた。

掌に指で縦棒を書くようなふうに、繰り返し繰り返し片方の掌に、もう片方の指を下から上にこう、擦り合わせるんですよ。
その動きが、それこそ合掌して手を合わせるのと同じようなことで。
神様に感謝する、おまじないみたいなものなんです。

宿屋の女性のセリフ

あなたも、ここいらの神様にあったんですよ。」
→”も”ってことは、他にも神様にあった人がいる?
謎のおじさん”も”以前に神様にあった人だとか?

”あった”って”会った”?それとも”合った”?

・神様に向かって手を擦るおじさんについては何も言及しないのな……
この女性、何でもない顔して、実はおかしい?

・タクシー運転手、宿に泊まって寝てただけで神様(推定)を産む羽目になってるが、これは謎のおじさんが運転手の代わりに掌を擦るおまじないをしてたせい?
眠ってる間に部屋に入られて掌擦られてたら恐怖だな!

・話者はその後、神様(推定)を産んだような口振りですが。
運転手から話を聞いただけで妊娠した?

それか、タクシーでお釣りもらう時に掌をなぞられでもしたのかな……🤔
向かい合って小銭を渡して手を引いたら、ちょうど相手の掌を「下から上に」なぞれるよね。

「ホテルで吐いたのは、悪阻」という考察を見て目からウロコだった。
なるほど〜

彼の掌にはみみず腫れがびっしり出来てました。
掌に縦線を引くみたいに赤い線が何本も何本もあって

本文より抜粋

⇨これはタクシー運転手さん、10年前からずっと何度も神様(推定)を生み直している……?
10年前の謎のおじさんも今のタクシー運転手と同じくらいの年齢っぽかったから、40代になったら次の母胎(と言っていいのか?)にバトンタッチするのかな〜

〈写真について〉
本作のギミックの最後の仕上げというか、だいたいの読者が「あっ、やられた……!」って気づく部分ですね😅

「以下には男児の顔写真が掲載されています。」
「そういった写真が苦手な方は上から下に指を動かしてください。」

①そのまま「下から上に」「掌の上にあるスマホ」をなぞれば、タクシー運転手のやっていた出産の儀式の追体験が完了して、写真の男児(ヒイナくん?)が産まれる。

②写真を見るまいと「上から下に」なぞれば「もうかなり薄まってて、きばんでてやわらかいなにか(たぶん神様)」を現世に引き止めることになる。

しかも一番上まで戻ると反転表示で発覚する「誠にありがとうございました」って隠し文章あるでしょ〜

どっちに進んでも儀式に加担させられてるんですよね……凶悪……😇

◉五 うぶいわい 

〈章のタイトルについて〉

産祝い(うぶいわい)

出産祝い。誕生祝い。

・四章の最後で「男児を産んだ」ことに対する「おめでとうございます」の意なのかな?

・それと昔の時代って数え年で、正月がくるごとに年齢を加算してたんですってね。
一章のタイトルが一月の正月っぽいけど……もしかして誕生祝いを表してる?
五章から一章に戻って、何度も生まれ直すループ?

◎他、思いついたあれこれ


〈タイトルの下にあった単語について〉

らんとう ひいな

・らんとう【卵塔】
⇨卵の形をした墓。
あとは普通に『卵』を連想。

・ひいな【雛】
⇨『卵』から孵った『雛』のこと?
あとは民間説話の『ヒイナ』のこと。

こじつけると、「卵→雛」の次には卵を産む「鶏」が来そう。
【鶏=卵を産む】
【ヒナサキ=女性器=産む】

”らんとう ひいな ひなさき”だと語呂がいいかな〜

たぶん、生まれ直しのループを表してそう。

・「黄ばんでて柔らかいナニカ」って、脂肪っぽいよね……
妊婦ではない身体から生まれてるから、そもそも人の形は取れず、ずっと脂肪の塊なのでは?

◎妄想ストーリー

あとこれは何も断定できない妄想なんですが、話の中の記述をこねくり回してストーリーを作りました。

・例えばヒイナより前に死んだ兄弟がいたとして。

親は埋葬時に「生まれ直さないように下から上に線をひいた」

その後、なぜか家が少し裕福になる。

また生まれた子供が死ぬ。
下から上に線をひいて埋葬。

また、家が裕福になる。

繰り返し

みたいなことが起こってたらどうですかね?

・”死んだ子供が「ざしきわらし」みたいな福の神に生まれ変わって、家を裕福にしてくれてる”と思い込んで、死んだ子の掌に下から上に線をひくことを儀式化したとか。

だからヒイナが健やかに暮らしていたときは、家は結構繁栄していた。
食うに困らないし、腕利きの祈祷師も呼べるほどだった。
ここで、親に「生まれ直すな」とまじないされた先の兄弟たちが、ぬくぬくと恩恵を受けているヒイナを妬むのも道理。

成仏できない兄弟たちの怨念がヒダルガミとなり、ヒイナが物を食べられないようにしたし、実の親の身体を操りヒイナを呪った。

哀れ、ヒイナは「人間ではない黄ばんでて柔らかい神様」として何度も生まれ直すループに陥る。

・たぶん、ヒイナの掌を引っ掻いたのは父親じゃないかな。
このあと、父親は自分の掌を下から上に擦りすぎて傷を作って、近所迷惑にも「自分がおかあさんだよ」と頻繁に叫んでいそう。

そんで出産の適齢期を過ぎると、別の男性の掌を介して、呪いを移動させてる。
これが続けられて、現在に至る。

・宿のおじさんは、神様が生まれ直すと家が繁栄すると知っているから、ありがたがっていた?
でも、「もう薄まってきていた」から効力はほぼ無くて、宿は寂れたまま、最終的に廃業もしちゃったのかな……


とか妄想してみました!

今回、オモコロで記事として儀式が大勢の人間に共有されちゃったから、ヒイナくんがお空に行けるのはまだ先になりそうですね……😢




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