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「子」の付く名前のイメージ

最近とあるコンテンツに触れていて、ふと気が付いたことがある。
名前に@@子と付く女の子のイメージが、特に若い子の間でかわいいという印象を持たれているのではないかということだ。
深夜アニメ等を見てると、特にそう思うケースが増えてきた。


具体的な例を挙げよう。
ラブライブ!シリーズの最新作として、10月初旬からアニメが放送されることになった「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。メンバーの1人・中須かすみが、同じ1年の桜坂しずくのことを「しず子」と親しみを込めて呼んでいるほか、生徒会長の三船栞子(みふね しおりこ)のことは塩対応だから「しお子」とわざわざ呼んでいるのだ。子が付く名前にもかかわらず。

このほど2期の制作が決定したきらら系人気アニメ「まちカドまぞく」の主人公の名前は、「吉田優子」というごく普通の女子高生の名前であるが、彼女につけられたあだ名は「シャミ子」である。
シャドウミストレス優子という魔族名の略称なのだが、シャミ子の方が圧倒的にいい。一度聞いたら忘れられない名前だ。

もうひとつは、いま大ヒットしているマンガ原作のアニメ「鬼滅の刃」のヒロイン・竈門禰豆子(かまど ねずこ)だ。強くてかわいいし兄思いだけど、鬼化する危うさを秘めている。
小学生女子に圧倒的な人気がある。


マンガやアニメのなかで、子のつく名前にレア感があったり、古風な響きから清楚なイメージもたせる意図があるのだろう。
上に挙げたケースもたまたまだろう。
そう思っていた。

ところが、そうでもなかった。
私には20歳すぎの娘がいるのだけど。
いつからか自分のあだ名として、@@子と言うようになってた。
友達にもそう言われているらしい。

日本人だけじゃない。外国人の女の子にも、略称に「子」をつけて可愛がる人も多い。
ロシアの元フィギュアスケート選手のユリア・リプニツカヤは、その可愛らしい顔立ちとツンデレな性格から「リプ子」と呼ばれて親しまれてた。
これは果たして偶然だろうか?


ここで「子」の付く名前について、少し歴史を調べてみた。
明治安田生命が生まれ年別名前ランキングを掲載している。
https://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/year_men/girl.html

これを見ると、時代の移り変わりによって人気のある名前の移り変わりが分かって非常に面白い。
意外なことだが、女の子で「子」の付く名前が人気だったのは、大正時代の後半から昭和の30年代まで。
ランキング10位まですべて「子」の付く名前だった時代は、大正10年から昭和31年まで実に35年間に及ぶ。
それから徐々に「子」の付く名前は減っていくが、10位までのランキングのなかで半数を割り込むようになったのは1980年以降である。

平成の時代になってからは、ランキングからはほとんど消えてしまった。
私の記憶でも昭和50年代には、「子」の付く名前はもうすでに古めかしい名前というイメージがあったと思う。
時折「桃子」「奈々子」「莉子」といった名前がぽつぽつとランキングに入ってくるが、同名の芸能人の影響であろう。
「莉子」は、アイドルもアニメのキャラクターも声優さんも居る。


「子」の付く名前は、もともと上流階級の子女だけに許された名前だったという。
平安時代に紫式部清少納言が仕えていた一条天皇の中宮も彰子、定子であるし、現在の宮家も女性は雅子、紀子、愛子とすべて「子」の付く名前だ。
一般庶民が「子」の付く名前を付けるようになったのは、明治以降のことだとか。

ではいつから「子」の付く名前が一般的な女性名として広まったのか。
日本古来の伝統的な名前だったのか?


実はそうでもないらしい。
菅原 清公(すがわら の きよきみ/きよとも)という、平安時代初期の人物がいる。
かの有名な菅原道真のお祖父さんにあたる。

この人物が818年に出した建言によって、それまで和風だった人名のつけ方を唐風に改めた。男子は「源融(みなもとのとおる)」の「融」や「源信(みなもとのまこと)」の「信」のような一文字訓読みという形式にし、女性の名前は「○子」という形式にするようにしたとする記録が残っている。


女性名と「子」の史学的な解説については、このサイトが詳しいので読んでみることをお薦めしたい。


日本人の名前/研究
https://nihonjin-name.jimdofree.com/

すごい><;勉強になる。
女性名の「子」は、明治期にあっては女性の敬称だったというのは知らなかった。
例えば、与謝野晶子の本名は「しょう」である。
「子」 は、女性にとって「氏」と同じような役目を持っていたのか。

ラフカディオ・ハーンは、「子」という接尾辞はLadyを意味すると書いてる。
女性の社会進出が拡大し、自由民権運動とともに「子」を自分の娘に付ける人が増えていった。面白いなぁ。



しかし、いま流行っている愛称として「子」を付けるのは、ちょっと意味合いが違う気がする。

それに、どうも漢字の「子」ではなくて、ひらがなの「こ」をつけるようなニュアンスもあるようなのだ。
ひらがなだと、同じ音でも柔らかくて親しみを持てる印象になる。
矢澤にこ」とか「三森すずこ」とかね。

100年も経つと、言葉の持つ意味や役割も変わってくるということか。
にしても、やはり天皇家はすごいわ。
こういう流行り廃りには一切目もくれず、いまでも妃殿下、女王殿下、内親王殿下は「子」を付けた名前にしてしまうのだものな。

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