日記のようなもの④
月曜日 余韻
先週末、宇多田ヒカルのライブに行ってきた。
応募総数100万を超える抽選の1回目で、見事、初日福岡公演を引き当てたのだ。
宇多田ヒカルのライブは、これで2回目だったけど、彼女を25年ずっと追いかけてきた私には最高のセトリ、そして演出だった。
帰り道、夫と歩きながらスマホで撮影した動画を見返して「最高だった」「明日も行きたい」と感想を言い合ってから、ふと、「明日も行きたい」という感想って、誰かのライブに行く度に毎回言ってるなぁと思う。
「また行きたい」と思うのはもちろんだけど、それじゃ我慢ならない。今すぐにだって時間を巻き戻したくなってしまう。
夫が「毎日、宇多田ヒカルのライブに行く仕事があったらなー」と小学生みたいなことを言うので、2人で色々考えてみたけど、ライブが仕事や日常になったら、きっと良くないんじゃないかという話になった。
全てのタスクを消化して向かうから、高額なチケットを購入するから、特別で最高になる。ディズニーランドと一緒だねという結論に達した。
余韻に浸りながら、バカみたいなことを真剣に話し合う。家に帰るまでがライブです。
火曜日 勇者の帰還
出勤するなり、宇多田ヒカルのライブどうだった〜!?と、色んな人に聞かれた。
最高でした〜、こうで、あぁでと言いながら動画を見せたり、席はどこだったか、天気はどうだったか、帰りは混んだかなどと一通り話し終えた後で、その第一陣に乗り遅れた人たちが同じようにやって来て、同じような質問をしてくるので、また同じようなことを繰り返し答えた。
普段話さないような人とも話して、感想を述べているうちに、勇者の帰還ってこんな感じかなぁなんて思う。
私が勇者なら、ヒカルちゃんは大天使だな。
水曜日 ファミレス
今日は珍しく、昼休みに1人でファミレスに行ってみた。
くどうれいんさんのエッセイ「虎のたましい人魚の涙」の一節、「とにかくドリアを」を通勤のバスの中で読んでいたら、無性にファミレスのドリアが食べたくなったからだ。
だがしかし、外に出たらあまりの暑さにやられて、いっぺんにドリアを食べる気が失せた。
こんな暑い日にドリアなんて食べたら、きっと汗が止まらない。
だけど、ファミレスへ行くと決めた足は止められず、結局、日替わりランチを頼むことにした。
気も抜けてぼんやりと待っていると、突然、注文用のタブレットが「間もなく注文のお料理が到着するにゃん!」と話し出した。
視線を上げると、前方から猫の顔のロボが、こちらに向かってきている。
久しぶりすぎて忘れていたけど、今はロボが配膳するのだ。
たった1人分のごはんを、しかも一番安くてお得な日替わりランチを、何やら音楽を鳴らしながら盛大に運んでくるではないか。
しまった。なんかすごく恥ずかしい。
「到着したにゃん!熱いから気をつけて取るにゃん!」とにこやかにロボが言うので、そそくさと立ち上がって、ごはんを受け取る。
隣の席にいた若い女の子たちが、その様子をじっと見ていて、「この店舗、通路広いからロボなんだねー」と話しているのが聞こえた。
平気な顔してたけど、結局、汗をかいてしまった。
木曜日 SUNDAYでも新宿でも網タイツでもないけど
毎朝、バスを降りてセブンに寄ったら、アーケードを抜けて職場へと向かう。
昼ごはんとカフェオレを買って、暑っつーと小さく声に出しながらアーケードに入ると、まっすぐに続くその通りに誰もいなかった。
いつもは通勤でたくさんの人が歩いている時間なのに、ぱたっと人の波が途切れたのか、大きな口を開けたような出口まで、私1人だけが歩いている。
イヤホンから流れてきたのは、聴き慣れたギターのリフ。ベースとドラムが後に続いて、♪SUNDAY 新宿 網タイツ、とチバユウスケが歌い出す。
♪なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする
一緒に歌いながら、本当にそんなことを信じられそうな気がしてくる。
誰もいない道で、急にミュージカル映画の主人公になったみたいに踊り出したくなる。
SUNDAYでも新宿でも網タイツでもないけど、魔法にかかるのはいつも簡単だ。
金曜日 少年は走る
私が降りるバス停の1つ前の停留所で、中学生ぐらいの男の子が2人降りて行った。いよいよ終業式を終え、明日からは夏休み。
いいよなぁ、一番楽しい時だろうなぁと思いながら、何気なく降りた2人をそのまま目で追っていると、彼らが突然走り出した。
動き出したバスと並走するように、軽やかに爽やかに、ぐんぐん足を伸ばして、飛んでいっちゃうじゃないのって思うぐらいの勢いだ。
何に向かって走ってるんだろうと思っていると、前方に彼らの友達らしき2人の男の子が見えた。
なーんだ友達かと思ったのも束の間、その子たちも走り出す。1番先頭を走る子がお菓子の入ったビニール袋を大きく左右に揺らしながら、しきりに何かを叫んでいるみたいだった。
4人はそのまま追いかけっこをしながら、住宅街の方へと向きを変えて、ついにはバスから見えなくなった。
輝いてるなぁ。若さって未来だ。私なんか、できるだけ走らなくて済むように生きてるのになんて思っているうちに、最寄りのバス停に着いた。
降車するためにバスの前方へ進むと、運転士さんが「はい、お疲れ様です!」と言ってくれた。
添えてくれた笑顔がきらりとする。つられて私も笑顔が溢れる。
命をキュッと磨いてもらったような、輝きをもらった。
夏の始まりを感じた帰り道だった。
今週もおつかれさまでした。
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