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うそのある生活 11日目

10月6日  晴れ   夏がぶり返したように暑い

週のはじめに娘が風邪をひいて、週末の運動会に出られないのではと心配していたら、今度はわたしの方がそれをもらって熱を出してしまった。

すぐに治るかと思っていたけれど、いろいろと弱っていたところだったからか、長引くどころか日に日に悪くなった。

ついに今日の運動会の日になっても、娘のほうはとっくに良くなったというのに、私のほうは起き上がれなかった。娘が一生懸命運動会の練習をしているのを知っていたので、ほんとうならどうしても見たかったけれど、起きられないだけでなく一昨日からご飯さえ食べられないのだから、とても出かけられない。それでせっかくの運動会なのに、わたしは一日中家で寝ていることになってしまった。

朝早くに娘と妻を送り出してから、行けないならせめて夢の中で運動会を見れないものかなどと思いながらうとうととしていたら、寝室のドアががらりと開いて、小鬼がぞろぞろと入ってきた。

小鬼は3センチくらいの大きさで、赤鬼と青鬼が同じくらいずつあわせて20匹くらいだろうか。少し体の大きな赤鬼がリーダーらしく、彼が、整列、とかけ声をすると小鬼たちが赤と青に分かれて綺麗に並んだ。それでどうするのかと思っていたら、そのリーダーらしい鬼が「せめて僕らの運動会を見てください」と爽やかに言った。

こちらがあっけにとられているうちに鬼は運動会をはじめたようで、入場行進からはじまって、徒競走、ダンスや障害物競走などひととおり運動会らしいことをしてくれた。とくにダンスは赤鬼と青鬼が入り乱れて踊るのだけれど、見下ろしていると、ときたま富士山や花の図柄が現れてなかなか見ものだった。本来は娘が運動会をしているのを見たかったので、小鬼の運動会を見たかったわけではないのだけれど、とはいえこれもなかなか見所があって楽しい。

最後には僅差で赤鬼のほうが勝ったようで、赤鬼たちが万歳をして運動会は終わった。終わるとまた赤鬼のリーダーが出てきて「お代はお気持ちで結構です」と言った。「お金を取るの」と驚くと、リーダーは眉を少し動かして「ただより高いものはないないですよ、旦那」と鋭い目をした。

もうひととおり見てしまったし、鬼たちの雰囲気もただならないし、しかたがないので払うことにした。相場がわからないのでとりあえず、100円に消費税分を足して110円を渡すと、それを見た鬼たちが小躍りして喜んだ。その喜びかたが尋常じゃないので、一体小さい鬼たちが何にお金を使うのかと聞いてみると、またリーダーが出てきて「甘じょっぱいせんべいを買うんですよ、旦那」とニヤリとした。まさかそれはハッピーターンのことだろうかと、今になっても気になっている。


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