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ハリケーン。幸せ馬鹿と、恋の行方③

続きです。②はこちら。

サルファーを後にして、一路ダラスへ向かう、カルロスと私。サルファーを出たのが夕方近くだったので、しばらくすると夜に。途中、ガソリンスタンドにとまり、軽く夕食。で、その日の寝床の相談。「とりあえず、ダラスに行けばホテルくらい見つかるでしょ」と思ってたけど、このまま行くとダラスに着くのは結構遅い時間になる。しかも、電話をかけてみた、いくつかのホテルはすでに満室だった。

「どうしようか?」と私。

しばらく間が空いて、ポツリとカルロスが言った。

「ルイサに電話してみようか。。。」

そう。カルロスにはルイサという恋人がいたのだ。私もよく知っていた。コロンビア出身の綺麗な、お姉さん。私と同じ大学で、前年、博士号を取得したばかりだった。その後、ダラス周辺の大学の先生になったが、彼女が、ニューオリンズにいたころ、カルロス、ルイサ、ルイサの娘、私で何度か遊びに出掛けたことがある。

「え、だいじょうぶなの?」と私。

ダラスに行くと決めた時点で、ルイサに連絡をとり、彼女の家に泊めてもらう、というのは、至って自然な流れであるはずだが、それが自然ではない理由が一つあった。ルイサは既婚者なのだ。大学院にいた頃は、旦那さんがダラスで働いていたため、娘さんと二人でニューオリンズに住んでいたが、就職が決まってからは、ダラスの旦那さんの家に戻っていた。

ただ、私も、あまり首は突っ込まなかったが、ルイサと旦那さんの中がうまく行っていないという話は聞いていた。

「状況が状況だけに、たぶん大丈夫だと思うんだよね。。。」とカルロス。

私は翌日、日本に帰る予定があったので、1泊だけの宿を確保すれば、よかった。だから、ルイサの家に泊まれれば、いろいろと都合がよかった。ただ、カルロスにとって、彼女とその旦那さんが住んでる家に、お邪魔するというのは、決して居心地のよい状況ではなかったはずだ。

「とりあえず、電話して聞いてみるよ」と言い残し外に出て行った。ガソリンスタンドのガラス越しに、電話をしているカルロスの姿が見える。笑っているようにも見えるが、泣いているようにも見える、なんとも言えない表情をしていた。電話はしばらく続いた。カルロスは、電話をきって、戻ってくると、複雑な笑顔をたたえ、「ルイサの家に泊めてもらえることになったよ」言った。

そこからダラスまでは、まだ2時間くらいかかった。ルイサの家に着いたのは夜半過ぎ近くだった。ドアを叩くと、ルイサが駆け出て来て、カルロスと私にハグをしてくれた。「みんな、無事で嬉しいわ」と泣きそうな顔をしていた。その後ろにいた旦那さんとも握手をした。「疲れたでしょう。ゆっくり休んで行って」と優しい言葉をかけてもらった。

家の中に入り1時間ほどおしゃべりをして、カルロスと私は、ソファに横になった。「明日、日本に帰るんだ。」と思うと、急に疲れがでた。

翌朝、ルイサの旦那さんが、私を空港まで送ってくれた。カルロスもお供だ。空港で、カルロスと忙しくハグをして、別れた。何を言ったかは覚えていない。多分、泣いてはいないと思うが、心に大きな穴が空いたように感じたのは覚えている。それからの旅の記憶もあまりない。

成田空港に着いたとき、「あぁ、帰って来ちゃった。」という思いがふつふつとこみ上げて来た。”着の身着のまま”と言うが、まさにその通りで、Tシャツ、短パン、ビーサン姿。背中には着替えが2組とノートパソコンしか入っていないスカスカの大型ザック。

あれから、ニューオリンズには帰っていない。

で、恋の行方の話。

私がダラスを発ったあと、カルロスはなんと2ヶ月もルイサの家に居候したらしい。どれだけ、強いハートを持っているのかと、感心した。大学も、ルイサが教える大学に一時転校したらしい。そして、一時転校の学期が終わった後も、ニューオリンズには帰らず、ダラスに残った。

それから、カルロスとも疎遠になり、連絡が途切れた。しかし、2009年くらいだったと思う。突然、メールが送られて来てた。内容はカルロスとルイサの結婚式の招待。目頭が熱くなった。その後は、断続的に連絡を取り合っている。2015年には、私が出張でダラスに行ったので、10年ぶりに二人と再会した。カルロスも博士号を取得し、ルイサと同じ大学の先生になっていた。

終わり





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