自称音楽家


逮捕された男はそう呼ばれていた。
CAのエプロンを盗んだのだという。


彼の経歴を見ると自分よりもっと充実したものだった。彼のことは知らなかったが、同じ界隈で活動していたのだろうということが容易にわかった。

自称音楽家。

彼が犯した罪についてはここでは置いておく。

自称音楽家。

震度1くらいの地響きが自分の中に起こった。


そんな、自称音楽家の生活や考えていることについて綴っていこうと思う。

音大を卒業後フリーランスとして約10年間活動している。

「卒業後はどうする?」

「フリーです。」

「フリーってお前、仕事があるやつが言うんだよ!」

と某奏者に言われその時は憤慨して、なにくそ!と思いすぐに仕事を取れるようになった。

相手が何を求めどんな音を求めているのか感じ取るのは得意だった。
求められることに応えるのが嬉しかった。

10年経って気づいたのだが、それはただ消費されているだけで音楽家として積み重なっているものは皆無に近かった。

人のタイミングや発音にあわせていて気づいたら楽器がヘタクソになっていた。それでも、自分は不器用だけど音は良いんだ。きっとわかってくれる人がいる。と信じていた。

10年目、ゆるやかに仕事が減った。
若いプレーヤーに取って代わられた。

ただ仕事のやり方や誤魔化し方だけ上手くなっていった。


また別の某奏者には

「まぁ、音楽の関わり方も色々あるから。」


と言われた。

誰がそうしたんだ、と思った。
しかし次の瞬間にはすぐに。人のせいにしていてもしょうがないと反省した。

自分しか責任は取れないんだ。

日本を代表する奏者もとても不健康そうに演奏している場合がある。
それは彼らも消費され続けているのだろうと感じる。


この業界はどこに向かうのだろうか。

需要があるものしか生き残れないのか。

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