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暮らしと感情

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東京と離島で二拠点生活中の人間が、暮らしとその中で生まれる感情について近眼気味に綴るマガジンです。週に3度は更新予定。役に立つことは書きません。
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2022年12月の記事一覧

母と二人で熱海旅行をし、ホテルで『天使にラブソングを』を観た話

母と二人で、初めてのふたり旅をしてきた。行き先は、熱海。 熱海は観光地で、非日常的で、けれど箱根とも草津とも違う、ゆるやかな雰囲気をまとっている。一度元カレと行ったことがあるので、よく知ってるのだ。「いつもと違う場所に行きたいわあ」という母と「ゆっくりしたいよねえ」というわたしのニーズが一致した。 大きな皿いっぱいに盛られた金目鯛の煮付けに歓喜し、採算が取れているのか不安になるようなお刺身の盛り合わせに目を丸くする。まんじゅうがふかされ、蒸気が左右からモワモワとあがっている

わたしの旅、チェロの旅

大学生の頃に、オーケストラで欧州演奏旅行をしたことがある。行き先は、ドイツとオーストリア。2月から3月まで3週間くらいの時間をかけて、10都市をまわる旅だった。 今考えても、人より少しそれっぽく楽器が弾ける程度の人間が、よく豪勢な旅に連れて行ってもらえたものだと呆れずにはいられない。わたしがクラシック音楽の本場で演奏するというのは、草野球チームが東京ドームでプレイするようなものだった。 ただ、いくら草野球チームだったとしても、大掛かりなことをするなら準備だって大掛かりにな

穴を笑う

(やってしまった……) 心のなかで静かにつぶやいた。目線の先には、お気に入りのベロアでできたワンピース、そこに線路を敷くように広がった横長の焼跡。 すっかり底冷えのする寒い気候が続いたので、ぼふぼふに着ぶくれするようなセーターに、厚手のワンピースを合わせた。その服装でうっかりストーブの前を横切ったら、金属の熱くなっている部分に裾が触れたみたいで、黒いベロアが手の施しようのないほどしっかりと溶けてしまった。 ショックなときほど声が出ないのは昔から変わらない。心のなかで(ガ

忙しくても枯らさずにいたい、私たちのクリスマス

大人になって良かったことの一つは、自分たちの意のままにパーティーを開けるようになったことだと思う。好きな人を呼んで、好きな食べ物や飲み物を揃え、好きなプレゼントを用意できる。 クリスマスはオットが家にいたこともあって、彼にコックを頼み、夫婦の共通の友人を二人招いてパーティーをした。 友人はふたりとも大学生の頃からの縁で、おのおのを「やまだみ」「むん」と呼んでいる。暖かい季節には屋外でピクニックを、寒い時期には何かと理由をつけてパーティーをする仲間たちで、それ以外のイベントで

そうなるものだという予感

「ゆりちゃん」と呼ばれることの多い一年だった。これまで苗字か、ろくでもないニックネームで呼ばれることの多かった自分にとって、なかなか新鮮な体験だったように思う。 最後にそう呼ばれた記憶は小学生高学年の頃のもの。以降しばらくご無沙汰だった「下の名前+ちゃん呼び」がおよそ十五年ぶりに復活することになるとは。 「ゆりちゃん」と呼ぶのはオット、義両親、そして特別な関係の友人たち。皆「天真爛漫で素直でよく食べるから可愛い!」なんて言ってくる。ちゃん付けで呼ばれ、甘やかされ、褒められ

いい子な私の2022

今日は、2022年12月31日。年末の振り返りを公開している人を多く見かける。1年前の自分だったら、そういうことをやってもいいかな、と思っていたかもしれないが、今年はあまり気が乗らない。 一応、しばらく前に何かの特典でもらった「年末振り返りシート」を、クリスマス前後から数日かけて埋めたりもしてみた。Excelの指定のセルを記入して、1月から12月までを各月ごとに振り返るものだ。 これはなかなか優れもので、1年間の出来事だけでなく、そのときのわたしってどんなこと感じてたんだっ