忙しくても枯らさずにいたい、私たちのクリスマス
大人になって良かったことの一つは、自分たちの意のままにパーティーを開けるようになったことだと思う。好きな人を呼んで、好きな食べ物や飲み物を揃え、好きなプレゼントを用意できる。
クリスマスはオットが家にいたこともあって、彼にコックを頼み、夫婦の共通の友人を二人招いてパーティーをした。
友人はふたりとも大学生の頃からの縁で、おのおのを「やまだみ」「むん」と呼んでいる。暖かい季節には屋外でピクニックを、寒い時期には何かと理由をつけてパーティーをする仲間たちで、それ以外のイベントで会うことはほとんどないのだけれど、死に際の走馬灯が30秒間だとしたら二人とも登場させたいくらいには大切な存在だ。
料理の準備中、肉につけるわさびがないことに気づく。すでに家でくつろいでいたやまだみにお願いして、家に向かってくる途中だったむんに「わさび買ってきて」と連絡してもらう。
むんから「おっけー!一人当たり1本でいい?」と返信が来たらしく、思い切り吹き出す。彼女のこういうところが本当に好きだ。
ちゃんと1本だけわさびチューブを買ってきたむんを迎え、クリスマスパーティーが始まった。テーブルの上に楽しいものと嬉しいものだけが乗っていて、それが本当に幸福だった。やがて、私以外の全員がハイスクールミュージカルを履修済みだということが分かり、YouTubeで動画を流しながらノリノリで踊りだした。クリスマスぜんぜん関係ない。
私は何が何だかわからないまま、けれどキレキレのダンスを踊るオットや友人の姿がとても愛おしくて、シャンパンで真っ赤になった顔でずっとにこにこしていた。
やまだみもむんも終電で帰る女たちだというのに、23時前になってもプレゼント交換をしていないことに気づいた。慌てて、それぞれ用意したプレゼントを取り出す。
やまだみからはかわいいガラスの箸置きをもらった。普段使いもできそうなほど素朴で、それでいてずっと眺めたくなる、静謐なものだった。
そういえば一度、私が撮っているご飯の写真を見た彼女が「箸まわりをもっと映えさせろ」と言っていたような気がする。百均のカトラリー系しか使わず、箸置きなんてとんとご無沙汰だった自分にも、彼女はあたらしい世界を自然なかたちで見せてくれるのだ。
むんからのプレゼントは、テーブルに乗るサイズの観葉植物だった。
「忙しくても枯らさずに済む植物をください!」と花屋さんにお願いしたらしい。なんて奔放で、それでいて的確なオーダーなのだろうか。
「どうやって育てるの」「わかんない、たぶん鉢に育て方を書いた紙、貼ってあるよね」「あ、あったわ」「ちゃんと探してよ」「ごめんて、で、これはなんて名前の植物?」「あ、それは紙に書いてない?じゃあわからないわ」「わからんのかい」
二人は23時半くらいに家の前までタクシーを呼んで「じゃあねー!よいお年を!」と言いながら、ばたばたと去っていった。
改めて植物の育て方を読んでみると、土が乾いたら1週間に一度くらいたっぷり水をやってください、と書いてあった。確かにこれだったら、忙しくても枯らさなさそうだ。
しばらくしてやまだみからLINEが来た。「さっきの植物、友達に聞いたら『シェフレラ系』だって!」
シェフレラ系。名前を聞いてもぴんとこなさすぎて、「知らないんだが!」とげらげら笑った。シェフレラ系の何からしいその観葉植物は、水をたっぷり吸って、テーブルの上でつやつやと緑を輝かせていた。
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