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【小説】チューリップが咲いたなら

堅物(かたぶつ)で冴えない先生は
女子生徒から あまり人気が無かった

私も最初は、ぜんぜん興味が無かった
ただの 普通の先生って印象しかなかった

でも質問や相談に真面目に親身になって答えてくれるし

運動が苦手なのに運動部の顧問を任されてしまった先生は、一生懸命ルールを覚えていた
職員室から運動場までコケそうになりながら、なん往復も走る健気な先生

そんな先生を見て 女子達は やっぱり冴えないね って笑っていた

なんでも一生懸命に真剣に頑張る先生の姿を見ていたら
いつの間にか好きになっていた

冴えない生物の教師に恋してしまった

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

高3の秋 先生に思い切って告白した

直接、面と向かって言えないので
ノートの隅に

先生の似顔絵と一緒に
『先生のことが好きです
LINE教えてください』
と書いておいた

ノート点検が終わって返却された
ドキドキしながらノートの隅に目をやると…

『今日の放課後 職員室まで来なさい』
とだけ書いてあった

ああ、これは…先生 怒ってるな…
そう思った

放課後 職員室に行くと先生達は誰も居なかった

なーんだ 職員会議か…

先生の机に ふと目をやる

先生を好きになってから、職員室に行く度に先生の机や座っている姿を見るのが癖になっているのだ

きちんと整頓された机の上に
小さな紙袋が置いてあった

近づいてみると紙袋に
『田中さんへ』 と書いてあった

えっ!?なんだろう

職員室から出て小走りで教室に戻り
紙袋の中を見るとメモと球根が入っていた

『何色のチューリップが咲いたか知らせに来てください
ちょうどキミの大学の入学式には
綺麗に咲くんじゃないかな』
と書いてあった

先生 怒ってなかった 良かったぁ

私はホッとして紙袋を抱きしめて帰った

次の生物の授業
私は、期待と恥ずかしさでソワソワしていた
先生は、普段と変わらず淡々と授業を進めていた

少しは反応してよ…私…バカみたいじゃん…

俯(うつむ)いたまま その日の授業は終わってしまった

走って家に帰り 机の引き出しから
先生がくれたメモを取り出し
声にだして読み
そして…泣いた…

ひとしきり泣いた後
球根を取り出し
ふわふわの土が入った植木鉢に植えた

何かある度、球根に話しかけた

「合格できたよ先生」

「今日、目が合ったね 先生」

「卒業式の後…話しかけられなかった…もう会えないのに…」

「先生…大好き…ずっとずっと…これからも好きでいていい…ねぇ…」

いつしか球根が 私の御守りのようになっていた

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

チューリップが綺麗に咲いた日

大学の入学式へ出席し
その後、母校へと向かった

正門に人影があった
見慣れた…
今では 見れなくなった恋しい影

「先生!!」

『入学おめでとう』

「先生 覚えてくれてたの?」

『もちろんだよ』

「あのね 可愛いピンク色のチューリップが咲いたよ」

『そっか ピンク色だったか
ピンク色のチューリップの花言葉
知ってるか?』

「知らない」

『愛の芽生え、誠実な愛だよ
ピンク色が咲くのがわかっててキミに渡したんだ』

「えっ?!それって…どういうこと?」

『僕もキミのことが好きだ』

「本当に…嬉しい(泣)」

『ごめんな あの時は ああするしかなかったんだ
先生と言う立場では、あれが精一杯だった』

「うん…うん」

『今は 教え子と元高校教師』

「えっ!?先生 辞めたの?!」

『キミと真面目に向き合いたかったから』

「ありがとう」

『塾の講師をしてるんだ
やっぱり ここでも女子生徒に人気ないけどな』

「私には めっちゃモテてるからいいじゃん」

『由希(ゆき)にモテれば充分だな』

「あっ先生 私の名前 呼び捨てにしてくれた(照)」

『もう先生じゃないだろ
彼氏の 正隆(まさたか)だ』

先生 いや 正隆は
私を優しく抱き寄せた

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