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「シーチキン」 けっち

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Photo by Jet Kim on Unsplash

シーチキンという名前をきくたびに、ハンガリー旅行のことを連想してしまう……と書くと、ちょっとイヤミでしょうか。ハンガリーへ行ったことがあるんです。そのときに、地下鉄(たしか当時はタダで乗ったような記憶があります)のなかで「富士山」と大きく漢字で書かれたTシャツを着た男性が、僕らをみつけるとものすごくにんまり笑って、自分のTシャツを指さしたのです。

彼は「富士山」というTシャツを誇りに思っているようでした。日本にきたことがあるのかもしれないし、日本へ行った人がおみやげで彼にプレゼントしたのかもしれません。そして「フジヤマはニッポンイチ」ということを彼は知っていて、僕らがアジア系だったので(ずばり日本人)うれしそうに指をさしたのでしょう。ひょっとしたら、中国人や韓国人をみても彼は「富士山」Tシャツを誇らしげに指さしていたかもしれません。

僕らが海外で日本語のシャツをみると、なぜかそれが妙におかしく感じてしまうように、外国人はシーチキンとよばれる缶詰をどう思うんだろう?

大人になってやりなおし英語の勉強をはじめたとき、妙にシーチキンのことがあたまに浮かびました。「海の鶏肉」いってみれば、外国人が「海の鶏肉」と日本語でかかれた缶詰を手に取って「ウミノトリニク」といっているようなもの。それがつまり「シーチキン」ではないでしょうか。

そのことを思いついて以来、シーチキンの缶詰をみるたびに「ウミノトリニク」と言って得意げになっている外国人の姿をなぜか思い浮かべてしまって、それは僕に「富士山」のTシャツをものすごくうれしそうに着ていたハンガリー人のことを思いださせてくれます。

でも旅行って不思議ですね。ハンガリーへ行ったのは、詳細は省きますが20年前のことで、本当ならもっとたくさんの思い出があるはずなんです。大きな城もみたし、地元の巨大なジョッキでのむ黒ビールやシチュー?の味もうっすらと覚えています。でも、僕は結局のところ「富士山のシャツのおじさん」のことばかりすぐに思い出していて、それが一番僕と結びついてしまっています。

きっと、日本旅行にきた外国人のなかに、日本の景色や食べ物やショッピングをどれも楽しんだけれども、なぜかそれらの記憶よりも

「シーチキン」

と日本人みんながよんでいて、それはたしかにツナなのでなじみはあるのだけども、「シーチキン(海の鶏肉)」という妙なネーミングが頭にこびりついてしまって、旅行からかえってツナをみるたびに「ああ、ジャパニーズの奇妙な英語を思い出したよ、ウミノトリニク」といって笑いあっている外国人の姿が僕には想像できます。

もちろんシーチキン、大好きです。


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