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東京に居たこと

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記事一覧

1.上京と肌荒れ

1.上京と肌荒れ

平成21年3月。僕は実家の京都から上京することになった。

あと1ヶ月で二十歳になる時だった。

大人になった僕に、まるでこれが大人の洗礼だと言わんばかりの試練がたくさん襲いかかってきた。

僕は僕なりに、一生懸命それらの試練に立ち向かおうとした。

自分なりに、ひとつひとつの物事に真剣に向き合おうとした。

でも、大人の世界は甘くなかった。

結局、僕はボロボロになって実家に帰ることになる。

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2.クビ

2.クビ

とにかくネットで肌荒れを治す方法を調べることにした。

調べている内に、ニキビにはいくつかの種類があるということを知った。

僕の場合だと、二十歳を越えた頃からできる首もとのニキビだったので、それは大人ニキビと言うらしい。

確かに高校生の頃に頬っぺたの辺りにできていたニキビとは違う気がした。

大人ニキビはストレスや生活環境の変化、食生活や睡眠不足など様々な原因によってできるらしい。

東京へ来

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3.二度目の上京

3.二度目の上京

目覚まし時計に起こされるのではなく、勝手に目が覚めるまで寝た。

お腹が空いたら、家にあるものを食べた。

眠たくなったら眠り、もう眠れなくなったら起きた。

映画を観たり、音楽を聴いたり、本を読んだりして過ごした。

気が向いたら適当に散歩もした。

そんな毎日を過ごしていると、だんだんボロボロになっていた身体や心が元気を取り戻して行くのを感じた。

あれだけ悩んでいた肌荒れも、少しずつ治って行

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4.オーディション

4.オーディション

僕の家にシャワーを借りに来たリューイチがものすごい情報を仕入れてきた。

大阪で大手芸能事務所による全員オーディションというものが開かれるらしい。

全員オーディションというのは、文字通り全員が審査員の前でオーディションを受けることができるもので、一人1分間の自己PRの時間が与えられる。

これは僕にとって非常に嬉しい知らせだった。

いくら履歴書を書いて送っても一向に返事は来ず、会ってすらもらえ

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5.芸能事務所

5.芸能事務所

髪を切りに行こうと思った。

髪を切ってお洒落になることは大切かもしれない。

                                            

僕は履歴書に使う写真を撮影する時にヘアセットをしてもらった美容室を予約して原宿に向かった。

お洒落な美容室で僕の存在は浮いていたけど、髪を切ってもらったら今までよりも爽やかになった気分がして嬉しかった。

          

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6.ホスト

6.ホスト

リューイチが二年働いたパチンコ屋を辞めることになったので、二人で一緒に新しいバイトを探すことになった。

どうせならやったことのない仕事が良い。あとは俳優として活動することに繋がる仕事。お金がないからできれば日払いでもらいたい。

二人で色々と意見を出し合った結果、ホストで働くことになった。

                                           

ネットで情報を

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7.アパレル

7.アパレル

次に僕らは服屋さんで働くことに決めた。

服のことはリューイチの方が詳しいのでどこで働くかは全てリューイチに任せることにした。

                                              

数日後、大きなアパレルブランドの合同面接に行くことになった。

電車に乗り、リューイチに連れられて綺麗なビルの会議室のような場所に入った。

たくさん机とイスがあり、お洒落な

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8.休日

8.休日

やっと給料日になった。今日は休みだった。

僕は昼前に起きてコンビニに向かった。

ATMでお金をおろしてタバコを買ってから駅前のマックに向かった。

レジでダブルチーズバーガーのLセットを注文する。

トレーを持って2階の喫煙室に入った。

コーラを飲んでポテトを頬張り、タバコに火をつける。

至福の一時だった。

                                        

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9.坊主

9.坊主

朝になり、カラオケから出て、旅の支度をするためにとりあえずお互いの家に帰った。   

僕はあまり荷物を多くしたくなかったのでボストンバッグに服を詰めて家を出た。

                                               

駅で待ち合わせをした。

                                                  

リュー

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10.ゴールデンバット

10.ゴールデンバット

ホテルをチェックアウトして僕らは熱海の駅前にある交番に向かった。

交番でお巡りさんにヒッチハイクをして沖縄に行きたいと相談すると、静岡の沼津市に旧国道1号線という道路があるので、それをずっと進むと関西方面に行くことができると教えてくれた。

僕らは旧国道1号線を目指し、電車に乗った。

                                                

沼津駅に着

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11.つるぎの剣

11.つるぎの剣

旧国道1号線に戻った僕らは、改めてヒッチハイクをスタートし、最初に学校で給食を作る仕事をしているおばさんの車に乗せてもらった。

おばさんは遠くに行くならトラックに乗せてもらった方が良いと言い、車通りの多い大きな道に連れて行ってくれた。

そこには大きなトラックが結構走っていて、さっきよりも威圧感を感じた。

僕らは信号の前で立ち止まり、チャンスを伺った。

信号が赤になり、ちょうど大きなトラック

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12.ファミレス

12.ファミレス

朝になり、僕とリューイチはフェリー乗り場へと向かった。

フェリー乗り場で沖縄までの料金を見て、お金が全然足りないことを知った。

服屋で働いた給料が入るのがだいたい二週間後なので、そのお金が入ってから沖縄へ行こうということになった。

僕らは残り千円くらいのお金を持ってスーパーに行き、出来るだけ安い食べ物を買い込んだ。

スーパーの外にあった段ボールを一枚ずつもらい、寝場所を探した。

歩いてい

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13.キリヤさん

13.キリヤさん

東横インに泊まったりご飯を食べたりしている内にまたお金がなくなってしまった。

最後のお金でリューイチとうどんを食べてから、僕らはバラバラで行動することになった。

お金がなくなってしまって、一人になり、どうにもならない状況になれば自分が変わるんじゃないかとひそかに期待していた。

何かあればメールをすると言ってリューイチと別れた僕は、久しぶりに一人ぼっちになった。

              

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14.財布

14.財布

リューイチが親から仕送りをしてもらったこととリューイチが大切にしていたネックレスをリサイクルショップで売ったことにより、僕らは給料日まで何とか耐え忍ぶことができた。

最後の数日間は鹿児島中央駅のどこかで眠った。

昼間はだいたい図書館でこっそりケータイを充電しながら時間を潰した。

僕はベンチに座ってぼーっとしていることが多かった。

そうやって一日一日をやり過ごし、やっと明日給料が入るという日

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