見出し画像

【観劇記録】舞台『OUT OF ORDER』世田谷パブリックシアター

本記事は、あくまでも個人的な主観による雑記である。

『Out of Order』は、“笑劇王”の異名を持つイギリスの劇作家レイ・クーニーの戯曲である。

主人公サイドが、とにかくその場を取り繕わねば誤魔化さねばと嘘に嘘を重ねて、次々と登場人物たちを巻き込み話がどんどんややこしくなっていく。そんな喜劇をワンシチュエーションで展開させる作風で、レイ・クーニー作品は世界規模で絶大な人気を誇っている。日本でも彼の作品は度々舞台化されており、『Out of Order』に関しては、2018年に堤泰之演出、加藤健一主演で本多劇場にて、さらに2019年には野坂実演出、山寺宏一主演で三越劇場にて上演された。

2023年11月・12月に上演されているのが、マギー演出、中村倫也とユースケ・サンタマリア主演の舞台『OUT OF ORDER』だ。

この舞台作品、ビジュアルの背景にエメラルドグリーン、タイトル文字にゴールドが使われており、それが洒落た印象でとても目を引く。
スーツを着込んだ男二人、ユースケ氏のニヒルな笑顔と、中村氏の生真面目そうな雰囲気が良いコントラストである。
その他のキャストとして、山口紗弥加、猫背椿、加治将樹、春海四方、平井珠生、森下能幸、坂田 聡、トリンドル玲奈が出演している。  



2023年12月9日。

世田谷パブリックシアターは、三軒茶屋駅と地下通路で接続された複合ビルのキャロットタワー内にある劇場だ。座席数は約600席で1階から3階席まである。

1階J列のセンターブロックより観劇した。

なお、A~F列はフラットでG列から段差が設けられている構造なのだが、段差が低いのか、前方の観客の頭で舞台が多少見えづらかった。自分の座高の問題かとも思ったが、前の列に座る客たちにも頭を左右に動かしながら観劇する仕草が見られた。ただ、2階席と3階席については高めの段差がしっかりとあるようだ。


国会が行われている夜、ユースケ氏演じるイギリス与党の副大臣リチャードは、ウェストミンスターホテルのスイートルームにいた。そこに「ホテルに侵入者がいるようだ」と部屋の確認に訪れる坂田聡氏演じるホテルの支配人。なにやら慌てているリチャードは、支配人を早く追い出したい様子。そんな場面からストーリーは始まる。
実はリチャードは、野党の秘書で愛人である、山口紗弥加氏演じるジェーンを部屋に呼んでおり、国会には出席せずに不倫相手との一夜を過ごすつもりだったのである。
支配人を追い出し一安心、とはいかず、実はジェーンがホテルのカーテンを開けた時、とんでもない光景を目の当たりにしていた二人。その状況をなんとかしようと、秘書である中村倫也氏演じるジョージを呼び出し、「政府存亡の危機だ」とリチャードは告げる。
そこから事態は、ホテルの従業員たち、ジェーンの夫、リチャードの妻、ジョージの母の介護士を巻き込んで次々とすったもんだの展開をしていく。


まず思ったことは、リチャードという役がユースケ氏に“ハマっている”なということ。いい加減で無責任、調子が良くて自己中心的で、でも憎めない。全くもって善人ではないしやっていることはめちゃくちゃなのだが、悪人として憎む気持ちは湧いてこない、それどころかチャーミングさを感じてしまう。その絶妙な塩梅がユースケ氏だからこそ成立している。

秘書のジョージは、巻き込まれ体質というべきか、自らの意思が弱い人間というわけではないのに、純情であるが故にリチャードの無茶振りを突っぱねることもできずどんどんどつぼにはまっていく。中村氏自身はメディアを見る限り、飄々としていながら芯はブレない印象があり、ジョージに似ているかといえばそんなことはない。しかし舞台上の彼は、どうしたってリチャードに振り回されてしまう、気の毒ではあるが見事な巻き込まれっぷりを見せる人物で、その仕上がりはもはや“ハマり役”だと思わせてしまうほどだ。
中村氏が直近で出演していたドラマ『ハヤブサ消防団』(2023年7月〜9月、テレビ朝日系列)はミステリーで、演じていた小説家の三馬太郎は、喜怒哀楽をあまりわかりやすく出さないインテリ派であった。そんな三馬も“ハマり役”と思わせる佇まいであったので、中村氏の幅の広さが感じられた。

そして、そんなユースケ氏と中村氏のテンポ感がしっかりと合っており、台詞の言い回しも滑らかで終始淀みなかった。
なおユースケ氏は、「滑舌があやしいか?」と一瞬心配になっても実際に躓くことはなく、やはりプロだと思わせた。


主演の二人の他に芝居を楽しみにしていたのは、山口紗弥加氏。
彼女の芝居は様々なドラマで観てきたが、今回、ドラマでの発声とはガラッと違っていた。洋画の吹き替えのような煽情的な喋り方で、『OUT OF ORDER』というイギリス喜劇の世界観をキャストの中で最も意識しているように感じた。逆にそれが少し浮いている印象も抱いたのだが、後に登場する加治将樹氏演じる夫のロニーとバランスが取れていた。


また、舞台初出演となるトリンドル玲奈氏もどのような芝居を見せているのか楽しみにしていた。
彼女はこの舞台作品の中で、清涼剤のような爽やかさとカイロのようなあたたかさと、なにより規律を持った存在だったように思う。飾らず可愛らしいビジュアルと雑味のない声や話し方は、嘘を重ねて入り乱れたワンシチュエーションにおいて、良い意味で異質であったし、凛と立つ存在であった。


また、森下能幸氏演じるウェストミンスターホテルのウェイターが、なんとも個性的で癖になる人物であった。リチャードたちを苛立たせながらも、その場しのぎの作戦のために使われたり、実はチップ目当てで使う側になっていたり、そして度々話をややこしくする厄介な存在だ。
森下氏は経験豊富な俳優であるが、意外にも舞台出演はさほど多くはないようで、デビューした1984年から所属していた劇団「ランプティ・パンプティ」を1987年に退団後は、映画やドラマへの出演がほとんどである。また舞台での芝居も見たいと思う役者の一人だ。


力のある俳優陣の中で、多少力不足ではと気になってしまったのは、メイド役の平井珠生氏。
役自体が特徴的ではあるのだが、どんな役であれその背景の人物像に深みがほしい。しかし全面に“演技しています”という感じだけが出ており、自分のものにできていない印象で正直残念であった。


その他に全体として一つ感じたことが、役名に違和感がないなということ。日本人の名前ではないが、そこに引っかかりを覚えることがなかった。その点も考慮したキャスティングであったのかなと考えると妙技である。


クライマックスは、大団円、とまでは言えないかもしれないが、なんだか「Merry Xmas!」と言いたくなる。
登場人物にとってはややこしい展開だが、作品の内容としてはわかりやすく、楽しく笑えるコメディであるので、家族や恋人と一緒に、また「人生で舞台を観たことがない」という人を連れて観るにもとても丁度良い作品かなと思う。

東京公演は12月24日まで、その後12月28日から30日まで大阪公演を予定している。
立ち見席や当日券も用意があるので、この冬、気心の知れた人を誘って劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。


■Information

『OUT OF ORDER』

【東京公演】

公演日程
2023年12月7日(木) ~ 2023年12月24日(日)

会場
世田谷パブリックシアター

料金 (全席指定・税込)
S席 9,900円 A席 8,800円
※未就学児入場不可

上演時間
一幕 70分 二幕 60分

当日券
公演当日抽選


【大阪公演】

公演日程
2023年12月28日(木) ~ 2023年12月30日(土)

会場
森ノ宮ピロティホール

料金 (全席指定・税込)
12,000円

問合せ先
キョードーインフォメーション 0570-200-888 (11:00~18:00※日祝休業)


【作】
レイ・クーニー

【演出】
マギー

【出演】
中村倫也 / 山口紗弥加 / 猫背椿 / 加治将樹 / 春海四方 / 平井珠生 / 森下能幸 / 坂田聡 / トリンドル玲奈 / ユースケ・サンタマリア

【公式HP】
https://outoforder2023.com

この記事が参加している募集

舞台感想

いただいたサポートはクリエイターとしての活動費(舞台観劇)に使わせていただきます。