本当にオススメ映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」~しみじみと沁みる秀作です~
同じく今年のアカデミー賞で5部門にノミネートされた「アメリカン・フィクション」とほぼ同系のじんわりと心温まる秀作。主演がジェフリー・ライトに対しこちらはポール・ジアマッティと、中年のまるでイケてないオヤジが主役ってのも共通で、ともに名優の滋味溢れる演技に心が吸い込まれるのが秀作たる所以。2人ともにオスカー主演男優賞のノミニーってのもお見事です。
東部の名門全寮制高等学校が舞台で、クリスマス休暇に家に帰れない生徒の面倒を見る羽目になった教員って設定。約2週間のホリデー休暇を観客も一緒に味わう構造で、クリスマスのスタンダード曲が全編を彩る。伝統を誇る立派な校舎の佇まいからキャンパスの雪模様、そしてボストンの冬景色が妙に郷愁を感じさせる美しくに満ちている。後半ボストンで映画館に入るシーンで上映中の作品が、当時人気絶頂のダスティン・ホフマン主演の「小さな巨人」1970年。で、当時の懐かしい風俗が再現され、道路には大型のビュイックのような車がのさばり、生徒達の多くは長髪(ロン毛は後の時代の言葉)、ケータイのない時代が羨ましくもある。ユニバーサル映画のロゴも当時のものを使い、ご丁寧にフィルム上映のようなノイズまで再現する手の込みよう。そのまんま70年代の作品ですと通用しそう、やたら喫煙シーンの多さからも。
居残り組は当初5人だったのが、リッチマンの父親が専用ヘリでスキーツアーに誘った挙句、生徒は長身のアンガス一人に。結局、古代史教師のハナムと給食料理長のメアリーの3人がストーリーの骨子に絞られる。ゆうまでもなく、超高額授業料を要するエリート校で、皆富裕層の子弟ばかり。厳しい規則とシビアな能力が必須ですが、一部には多額の寄進により入学を赦される例外もあるのは、日本も同じ。
全寮制ハイスクールのバートン校のポリシーの1つに嘘をつかない。この言葉に反する事態が3人それぞれから浮かび上がる作劇です。殆ど3人のグループ芝居の様相で、それぞれに見せ場を配する。17歳にしては大人びたアンガスはそれこそ見た目だけで、無軌道な子供じみた行動には私達日本人からすれば、いちいち苛つくものばかり。それが次第に成長してゆくのが本作の見どころでもある。当時はベトナム戦争真っ只中、本作にもその影がのしかかる。メアリーの息子は本学に在籍したにも関わらず資金的欠乏により徴兵され、ベトナムで命を無し、彼女の喪失感が大きくクローズアップされる。にも関わらず太々しい程の佇まいの存在感演技が凄く、アカデミー助演女優賞の受賞を納得させる。
それにしても映画の冒頭から生徒達から斜視、斜視と差別丸出しで、ご本人登場以前からこの有様。でやっと登場のポール・ジアマッティのアップが、いよいよもってのラストで再び効いてくる仕掛けが、ホロリとさせられる。ただし、お涙頂戴のような厭らしさが一切ないのが最大のポイントで、しみじみとウィスキーでも舐めたくなるのです。なにも激しいドラマなんて無くったって、生きてゆく勇気を十分に与えてくれる作品なのです。長年勤めあげた「聖職の礎」を生徒一人を庇う為に失っても、ブランデー・ レミー マルタンをで口を漱ぎペッと吐き出す強さが素晴らしい。
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