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一翻訳者の躁うつ病体験談

心療内科&公費負担制度のすすめ

もう15年以上も前になりますが、私は躁うつ病(双極性障害の2型)で2年ほど治療を受けていたことがあります。

発症のきっかけはおそらく仕事のストレスで、急激に忙しくなったころにハイに陥り、その反動なのか、ひと息ついて次の仕事に移ったときにローに落ちました。

ハイのときは自分がおかしいことに気づかないので、心療内科に行ったのはローのときです。そのため、最初の診断は「うつ病」でした。

精神疾患の知識がほぼなかったので、最初は「私がうつ病になるはずない」と否定する気持ちが強く、心療内科に行くことにも抗うつ剤を飲むことにもとても抵抗がありました。

でも、治療を受けはじめてから、うつ病も躁うつ病も誰でもかかる可能性のある病気だということ、心や気持ちの問題ではなく、脳という臓器の問題だということがわかりました。

躁うつ病のことを紹介している厚労省のサイトにも、こんなふうに書いてあります。

双極性障害の原因は、まだ解明されていません。

しかし、この病気は精神疾患の中でも脳やゲノムなどの身体的な側面が強い病気だと考えられています。

ストレスが誘因や悪化要因になりますが、単なる「こころの悩み」ではありません。

ですから、精神療法やカウンセリングだけで根本的な治療をすることはできません。

また双極性障害は、どんな性格の人でもなりうる病気です。

脳という臓器が関係する病気、つまり内科の病気である以上、基本的に薬を飲むしかありません。

ですから、もしうつ病や躁うつ病を疑うような状態に陥っている方がいらしたら、早めに心療内科へ行って治療を開始することをおすすめしたいです。

(カウンセリングだけで治る方もいるかもしれませんが、少なくとも私はだめでした。)

もうひとつおすすめしたいのは、精神疾患の治療費が安くなる公費負担制度(自立支援医療)です。

私もこの制度を利用し、通院費や薬代が減額になりました。経済的な負担が減るだけでも気分的にぜんぜん違うので、日本に住む者の当然の権利と思って遠慮せずに使ってほしいです。

私の「うつ」と「躁」

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私の場合、うつのときは暗いことばかり考え、一日の大半をただソファにうずくまって過ごしていました。音楽を聞くのもつらくて、テレビもほとんど見られませんでした。テレビ番組って、ニュースであっても、たいてい音楽がかかっているんですよね。バックミュージックが流れていないニュース番組はNHKくらいだったと思います。

それから、私だけかもしれませんが、元気そうな「!」という文字を見るのもつらかったです。今は「!」なんて使いまくっていますし!!!(←このとおり)、音楽も聞きまくっていますが(とくにハロプロの曲♪)。

いっそ今すぐ死んでしまいたいと思いながらも、なぜか将来のことが不安でたまらなく、不安のせいで物理的に胸が苦しなるという体験をはじめてしました。

逆に躁のときはハッピーそのもの。根拠のない自信に満ちあふれ、やたらと友人に電話をかけたり、偉そうなこと言ったり、いつもは買わないような高い服を買ったり……。世界一周旅行に行かせてくれないなら離婚すると言って、夫や義理の両親を困らせたこともありました。

そのときのことをクリニックの先生に話したら、診断名が「双極性障害」に変わりました(幸い、症状が重いほうの1型ではなく、軽いほうの2型でした)。

その後、抗うつ剤が効きすぎて見事に躁転。またもや「ハッピー! 私は万能!」状態になり、おかしいと気づいた夫にむりやりクリニックに連行され……。思い出すとイタすぎて、いまだに穴があったら入りたい気持ちになります。被害にあったみなさん、ごめんなさい。

仕事のこと&その後

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結局、症状が改善して気分が安定するまでに約1年、医師から「通院も薬も終了」と言われるまでに約2年かかりました。再発の可能性はもちろんありますが、幸い、この15年くらいはずっと落ち着いています。

うつ病も躁うつ病も、症状や経過は人によって違いますし、クリニックのサイトなどを見ると、私のように双極性障害で断薬できるケースはそう多くはないようなのですが、それでも誰かの励みや参考になるかもしれないと思い、ちょっと体験談をnoteに書いてみました。

実を言うと、詳しい体験記を2016年にブログで公開しています。なんとなく恥ずかしくて匿名にしているのですが、もし私の知り合いで、長い駄文を読みたいという奇特な方がいらっしゃいましたら、お手数ですが私までご連絡ください。URLをお知らせします。

ちなみに、編集者さんにはうつの真っ只中のときに病気のことを打ち明けました。理解のあるかたで、すんなり受け止めていただけたので、もっと早く相談すればよかったーと思ったことを覚えています。

その後、編集者さんが忙しくなり、うまい具合に出版スケジュールも後ろ倒しになったのですが、いま思うと、私の不調を気遣って後ろにずらしてくださったのかもしれません。おかげで、かかえていた仕事はなんとかやりとげることができました。

仕事の具体的な面ではっきり覚えているのは、うつのせいで判断力が鈍り、「である調」を「ですます調」に直すことさえまともにできなくなっていたことです。このとき、師匠の金原瑞人先生に会って相談したら、先生は私の訳文のプリントを見て、その場で「ですます調」にぱぱっと直してくださいました。

また、調子がよくなってきたころ、金原先生がリーディングの仕事(原書のあらすじや感想を書く仕事)をくださり、それをやりとげられたことが自信回復につながったことも覚えています。

当時の編集者さん、金原先生、見守ってくれた家族や友人たちに、あらためて感謝します。

今はすっかり元気ですし、仕事もキャパを超えないように心がけていますので、みなさまどうぞご心配なく!

補足

※双極性障害の詳細については、本文中でも紹介した厚労省のサイトや、信頼できる病院・クリニックのサイトをご覧ください。

※断薬については、兵庫県のクリニックの「双極症「寛解したら断薬できる」はホント?断薬できる可能性のある人とは?」というページが参考になりました。

※自己判断での断薬はけっしておすすめしません。薬を減らしたい、やめたいと思われたときは、ぜひ医師と相談してください。