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実は「ナルニア」も「指輪物語」も知りませんでした

児童書の翻訳者としてお恥ずかしい話ですが、実は私、いいトシした大人になるまで「ナルニア」も「指輪物語」も「ぐりとぐら」も「がらがらどん」も知りませんでした。

うそでしょーとよく驚かれますが、残念ながらほんとです。

なぜ知らなかったのかというと、やはり知る機会がなかったからとしか言えません。家庭でも学校でもそういう本の話は聞いた記憶がありませんし、そもそも親から絵本の読み聞かせをされたことすらありませんでした。

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私は福島県の福島市に生まれ、宮城県の大河原町というのどかな田舎で育ちました。上の写真は、その大河原町が誇る「一目千本桜」と蔵王山と白石川を写したものです。叔母が額に入れてプレゼントしてくれたので、東京の仕事部屋に飾ってあります。

田舎の小学校でも、おそらく図書室には「ナルニア」などがあったのでしょうが、当時の私は兄弟や友だちと外で遊ぶほうが楽しく、図書室とはあまり縁がありませんでした。

本をよく読むようになったのは、中学校に入ってからです。新井素子、氷室冴子、星新一などにはまり、友だちと感想を言い合ったりしました。つまり、いわゆる児童書はほぼすっとばして、いきなり小説にいってしまったわけです。

近くの白石市の高校に入ってからは、なぜか海外の作品ばかり気に入り、「赤毛のアン」シリーズのほか、オースティン、ブロンテ、ドストエフスキー、デュマなどの純文学、ルブラン、ドイル、クリスティなどのミステリーをよく読んでいました。

英語は小学生のころから興味があり、兄の影響でよくビートルズを聴いていました。意味もわからず歌詞をカタカナでノートに書いて、レコードといっしょに歌っていたのを覚えています。中学・高校でも英語を学ぶのが楽しく、リンガフォンの通信教育を受けたり、オーストラリアの女の子と文通したりもしていました。

そんなこんなで、弘前大学で英米文学を学ぶこととなりました。卒論は「A Study of Jane Austen's Landscapes in Sense and Sensibility」。ジェーン・オースティンの『分別と多感』における風景描写について書きました。英語で書いた学生は私くらいだったので、これはちょっとした自慢です。

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卒業後は、英語を使う仕事ができたらなと思いつつ、あまり英語とは関係のない電気通信会社に入社。その後、旅行会社への出向を希望したらうまい具合に通り、そちらでカウンター業務のほか海外添乗なども経験することになりました。台湾、シンガポール、グアム、アメリカ、香港、韓国、バリ島など、いろいろなところに行きました。

そんなある日、新聞で「翻訳実力診断テスト」「無料」なる言葉を目にしました。このときはじめて「翻訳」という仕事を意識したように思います。テストを受けてみると、「才能あり」というような返事が来て、まんまと通信教育を受講することとなりました。

そしてまた新聞のチラシで、翻訳教室の案内を発見。プロの翻訳家が直接教えてくれるというので、通信教育からそちらへシフトすることにしました。その翻訳家が、熊谷鉱司先生(↓)です。熊谷先生には2年ほど教えていただきました。

一方で、パソコン通信「ニフティサーブ」の「翻訳フォーラム」の存在も知り、すぐにパソコンを買って入会! すでに翻訳の仕事をしている方や、これからしたいと思っている方とつながり、世界が一気に広がりました。

翻訳フォーラムで知り合った夫と結婚し、仙台の会社を退職して東京に移り住んですぐ、翻訳フォーラム内で児童書専門のクラブを作ろうという話が盛り上がりました。そして1997年の10月に「やまねこ翻訳クラブ」が誕生します。

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私はこのクラブではじめて児童書のおもしろさを知りました。みんながすすめてくれる児童書を片っ端から読んで、すっかりはまってしまいました。このときようやく「ナルニア国物語」や「指輪物語」というシリーズがあること、「ぐりとぐら」や「三びきのやぎのがらがらどん」という絵本があることを知ったわけです。遅っ!

翌年にはメールマガジン「月刊児童文学翻訳」をクラブの仲間と立ち上げ、出版社に取材したり、プロの翻訳家にインタビューしたり、洋書レビューを書いたりという作業をしながら、児童書の翻訳家を目指すようになりました。

また、翻訳雑誌のライターの仕事を細々としながら、フェロー・アカデミーで亀井よし子先生、タトル・モリ エージェンシーの翻訳講座で金原瑞人先生にも学びました。

そして2000年に、持ち込みがきっかけで初の訳書『サラの旅路』(小峰書店)を出版。以来、主に児童書の翻訳を続けています。

自分の読書体験からすると、児童書の中でも中高生向けを手がけたほうがいいんじゃないかと漠然と思っていたのですが、今のところほとんどが小学生向けです。小学生のころにあまり本を読んでいなかった自分が……と思うとなんだか不思議ですが、とても楽しく訳せているので、性に合っているのかなと今は思っています。


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