エキゾチック演算遊び(2:max-times)

前回のトロピカルじゃない計算は、計算の面倒さをトロピカルと逆に上げて、めんどくさくした代数でした。
結果として、結合則が乱れ、分配則に右側からという制限のつくちょっと面倒な数学になってしまいました。

テスト用。

さて、今回も本編中で触れた別の演算を考えてみようと思います。max-times(cross)代数です。

max-timesは前回の「思いつきPolar代数」と違って、ちゃんと研究もされているようです。
されているようなのですが、トロピカル、つまりmax-plusやmax-minと比べると、ほとんど触れられてないなという印象です。

基本となるルールは以下の通り

・足し算はmaxに置き換えるよ
・掛け算は掛け算のままにするよ

こんな感じなので、トロピカルほど見た目が変なものにはなりません。
記号はトロピカルと被りますけど、和は$${\oplus}$$、積は$${\odot}$$とします。

各演算の単位元をみてみると、

$$
\begin{array}{}a\oplus -\infty&=&\max(a,-\infty)&=&a\\ a\odot 1 &=&a\times1&=&a\end{array}
$$

というわけで和単位元はトロピカル和同様$${-\infty}$$、積単位元は通常積同様$${1}$$です。

吸収元としての性質は、

$$
a\odot-\infty=a\times-\infty=-\infty
$$

です。ちゃんと満たしてます。
トロピカルではトロピカル積単位元$${0}$$がトロピカル和で特別な役を演じないという話をしましたが、今回も同様です。結局和が$${\max}$$である以上仕方がないようです。

結合法則はそれぞれの演算で成り立っているでしょうから、分配法則を見ます。

$$
\begin{array}{}a\odot(b\oplus c)&=&a\odot\max(b,c)\\ &=&\begin{cases}ab&(b>c) \\ac&(b< c)\end{cases}\end{array}
$$

一方、分配を行うと、

$$
\begin{array}{}a\odot b\oplus a\odot c&=&\max(ab,ac)\\ &=&\begin{cases}ab&\begin{matrix}(a>0,b>c)\\(a< 0,b< c)\end{matrix}\\ac&\begin{matrix}(a<0,b>c)\\(a>0,b< c)\end{matrix}\end{cases}\end{array}
$$

このように$${a}$$の正負で結果が変わります。
具体的には、

$$
\begin{array}{}-2\odot (3\oplus 4)&=&-2\times4&=&-8\\(-2)\odot 3\oplus (-2)\odot 4&=&\max(-6,-8)&=&-6\end{array}
$$

こんなふうに、分配法則が崩れてしまいます。ちょっと嫌ですね。
簡単に回避する方法としては、対象から負の数を除き、0および正の数のみとすることでしょうか。
そもそも負の数はトロピカル積=通常和の逆元のために必要だから「入れるかぁ」としたものですから、max-times代数ではあえて入れない選択も可能です。

ただし、仮に負の数を認めないなら、和の単位元$${-\infty}$$もいていいのかちょっと不安になります。
実際問題として、負の数以外、すなわち非負の数を対象とするなら、和の単位元は$${0}$$でも構わないはずです。
この考えだと、和の単位元が積で零元(吸収元)にちょうどなってくれるので、通常演算との対応が取りやすいかもしれません。


max-times代数はmax-plus代数に比べて、負の数を使わないという制約がつきそうですが、それさえのめばmax-plusみたいなことができそう、に見えます。

ただ、積を通常積としたせい(?)でちょっと計算は面倒そうです。
冪乗は積からの類推で出すと、通常冪乗と一緒です。
ハイパー演算子の考えだと「じゃあそれ以降は通常積じゃん」となりますから、むしろ和以外そこまで変更がなさそうな代数と言えるかもしれません。

問題はこれが幾何、グラフに持ち込むとどうなるかなのですが、本家トロピカルでそこの記事を書いてないので、それはまた今度にします。

一方で、トロピカルも和がハイパー演算子の0番目、ゼレーションではないとわかっているので、トロピカルにせよ今回の演算にせよ、冪乗をハイパー演算子から考えるの自体ええんかいなって思いつつあります。

むしろそうなると、後者関数-和演算子なんてのもやってみたら面白いかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?