トロピカルな計算練習(8)

さて、今回はですね、最近の流行りに乗ってみたいと思いますよ。

「テイラー展開を悪用してこの世の中を全てトロピカル化すべく、まず手始めに指数関数をトロピカル化したトロピカル団。次の魔の手を三角関数に伸ばそうとしていたのである」

「悪の秘密結社トロピカル団にようこそ」


能書きはさておいて、三角関数です。
普通の三角関数はともかくとして、トロピカルな三角関数なんて絶対高校で教える必要ありません

まず$${\sin}$$です。$${\sin}$$のテイラー展開は

$$
\displaystyle\sum_{k=0}^\infty \dfrac{x^{2k+1}}{(2k+1)!}\cdot(-1)^k
$$

です。ただし、$${\cdot(-1)^k}$$は本来こういう指数計算ではなく、三角関数の高階微分の規則性を表すもので、$${+1}$$か$${-1}$$を交互に取ることを表しているに過ぎません。なのでトロピカル化する際は、$${k\times(-1)}$$などに変換されることはありません。

つまりもう少しちゃんと各項を書くと、

$$
\displaystyle\sum_{k=0}^\infty \dfrac{x^{2k+1}}{(2k+1)!}\cdot(-1)^k=\dfrac{x^1}{1!}\cdot(+1)+\dfrac{x^3}{3!}\cdot(-1)+\dfrac{x^5}{5!}\cdot(+1)…
$$

前回と同じ理屈でトロピカル化してやると、

$$
\begin{array}{}\displaystyle\bigoplus_{k=0}^\infty \dfrac{x^{2k+1}}{(2k+1)!}\cdot(-1)^k&=&&x+1-1\\ &&\oplus&3x-1-(3+2+1)\\ &&\oplus&5x+1-(5+4+3+2+1)\\ &&\oplus& …\\ &=&&\max( x,3x-7,5x-14,...)\end{array}
$$

グラフを書いてみると、

こんな感じになります。水色の線が$${\max}$$を取った結果、そのほかの線が各項を表します。
これをみると、赤の線と黄色の線が$${\max}$$により意味を無くしているとわかります。
対応するのは2次項と74次項ですが、なにか規則があるのでしょうか。確かめてみましょう。

一般項は

$$
(2k+1)x+(-1)^k-(2k+1までの和)
$$

ですから、$${k}$$を偶数奇数で分けてみます。ここで気をつけたいのが、最初の定義の都合上、$${k}$$はゼロスタートです。$${k=0}$$が1次項、$${k=1}$$が二次項と、$${k}$$の偶奇と項の字数の偶奇が反対になっているのに気をつけましょう。
いかに無計画に記事を書いてるかがわかるね。
偶数の場合、前後の一次関数も併せて明示すると、

$$
\begin{array}{} &&(2k-1)x-1-(2k-1までの和)\\ &&(2k+1)x+1-(2k+1までの和)\\ &&(2k+3)x-1-(2k+3までの和)\end{array}
$$

こいつらの交点を求めてみます。
1個目と2個目の交点は、

$$
x_{12}=\dfrac{4k-1}{2}
$$

2個目と3個目の交点は、

$$
x_{23}=\dfrac{4k+7}{2}
$$

です。対して$${k}$$が奇数の場合

$$
\begin{array}{} &&(2k-1)x+1-(2k-1までの和)\\ &&(2k+1)x-1-(2k+1までの和)\\ &&(2k+3)x+1-(2k+3までの和)\end{array}
$$

ですから、やってみるとわかりますが、1,2本目の式の交点と、2,3本目の式の交点は一致します。

$$
x_{12}=x_{23}=\dfrac{4k+3}{2}
$$

このため、($${k}$$の偶奇と逆なことに注意ですが)2,4,6…偶数次数の項はグラフに現れないことになります。


さて、ここまで$${\sin}$$を見てきた我々ですが、今度は$${\cos}$$に目を向けたいと思います。

$${\cos}$$は普通の演算だと$${\sin}$$を横にずらすだけで良いのですが、トロピカルではそんな常識通用しません。平行移動と言えるものがあるのか怪しいですし、よしんばあったところで通常三角関数同様の位相のずれを持っている気がしません。だって$${\pi}$$含むんだよ?

それにそもそもトロピカルな$${\sin}$$すら周期性が無いわけです。
「え、じゃあ何をもってこいつ三角関数って言ってんの?」
と思うのが常識人の反応でしょう。

そうなんですよ、結局テイラー展開から導いただけですし、なんならトロピカルのテイラー展開に収束という概念があるのかすら怪しいです。
勘のいい数学者は前回からきっとお気づきでしょう。

そんなあやふやなものと盲信の上に立っているのがなんともお遊びらしいという冗談はさておき、$${\cos}$$行ってみましょうか。


まずいつも通りテイラー展開です。

$$
\displaystyle\sum_{k=0}^\infty \dfrac{x^{2k}}{(2k)!}\cdot(-1)^k=\dfrac{x^0}{0!}\cdot(+1)+\dfrac{x^2}{2!}\cdot(-1)+\dfrac{x^4}{4!}\cdot(+1)…
$$

上と同じようにトロピカル化してやると、

$$
\begin{array}{}\displaystyle\bigoplus_{k=0}^\infty \dfrac{x^{2k}}{(2k)!}\cdot(-1)^k&=&&0x+1-0\\ &&\oplus&2x-1-(2+1)\\ &&\oplus&4x+1-(4+3+2+1)\\ &&\oplus& …\\ &=&&\max( 1,2x-4x-9,,...)\end{array}
$$

です。今回もグラフを書いてみましょう。

やっぱり、三本の線が一点で交わる箇所があります。
場所的にもなんだか$${\sin}$$の対になってそうですね。

今回も$${k}$$の偶奇で分けますが、相変わらずここも$${k=0}$$が1つ目の項を表すので、ちょっと偶奇が分かりにくいので注意していきましょう。$${k}$$が偶数なら、一般項を三つ書き並べると、

$$
\begin{array}{} &&(2k-2)x-1-(2k-2までの和)\\ &&(2k)x+1-(2kまでの和)\\ &&(2k+2)x-1-(2k+2までの和)\end{array}
$$

より、それぞれ交点は、

$$
\begin{array}{}x_{12}=\dfrac{4k-3}{2}\\x_{23}=\dfrac{4k+5}{2}\end{array}
$$

一方$${k}$$が奇数では、

$$
\begin{array}{} &&(2k-2)x+1-(2k-2までの和)\\ &&(2k)x-1-(2kまでの和)\\ &&(2k+2)x+1-(2k+2までの和)\end{array}
$$

より、

$$
x_{12}=x_{23}=\dfrac{4k+1}{2}
$$

となり、やはり交点が一致するとわかります。
結果、偶数番目の一次関数が潰れると言えます。


というわけで最後に今回作ったトロピカル$${\sin,\cos}$$のグラフを記しておきます。

青が$${\sin}$$、赤が$${\cos}$$です。
このグラフをどうみるかですけど、交点がどうも奇数値座標にあるようです。また、それぞれの折れる点の配置も面白いんじゃないかなと思います。

これが何に使えるのかは、まあ応用の人が考えてください。案外適当なトロピカル化ですけど、テイラー展開の持つ周期性が上手いこと残ってくれているのかもしれませんね。

言わずもがなの注意ですが、このNoteでやっているのが実際主流かは分かりません。というより、調べてもなかなかこの辺の話は出てこないなという印象です。
何度か触れているように、トロピカルは情報などでの応用と、二変数関数のグラフ(トロピカルカーブ)で興味を牽引しているので、一変数関数はあまり突かれていないのかもしれません。
裃のNoteではもう少しテイラー展開で遊んでやろうと思うので、秘密結社トロピカル団、次なる怪人をお楽しみにお待ちください。

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