彼は、その夏最後のセミだった

気づいたら一人だった
昨日まで 競い合うように
声を張り上げていたのに

気づいたら一人だった
息継ぎの瞬間 聞こえるのは
太陽のジリリ、ジリリという音だけ

親友は昨日 鳴くのをやめた
今は仰向けで自分を見上げ
体を 無数の蟻にくれてやっている

友よ 家族よ 安心しろ
夏はまだ終わらせぬ  この声が続く限り

世界でたった一人のセミは鳴く
命の声 祈りの声
1日でも長く 1秒でも長く
そして 時をむかえる

最後の足が 木から 離れた


ずりり、ずりり、
蟻よ退け 俺はまだ鳴いている
夏の声を 耳に刻めよ


炎が見えた
夏を守る我らの誇りのよう
友よ 母よ そこにいるのか

夏を守る 我らの・・


炎は消えた 

夏が 終わる


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