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保育士ママがこうもりの絵本を作る話(7)

前回のお話

8月

1回目のフィードバックからの改善方針は大きく2つ。
・3人称視点の説明文から1人称視点に変える。
・冒険的な要素を増やす

3人称視点から、1人称視点へ

よそみを していたせいで ピッピは かえでのきに ごっつんこ!
かえでのきは まっかな はっぱを ゆらしながら
おしゃべりに むちゅうで ピッピには きがつきません

ピッピは ぶつけた おでこが とっても いたかったけど
ぐっと なみだを こらえました

「なんだよ! ぶつかったのに しらんぷりなんて!」
ピッピは くやしくて バサバサと つばさを うごかしました

初期案

この説明的な文章では、状況は理解できるが、読んでいても感情が動かない。

一部を主観的な説明セリフに変えてみる。

よそみを していたせいで ピッピは かえでのきに ごっつんこ!
かえでのきは まっかな はっぱを ゆらしながら
おしゃべりに むちゅうで ピッピには きがつきません
 
ピッピは ぶつけた おでこが とっても いたかったけど
ぐっと なみだを こらえました

「つかれたなぁ もう ねちゃおうかなぁ」

第二案

ピッピの性格が、激しいものから、無気力なものに変わってしまった。

一旦そのまま筆を進めて、冒険的な要素を増やすため、説明文の一部を絵に託す。「絵」の部分で物語の背景を読者に想像してもらう。

よそみを していたせいで ピッピは かえでのきに ごっつんこ!
(※木の近くで、おでこを押さえた涙目のピッピの絵)
「おや? どこの こ だい? パパは? ママは? いっしょじゃないの?」
 
ぼくは そんなの!「しーらない!」

第三案

第三案では、初期案に近いピッピの性格の激しさを取り戻して、
文字数が減ったのにも関わらず、物語が一歩前に進んでいる。

思いっきり、絵の力に頼った案だ。

つい小説だと錯覚して、文章で全てを説明することに注力してしまうが、
絵本では、言葉を省いてダイナミックな演出を入れることができる。
文章が長くなってしまう人は、詩を書くくらいの気持ちでいた方が上手くいくかもしれない。

ただ・・・
思い切って文章を削ったけど、これ、本当に伝わるかな・・・?

リサーチ(2回目)

お盆になり、上記の修正を加えた下書きをもう一度
前回のリサーチと同じ人に見てもらって感想を聞いた。

意外と、絵だけでも状況が伝わっていた。

そこでは、ある一点だけ指摘を頂いた。

「ぼくは 泣かないよ。泣いたって意味ないもん。」
本当はごめんねって 言いたかったけど
もしかして、〇〇って思ったけど」

幼児ではこういった入子構造になっている複雑な心理を理解するのは難しいのではないか?という点。

確かに発達的に、自分を客観視できるのはもう少し高年齢になってからだ。
3〜4歳の心象風景を理解するためには、日頃から子供たちの自然な言葉遣いを観察する必要性を痛感した。

2人目のプロ 書籍の編集者

ここで、一旦自分たちにできることを終えて、
最後に、もう一度プロの力を借りた。

クリエイターが集まるイベントで知り合った出版の編集者の方。
私は映像の編集者なので、勝手に親近感を抱いている。

私は苦しみながら産んだ文章たちは、果たして世の中に通用するのだろうか・・・?
まったく検討がつかない。

文章校正という工程を踏んで、ピッピの物語が、文章として読者に伝わるものなのかをチェックしてもらった。

ほぼ全てに赤(修正)が入った。
句読点などの細かい問題点も整理され、さらにプロとしてのアドバイスまで頂けたことで、日本語として不自然な点は無くなったのは、本当にありがたい。

作者と相談して、さらに一部変更した点はあるが、これが絵本の文章の全容だ。

ここまできたら、あとはゴールまで走るだけ!

次回最終回。