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いちばん大事なのはブランドへの愛だろ!従業員の偏愛を起点に事業変革を起こすには

みなさん、こんにちは。事業変革、してますか?「事業変革」とひと口に言っても、起点はたくさんあります。この記事では、「従業員のブランドへの思いを引き出すことから、事業変革の可能性が見つけられる」ということをご紹介します。

きっかけは役員の一言だった

 2020年4月、コロナで日本中の学校が一斉休校で大騒ぎだったころ、ある大手のフランチャイズチェーン企業の役員の方から一件の相談を受けました。本部と現場との意思疎通が以前ほどスムーズに行かなくなっているがどうしたらいいか、というものです。

 本部と現場の熱い志でつながっていた創業当初の雰囲気は世代交代で少しずつなくなってきている。その雰囲気を変えたい。

図1

 ディスカッションを重ねる中で印象的だったのが、役員の方が語った言葉です。「大学時代に、初めて商品に触れたときの感動がぼくの原点。こんなすごいものがあるのか、と思った。そのときの衝撃は今でも忘れられない」

 だったら、とこのような話をしました。「初めて触れたときの歓びの経験は、きっと現場のみなさんも本部のみなさんも全員あるはず。そんな歓びを胸に働き始めたはずだけど、いつしか目の前の仕事をこなすことに精一杯になってしまって最初の感動を忘れていく。それじゃ、もったいない。本部からの情報発信ではなく、現場のみなさんの思いを聞いて形にして、全体に発信する活動にしませんか?」

 テーマは「偏愛」。個々人のそれぞれちがうブランドへの思いを聞く。当然、偏りがあるはずだけど、それでいい。インタビューをし、映像と記事にしてWebに公開しました。

図2

 反響は大きく、
「わかってないなぁ、こっちが重要なんだよ」
「よくぞ聞いてくれた!俺にも語らせてよ」
「わかってるつもりでも、わかってないことがたくさんあった」
「この企画、とってもいい!」
など、本部の方も現場の方も、同じブランドの商品を前に嬉しそうに語る姿が印象的でした。

 従来のインナーに対する活動は、本部が一方的に発信するものでしたが、今回は現場の発信を本部が聞くからこそ「仲間」となっていっしょに語り合えるようになり、以前よりも意思疎通がスムーズになってきたようです。

図3

 あれから1年以上経った今でもその活動は続けています。いろんな現場の方の話を聞き、形にまとめ、公開する。積み重ねていく中で、そこで語られている言葉はそのブランドの財産とも呼べるようなものになってきました。

 好きなことを語るときは立場を忘れて、みんなイキイキとしている。最初は「偏愛なんてないですよ」と言っていた方も、他の人の話を聞くと触発されて秘めた思いを語り出す。いろんなアイディアが出てきて、そこから商品開発やキャンペーンアイディアに広がりそうなものもありました。この経験を元に、ぼくらは「インナーファンシップブランディング」という手法を開発しました。

インナーファンシップブランディングとは何か?

 直訳すると従業員(インナー)のブランドに対する偏愛・ファン心(ファンシップ)を引き出し、ブランドの可能性をさらに高める(ブランディング)ために活用する、という手法です。

 特徴は3つあります。1つ目は、エクストリームと言えるほど偏愛を強く持つ従業員の方の話を聞くこと。個人の中にある強い思いを専門のファシリテーターが聴き出します。最初は「会社の見解と違うんですが…言ってもいいんですか?」と言い澱んでいた方も、話していくうちに思いがどんどん溢れていきます。

 2つ目は、その偏愛ネタを元に、数人で「偏愛トークバトル」を行うこと。バトルと言っても勝ち負けを決めるものではありません。どの意見も正解で、どの意見も偏っている。大事なのは、それぞれの偏愛をぶつけ合うこと。明確だと思っていた自分の偏愛が、他の人の思いに触発されてどんどん深堀されていきます。

 3つ目は、それを映像や記事やイベントにして他の従業員の方や一般の生活者の方に見てもらうこと。「あなたはどう思う?」と問いかけると、たたき台があるからか、賛成意見・反対意見・新しい視点など、たくさんの反応が返ってきます。

図4

 偏愛インタビュー・偏愛トークバトルはいろんな形で展開します。

図5

 従業員やユーザーのファン心に火をつけるだけではありません。ブランドの魅力をいろんな角度から見ることができ、そこで発見した火種を次の商品開発や新規事業開発、リブランディングにも活かすことができます。

偏愛を起点に変化をもたらす

 初めは実験的な試みとしてのインナーファンシップブラディングでしたが、実践していくうちに6つの大きな変化をもたらす可能性が見えてきました。

図6

①従業員→ファン
インタビューや他の従業員の方のファン心に接することで、自分の中の思いが触発されます。1つのブランドに対して、多様な魅力があることがわかります

②外発的動機→内発的動機
仕事だからやらなくちゃ、という外発的動機から、ファンである自分はこのブランドのために何ができるだろう、と内発的動機が刺激されます

③組織→部活(コミュニティ)
共通した好きなブランドを前に、みんなが口々に意見を言える雰囲気になり、縦割り組織の垣根を超えやすくなります

④企業発信→個人発信
生活者は企業が発信するものはスルーしがち。けれど、twitterの「中の人」のように、個人が見えてくると親しみを覚えます。同じファンだからブランドに隠された思いや物語も聞きたくなります

⑤セールス→推し活
販売を促進するという発想から、ファンとしてブランドに何ができるかという推し活(自分が推すものを広めようとする活動)とも言える発想に切り替わります

⑥ブランドは企業のもの→ブランドはファンのもの
みんなでこのブランドのために何ができるかという発想になり、ロングセラーブランドのさらなる魅力発見や生活者を巻き込んだ商品開発などの可能性も見えてきます

 現在、様々な企業からこの手法に共感をいただき、やりとりしています。自動車・化粧品・お菓子・おもちゃ・銀行・不動産…それぞれの業界に眠るそれぞれの偏愛を聞くだけでワクワクします。これを読まれているみなさんの中で、ご興味を持っていただけたら、ぜひご連絡ください。ファン心あふれるブランドづくりをご一緒できれば、と楽しみにしています。

最後に

 この記事のタイトルは「いちばん大事なのはブランドへの愛だろ!〜従業員の偏愛を起点に事業変革を起こすには〜」です。裏を返せば、今の日本の企業活動では「ブランドへの愛が軽視されているのではないか」という違和感がこのタイトルには込められています。

 博報堂では、今ブランド・トランスフォーメーション®︎(BX;オールデジタル化時代の生活者発想による事業変革・事業成長)を積極的に推進しています。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を採り入れることも大事ですが、何のための「トランスフォーメーション」なのか、という根本的な視点が抜け落ちてしまっては元も子もありません。そのブランドは何のためにあるのか、存在意義はとても重要です。

 一方で、ブランドの今ある魅力だけを大事に守っても、変革は起こせません。それには、「ブランドアイデンティティ(ブランドの同一性)」「ブランドダイバーシティ(ブランドの多様性)」という2つの概念が大切です。

図7

 これまでブランドと聞くと、固定化されたロゴマークのように1つのイメージに統一していくべき、という感覚が強くありました。この「ブランドアイデンティティ(同一性)」はイメージを集約するにはとても大事な概念で、ブランドを中心に引っ張る重心みたいなものだと思います。

 しかし、これから多くの人に共感され支持されるブランドには「ブランドアイデンティティ」に加えて、「ブランドダイバーシティ(多様性)」も必要です。ブランドダイバーシティはブランドの遠心力とも言え、重心を中心にグルグル回る存在です。

 この2つを意識することで、ブランドの可能性はさらに大きくなり、ブランド・トランスフォーメーション®︎が実現されていくと考えています。世の中に、熱狂的な偏愛をもつファンがいるブランドがもっともっと増えたら、もっと楽しい社会になるのではないか。そう思って、これからも活動していきます。

 最後に質問です。

図8

お読みいただき、ありがとうございました!

筆者
「インナーファンシップブランディング」開発チーム

滝口 勇也
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
クリエイティブファシリテーター/インタビュアー/編集者
福原 大介
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
コンサルタント
川村 健士
関西統合プラニング局
クリエイティブディレクター・コピーライター
林 竜太郎
データドリブンプラニング局
ストラテジスト

#博報堂 #ブランドイノベーションデザイン #インナーファンシップブランディング #インナーブランディング

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