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短編小説:学校のガールズ・デイ

目覚ましが鳴っている。もう起きなくちゃ。

カーテンを開けると日差しが目に飛び込んでくる。

今日はガールズ・デイだ。と言っても私達同級生女子にしか分からい内緒の日。

今学期の私達4年生(高校一年生)の金曜の最後のクラスは体育。

といっても、小さな学校なのに体育のスポーツの種類が二つも用意されている。

スクールバスのドライバーのマークさんとジョセフさんが体育教師の免許を持っているので、一グループは近所の公園でサッカー、もう一つはその日に借りられた体育館でできるスポーツなら何でもやることになっていた。

一度サッカーのクラスに出たことがあったが、ルールを知らないので反則を連発して怒られて、もう懲りごりだと思った。また男子の中に女子が一人混ざってプレーするのは体力的にきつかった。

サッカー以外のクラスには女子5人が全員参加している。こちらは男女混合のクラスだった。バスケットボールにバレーボール。天気が良くて地区の抽選に当たってテニスコートが借りられた時はテニス。何でもありの授業だった。

クラスの女子で体育が好きだったのは私ともう一人だけ。他の子達は頑張って付いてくるけれども、男子と女子の体力の差がてきめんに出てしまう。

「I hate PE ! Can we go and take aerobics class outside the school? ( 体育嫌い!学外でエアロビをやってきていい?」と先生に言い出すクラスメイトまで出てきた。

制服の無い学校なので、女の子達はみんな結構お洒落をしてくる。

ふわふわのフリルの服が好きなイラン人のネダ。この子はいつも軽くメーキャップもしてきている。
カールした髪型を維持しようとしょっちゅうヘアスプレーをかけているインド人のパロル。
清潔なTシャツにジーンズをいつも来ているフィリピン人のモーリーン。髪型をコーンローにしたり,スカーフを髪に編み込んだり工夫して、大きな体を包むような黒のドレッシーな服を着てくるシエラレオネ人のファトマータ。

毎週、体育の後はみんなへとへとになる。気力も無くなったのか、皆,次第に着替えもせずに家に帰っていくようになった。

何か、女子が体育を楽しみになるようなことは無いかな。私はぼんやりとそんなことを考えていた。

その日の授業が進み、午後になりついに体育の時間が来た。今日は近くの体育館の抽選に外れたので、遠くにある別の体育館に行く。中はあまり設備が整っておらず、大勢で出来るのはバスケットボールくらいだという。

バスケットボールはとにかく走らないといけない。二つのチームに分かれ、運動の苦手な子にはゴール下を守ってもらい、走れる人だけが走ってプレーをする。背の高い男子とプレーする時は、逆手を取って低い姿勢でドリブルをし、パスもボールを床に転がすなどしないと勝負にならない。一旦空中戦が始まると、女子に出来ることは少なかった。

 その日、私たちはとにかくよく走らされた。どの子が体育が苦手かを分かっている先生は、なぜか今日は容赦がなかった。走るのが苦手なパロルをゴール下から出してプレーするように言ったり、やはり走るのが苦手なファトマータにもドリブルをやってみるように声をかけていた。

約一時間半走るに走って、へとへとになる人が大勢出た。

私はなぜかランナーズ・ハイになってしまい、校舎に戻っても、鞄を投げ捨てて廊下を走りまくり、低い天井めがけてジャンプしたりと、普段の運動不足をこれでもかと解消した。

学校には更衣室が無いので、男子は教室の中で。女子はトイレで着替えをすることになっていた。

体育の後のホームルームの前のひととき、女子はトイレでもうへとへとになっていた。

「Mark’s been so fussy today. Why did he make us run all the way through? マーク先生、なんか機嫌悪かったよね。なんで授業中全部つかって走らさせたんだろう?」
「I can’t move an inch anymore もう一歩も動けないよ」
「I only wish I’m at home now,,,, もう家についていればいいのに・・・」

これじゃまた、体操着のまま家に帰る子が続出するんだろうな。

いたずら心を起こした私はふとこう言ってみた。

「Why don’t we make Friday a girl’s day ? I know we all look dreadful after PE, but how about if we dress up a bit ? Like, bring our favourite clothe, and do a bit of make-up and hairdo ? それじゃ金曜日をガールズ・デイにしない?体育の後私達みんな悲惨な格好になるけど、自分の好きな服を着て,ちょっとメイクして髪型を整えてみたらどうかな?」

何人かがくすくすと笑った。何人かは苦虫をかみつぶした様な顔をしている。

「I mean, seriously. We need a bit of fun after PE, don’t we? You don’t have to join in if you don’t like it. Participants are welcome. Observers are also welcome.いや,いや、本当にマジで。体育のあとでちょっとは楽しい事したいじゃない?嫌な人は参加しなくていいんだよ。参加者歓迎。見るだけの人も歓迎」

「Sounds good idea! いいアイデア!」Nedaが言った。
「I'll join in! 私やる!」 Fatmataも言った。
残りのMaureenとParolは顔を見合わせて困ったような顔をしている。

「So! It seems we’ve got some participants and observers? So next Friday. Do we all agree? Let’s keep it secret, and make it surprise for others.それなら参加者と見学者両方揃ったね。それじゃ来週の金曜日に。皆それでいい?これは内緒にして,皆をびっくりさせようね」

どうやら何人かは興味を示してくれた。

体育が好きじゃない子が何か楽しみになるようなことを一緒にやる。
それでその子たちが体育が嫌いにならなければ良いな、という単純な発想だった。

その日はへとへとになった子たちは、相変わらずスエットの上下のまま帰っていったが、彼女たちのち足取りがちょっと違うのが感じられた。

週末が明けて曜日が進むにつれ、この計画は少しずつ周囲に漏れて行ったようだ。

そして今日の金曜日。いつもの体育館が抽選であたり、その日はバドミントンをした。

ある程度の腕前の8人と、少しできる4人、そして初めてバドミントンをやる2人と先生のマークさんの三グループに分かれてその日は一時間半みっちりバドミントンを楽しんだ。

体育が終わって、私たち女子はトイレにこもった。今日はみんなどこかしら違う。

体育があまりきつくなかったせいもあるが、皆そわそわとしながら着替えを済ませた。何人かはメークや髪形を整え始めている。

私はこの日、髪を後ろで束ねて流行りの黒の野球帽をかぶり、しばらく前から家で練習していたリキッドのアイライナーを引いた。服はいつものジーンズに黒の太めのベルトを巻き,Tシャツの上からデニムのシャツを羽織るだけにした。気温が少し高い今日はコットンの服が風通し良く、肌触りが気持ちいい。

ファトマータやネダは鏡の前を陣取り、メークに余念がない。それを少し離れた所から複雑な顔をして眺めているパロル。鏡に向かっている二人に心配げに声をかけては「Don’t overdo it やりすぎないでね」と不安そうなモーリーン。

さすがに喉が渇いてきた私は、「I‘ll fetch some 7UP. セブンアップ買ってくるね」と言って、廊下の隅にある自動販売機まで行こうとした。トイレを出てほんの数歩歩いたところで一学年下の女の子達に見つかってしまった。

「What happened to you!!どうしたの,この格好?!」
「It’s a girl’s day for Fourth Form 4年生のガールズ・デイなの」
「You wear a cap and makeup ! 野球帽にメークまでして!!」
「It’s just for a bit of change ちょっと変化を付けようと思ってね」

これを職員室で見ていたカジミア先生が駆けつけてきた。
「What is going on!? You don’t normally put on make-up, do you? どうしたの!?いつもはメークなんかしないのに」
「It’s girl’s day today. Other girls are putting on some make-up as well 今日はガールズ・デイなんです。他の子達は今メイク中ですよ」

そう言って廊下を走り、自販機で飲み物を買ったときに、担任のMartin先生が言った。
「It’s time for homeroom now. Can you ask the girls to hurry up? ホームルームが始まるよ。他の娘達に急ぐように言って」と言われた。

「Yes, Mr. Martin 分かりました」

私は急いで廊下を走って女子トイレに戻ると、中に声を掛けた。

「Are you decent , ladies ? Mr. Martine said that homeroom will start now. Now, we’d better go, if we are ready.」

参加者のメークの仕上がりはばっちりだった。派手過ぎくも無く、二人の好みの上品なメークの仕上がり。ネダはカールした髪を整えてピンクのルージュと、大き目のフリルのついた襟のブラウスに黒のふわりとしたロングスカート。ファトマータは何時も良く来ている黒の長いカーディガンの下は赤と白の黒の大胆なカラーのシャツと黒のロングスカートを履き、真紅の低いパンプスを合わせていた。

いつもよりもほんのちょっとのお洒落。それだけで気分が上がったのか、二人とも先週までのグロッキーな姿とはまるで別人だ。

女子トイレを出て教室に行くまで、職員室の前を通らなければならない。
普段よりもちょっとおしゃれをした私達三人を見て、カジミア先生は

「Girls・・・!」と唖然としていた。

教室では、男子が今か今かと待っていたらしい。教室に入って私は野球帽を脱いだ。教室の中では帽子は禁止になっていたからだ。

男子は少し不満げだった。私たちがコメディアンの様な格好をしてくるものだと思っていて、笑う準備をしていたようだ。

一番不満げな顔をしていたトルコ人のディラバーが言った

「I thought you’d look like Dawn French コメディアンみたいになるのかと思った」

「Well, it’s not exactly our taste…. いや,私たちの趣味じゃないんで・・・」

教室の外では噂が広まり、他の先生たちや他の学年の生徒達にも私達4年生女子が何をやったのか知られたようだ。

ホームルームが終わって校舎の外に出た時には、何人かの先生たちから「Aren’t you going out ? これからお出かけしないの?」と聞かれた。

「No… I’ll go home straight. いいえ,今日はまっすぐ帰ります」

これをあと一年後にやっていたら、皆で学校帰りにどこかに出かけられたかもしれない

学校が終わったら真っすぐ家に帰ってきなさいと言われている子もいたので全員でのお出かけは難しかったかもしれない。

でも,いつもの体育が終わって、友達がいつもとは違ってゆったりと身ぎれいにしているさまは何とも言えず気持ちの良いものだった。

来週もまたできるかな。来週やるとしたら、週末に服を買いに行かなきゃ、今の自分のワードローブではとても服が足りない。

そんなことを考えながら、私はゆっくりと家路に着いた。私たちは全員14歳だった。

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