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オンユアリップス

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自作のまとめです。かなり古いものもあります。
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2018年4月の記事一覧

水葬

線路の下にはせせらぎ
赤色の線路の下の小さな水路
音もなく空気を遮断する透明は小石を覆ってたゆたゆと

笹舟の似合うせせらぎ
その緑を夢に見る私
寺の奥に繋がる路から澄みきった過去が流れ落ちる

(するり と)

冷たい空へ
水がたゆたい
私はせせらぎに夢を見ている。

蝉時雨はかなかなと高く空へ昇る、
包み込むような緑の眩しさを
私に与えるように。
草いきれのむっとする息苦しささえ
いとおしくな

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スターダスト・オーキッド

触れて
触れて
触れて
触れて
みたいの
みたいの
みたいよ
ねぇ
そのまま
そのままで
そのままでいて
そうよ
そう
あなた
すき
きらい
あなた
あなた
あなた
あなた
あなたの

かなたの
その
ほしの

光年という単位/空の陳腐さ/青/蒼/藍/蘭の園に埋葬/そうそのままで/射手座が浮かぶ/星/ほし/欲しいよ/どこで燃えている/星ではなく/想いだ/ああまた使い古された言葉/想いと呼ぶには不適

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連作:その破壊的なつめたさ

腰骨のあたりをそっとつきぬけて夜が終わった音がしていた

指先に浚われ臍が泣く これは胎生の悲しさだねかあさん

僕を刺す君の突端、がさついた樹皮、琥珀、蝿、君を飲む僕

最中そのへそが波打つとき、きみの眼玉の中でぼくはくらげに

悔いているぼくの粘膜 夜は更けてゆく(その破壊的なつめたさ)

標本をつくっていますほらこれがぼくの愛したきみのまなざし

君と靴濡らしたことが悲しくて今日よ歴史に残る

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習作:くらげ

——くらげだ。

平日の真昼間であっても、雨が降って、どうしようもなくふさぎ込むことはある。よりにもよってそういう日に、カーテン越しのひすい色の陽を浴びながら、長くひらひらと装飾的な触手を蠢かせ、くらげは浮かんでいた。
くらげというのは大昔は水中に住んでいて、比較的下等な——下等なというのは昨今どうも差別的な言い方だとして是正されつつあるのだが——単純な構造で生存する生物だったのだという。たいてい

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連作:キスのお作法

「ベネトンのコンドームって、ださい」って笑ってきみは月まで跳ねて

ふるきずを舐め合うような恋をする。
遠雷。
あたし花火になろう。

お利口にほどいた髪にうつりこむ月虹 ぼくらのさかいめになる

ねえ先生、キスのお作法覚えたらわたしもチュッパチャプスになれる?

冴えわたるかたくなな海 水温が君の左の手のようだった

指先が冷えきる三秒前 君のシャツの匂いを思い浮かべた

秋、羽毛布団を出した

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習作:ラズベリー

 (宇宙というのは、甘い匂いがするんだよ。)——

 彼の言葉が聞こえたような気がして、目を覚ます。枕もとを見ればAM 2:37とデジタル数字で表示される時刻、どうしてだか、これは、全くどこにも存在しえない時刻であるような気がした。まるで、宙に浮いた数字であるような。たとえば、時間というものが、完璧に敷き詰められているかのように見えるそのレールを外れてしまうことは、あるのだろうか。物理学をきちんと

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方舟に松明

 息を荒くしている目の前の人を、どこか冷静に眺めている。愉しんでいないわけではない。これから和くんとするのは、他のどんなことよりも愉しいこと、だ。彼の吐息からは仄りと、さっきふたりで飲んだ梅酒の匂いがする。見上げると、干しっぱなしの靴下がエアコンの呼気に揺れているのが目に入った。あつい吐息。シャンプーの甘い香りを感じながら、熱くなっているところを膝で軽くなぞってもてあそぶ。私の手首を握る手に力が入

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ナミオト

——よそ見をしていた。

そこは海であった。
すべての憂いを孕んだような
深い色した海であった。

月は どこかへ行ってしまって
シトリンの粒をちりばめたような
星影だけが背泳ぎをして
私は 愛をささやけなくなった。

麦藁帽子のかもめは退屈して眠ってしまって
私が隣でシナモンブレッドをかじっても
かもめは目を覚まさなかった
愛と雨との類似について話そうと思っていたのだが
もうビーチグラスを集める

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キッチンと生物実験室に寄せる遺書


空は群青でなくてもいい。
わたしははだしでその土を踏みしめる。
足の裏になまぬるさを感じながら摘みとったエンドウの、
連鎖する形質をわたしがひと呑みにする。
核酸を腹の中で煮溶かしてみずからに組み換える。
食道を通り抜ける豆の死骸は不完全に火葬されていて、
わたしをつくりかえながら完全燃焼。

(燃えさかる炎のなかわたしはいかにして自らをあぶるその火を絶やさぬようにするかを考えている)

 袋

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