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小山田浩子「庭」〜圧倒的描写力で思いを描き出す〜

 コロナ危機が叫び始められた2月にあと1、2週間が山場と言われたせいで、世の中がすっかり自粛終了(もう飽きた)モードになってきました・・・

 ところが今日1日だけでも、東京で40人!とか、乳幼児の重症化が実は多いとか、若者でも入院・重症化している例がかなりあることなど、憂鬱なニュースが続き、長期戦の覚悟が必要になってきました。頑張って乗り切りましょう。

 さて、土日はほとんどポケカにつぎ込んでいた時間がぽっかり空いたので、Netflixや読書がはかどります。半分くらいは仕事しちゃってますが。

 というわけで今日は最近とてもお気に入りになった、小山田浩子さんの本をご紹介。

ふきのとう。ヒヒ。彼岸花。どじょう。葦。鶴。おたまじゃくし。ままならない日々を生きる人間のすぐそばで、虫や草花や動物たちが織り成す、息をのむような不可思議な世界。暮らしの中にある不条理と喜びを鮮やかに捉え、風景が静かに決定的に姿を変える瞬間を克明に描き出す、15篇の物語。芥川賞受賞後初著書となる作品集。

出会い

 歳をとってくると集中力が切れやすくなり、最近はもっぱら短編を読むことが多くなってきました。特に平凡な日常に潜むふとしたドラマをうまく切り取って見せてくれるような作りに惹かれます。

 英語の勉強も兼ねて向こうの小説をひたすら読んでいた頃、アリス・マンローに出会って小説の楽しみ方が変わったような気がします。でもなかなか日本の作家さんの中で自分の好みと合う人が見つからず・・・今回もそんな人を探して(確か)本の雑誌で紹介されていた小山田浩子さんの「庭」に挑んでみました。

圧倒的な描写力

 ほとんど改行もされないまま続く背景描写がとにかく圧巻です。背景そのものにまで物語を感じるほど。それがストーリーの流れの中で自然に描かれるのでちっとも退屈しないのがすごい!何かを象徴している、というよりは、登場人物がそのシーンで目にしているであろう風景を感じるままに描かれているようで、その人の人生に入り込んだように感じさせてくれるのです。

 それぞれの人物の感じていることや考えなどはほとんど記述されることはないのですが、ひしひしと伝わってくるものがあります。描写で人物を浮き上がらせるという難しそうなことが、自然に表現されていることに感動しました。じんわりと湧いてくる嫌な気持ちや不快な感じが滲み出てきます。

幻想的な世界

 その一方で時折挟み込まれる異世界的な記述はあまり好きにはなれませんでした。そこも多分この方の売りだと思うので、一緒に味わえれば良かったのですが。僕らが普通に生活しているこの世界に幻想的な世界を混ぜてしまうとなんか勿体無い気がしてしまいます。もちろんそのおかげで小説自体の不気味な感じがより強調されるので、効果は抜群ではあるんですが。

 もちろん実際の生活でも頭の中に浮かぶイメージと実際に目の前にあるものがぼんやりと混ざってしまうことはあるので、そんな感じを想像すれば良かったのかもしれません。

わからない?

 書評などを見ると「結局何が言いたいかよくわからない」というのが結構あるんですが、僕自身は小説から作家の主張を引き出すのではなく、描いてくれた世界に登場人物と一緒に生きる、という読み方をすることが多いので、あまり気になりませんでした。それぞれの場面で人物がどのように感じたかを体験する、という意味ではその描写でうまく連れて行ってくれるので、もうそれで満足、という感じ。

シェアしたい気持ち

 というわけで、久しぶりに読んでよかったぁと思える作家さんに会えて、人生の楽しみが増えました。誰かとこの感じをシェアしたい気持ちもあるのですが、好みが違う人に読むことを強いたくはないし、感想文をあちこちで拾って読むことでそこは満たすしかないかなぁ。もしすでに読んだ方で、好きという方いらっしゃいましたら、お話を聞かせてください。

 小山田さんの「穴」もすぐにそのあと読んでしまったのですが、それはまたいつか書きます。

そのほかに読んだもの

 もう一度 トム・マッカーシー

 設定・主人公の行動などが突き抜けすぎていて、めちゃ置いていかれた感ありました。それでも割と一気に読んでしまったので、シュールさの中に一体どうなるんだという期待をさせる要素があったんだと思う。こういう小説がヒットするイギリスの懐の広さを感じます。翻訳に踏み切った新潮もすごい。

Three Women of Chuck’s Donuts By Anthony Veasna So

 ヴェトナム移民の母が経営するドーナツ屋さんで夜を過ごす娘二人。そこに毎晩現れて牌を注文するも手をつけずに外を見続けるヴェトナム人らしい男・・・ちょっとした騒動を生き生きと描きます。移民としてのアイデンティティー問題と日常、登場人物にのめり込むことは難しいですが、ワクワク読むことができました。

Kid Positive By Adam Levin

 ひねくれた?もしくは自分の感情に正直な子供のエピソードを年を追いながら紹介していく感じです。薄気味悪いとかわがまますぎとかの感情も湧きますが、なんかわかるなぁということも結構ありました。最後のあたりは(英語の実力不足で)よくわからなかった・・・誰か教えて欲しい。


 うーん、ポケカしないと本当に時間あるなぁ・・・

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