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インサイド・アウト(長編小説)

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2019年2月の記事一覧

インサイド・アウト 第5話 黒ベストの男(3)

 小学校の卒業記念で木彫りのオルゴール箱を作ったとき、僕がその箱に彫ったのは、太陽系の幾…

インサイド・アウト 第5話 黒ベストの男(4)

「そう言われましても、正直なところイメージがわかないのです。宇宙の外側に別の宇宙が存在し…

インサイド・アウト 第5話 黒ベストの男(5)

「〝神〟検出器……ですか?」と僕は思わず男の言葉を繰り返していた。  黒ベストの男の顔は…

インサイド・アウト 第5話 黒ベストの男(6)

 僕は耳を疑った。 「……僕が、イレギュラー分子と接触したと言うのですか?」  黒ベスト…

インサイド・アウト 第6話 記憶の欠片(1)

 Sの声はほつれた糸のようにか細く、今にもどこかへ飛んでいきそうだった。  初め、わたし…

インサイド・アウト 第6話 記憶の欠片(2)

 それから三十分ほどは——Sが自分から話題を振ってこなかったというのもあるが——わたしは…

インサイド・アウト 第6話 記憶の欠片(3)

 簡単に最低限のメイクを落とし、シャワーも浴びずに自分の部屋に戻ると、玄関の方から両親の帰ってくる音が聞こえた。二人分の足音、買い物袋の音、ひそひそと会話する声。そこに「ただいま」の声はない。二人の中ではすでに空気以下の存在になっているわたしの居場所がここではないのはわかっている。だけど仕方がない。他にどこへもいく当てはないのだから。  明かりを消して布団に入り、息を止めた。水槽の中で、亀がじっと息を潜めるかのように。存在感を消していれば、何も咎められることはない。言い争い

インサイド・アウト 第7話 砂漠の無人駅(1)

 その日、僕は《砂漠の夢》を見た。  黒ベストの男と会った日の夜、眠れたのは結局、太陽が…

インサイド・アウト 第7話 砂漠の無人駅(2)

 電話の呼び出し音を十回鳴らしても、彼は電話に出なかった。きっといつものように会議に追わ…

インサイド・アウト 第7話 砂漠の無人駅(3)

 《左右対称の顔の女》と《黒ベストの男》に会って以来、それから奇妙な出来事が起こることは…

インサイド・アウト 第7話 砂漠の無人駅(4)

 自宅に向かう電車の中、明日からはじまる大型連休で浮き足立つ人々を横目に、僕はSNSに現…

インサイド・アウト 第7話 砂漠の無人駅(5)

 ——PM1:11 5/5(Tue)  ベッドの脇で少し気まずそうに、LED時計は音も立てずにコロンを…

インサイド・アウト 第8話 夢判断(1)

 シャツの上に厚めのパーカーを羽織り、両親に気付かれないように足音を潜めて玄関に向かった…

インサイド・アウト 第8話 夢判断(2)

 東京駅で新幹線を降りた後は、中央線の快速列車に乗って新宿駅まで行き、そこで中央本線に乗り換えて大月駅に出た。そこからさらに乗り換えて終着駅へと向かう。河口湖駅に着く頃には、太陽はすでに子午線を通過していた。  駅を出て、ちょうど目の前に止まっていたタクシーに乗り込むと、「どちらまで?」と上機嫌そうに運転手は言った。五十代くらいの中肉中背の男性だった。  単に「青木ヶ原樹海」とだけ言っても、不審に思われるかもしれない。とっさにタクシーの車内に置かれている観光パンフレットの