見出し画像

好きを選択すること

5月中旬、楽器屋さんの連なる、ある大通りを訪れたときの出来事。

私は、ウクレレかギターを始めたいと思っていて、実際に楽器を見るために、その大通りを散策していた。

まず、ウクレレ屋さんに入ってみる。

ウクレレを実際に触らせてもらうと、きれいなハワイアンな音色が響いた。楽しい。ウクレレは想像していたよりも小さい。初心者にとって始めやすい楽器だ。

続いて、大手の楽器屋さんを覗いてみる。
ここには、ウクレレもギターも置いてあった。

さっき聴いた音色によって、ウクレレに気持ちが傾いて、「ウクレレを見に来ました」と店員さんに伝えた。また触らせてもらって、もう少し考えてからウクレレを買おうかなと心のなかでぼんやりと決めていた。

「でも、ギターにも興味あって、迷ってて…」

そう伝えると、店員さんはおすすめのギターを取り上げて、演奏を披露し始めた。ジャンジャカ、ジャンジャカ、ジャーン…

「まぁ、こんな感じですね。ギターの方が演奏したときの達成感はあると思いますけど、ウクレレとギター、どっちがいいですか?」と店員さん。

私はすぐに答えが出なかった。

ついさっきまでウクレレを買おうと思っていたけれど、それは、ギターよりもウクレレの方が値段が安くて、小さいから置き場に困らなくて、もし飽きてしまったとしても邪魔にならないから…というような打算的な理由からだった。

ウクレレも良いけど、いずれはギターを弾きたいな。でも、いきなり高額な楽器を買うのは勇気がいるな…。

そう思いながら、その楽器屋さんを後にした。そうして、最後にふらっと別の楽器屋さんのウクレレを見に行った。

そのお店の店員さんは、正直なところ、私の苦手なタイプの人だった。ぐいぐい会話を強いられて、どうしてウクレレをやりたいのか、いずれは何を目指したいのか、などいろいろと質問をされた。

うーん、ちょっとこの店員さんは苦手だから、良い加減で会話を切り上げて帰ろう、と思っていた矢先、その人はこう言った。

「いずれギターをやりたいなら、ギターを買ったほうがいいよ。大きさだってそんなに変わらないんだし。ウクレレとギターは全くの別物だよ。いずれギターをやるなら、いま始めたらいいじゃん。」

その帰り道、何故かわからないけれど、私は、ちょっと苦手なその人の言葉を反芻し、背中を押されてしまった。

私は、本当は、ギターをやりたかったんだ。ウクレレをやりたいのは、ギターのお試し程度の気持ちで、本当に好きなのは、ギターなんだ。

その気持ちに気付いた数日後、私は、ギターを買った。初めて買う楽器。しかも、まだ弾き方も、何も、知らない。これから少しずつ、知っていくことになる楽器。

買うときはとても緊張したけれど、晴れやかな気分だった。

好きを選択することは、どうしてこうも難しいのだろう、と思う。

好きという気持ちに気付いていても、何かと理由を付けて、自分でその気持ちに蓋をして、見えなくしてしまう。

何に遠慮をしているのだろう。誰にも遠慮をすることなんてないのに。私は、私が好きなことを、選択する。そんな当たり前のことを、当たり前にできるようになりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?