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私と自転車 <自己紹介シリーズ>

補助輪

幼稚園のころ、ある日の夕方に父が帰宅した。

私は、父が車で帰って来た時は庭で遊んでおり、
車が駐車場に入るために庭をとおるので、私は車を避けながら車が車庫に吸い込まれるのを見ていた。

車のテールランプが消え、父が車から降りてくると。
父がおもむろに「自転車の練習するか」と言い出して。

車のトランクから工具箱を取り出してきて、庭にあった補助輪付きの
私の自転車に向かった。

私の自転車は母方のおじいちゃんに買ってもらったもので、「宇宙刑事ギャバン」のようなキャラクターがチェーンカバーにプリントされていた。
私が「宇宙刑事ギャバン」に興味があったわけでなく、男だからとかその程度の理由でそれが買い与えられた形だ。

補助輪付きのその自転車がうちに来たときは、とても嬉しかったのを憶えている。配達の方が運んできてくれて、玄関で自転車を覆うビニールをとり、傷などは大丈夫ですと告げ帰っていった。

新品の自転車を見ると、それまで家の三輪車に乗ったことがあったので、自転車の乗り方について、サドルに座ってペダルを漕ぐということが容易に想像がついた。

ただ、三輪車よりも大きいので私に動かせるのかが少しだけ不安だった。
とりあえず停車している状態でサドルに座ってみる。補助輪のおかげで安定しており、乗れそうな気がしてくる。

そのまま母親に外で乗ることを懇願し、庭に自転車を出してもらう。
庭は舗装されていないので、思いの他ペダルを漕ぐ力が必要だったが、
何とか進んだ!

それからというもの補助輪付きの自転車が私の友達であった。
自分自身の足では出せないスピードを出せたり。ペダルを漕ぐたびに、左右の補助輪が交互にシャー、カラカラと音をだす。
自分が操作している全能感や自転車との一体感のようなものを感じて気持ち良かった。

一度だけスピードを出したままカーブを曲がり切れず、補助輪も私を支えきれず転んだことがあった。ただ、補助輪が自転車と地面の間に隙間を作ってくれて、擦り傷だけで済んだ。反対の補助輪が笑っているかのようにカラカラとプロペラのように空を切っていた。

そんな補助輪付きの自転車との回想もなんのその、父はすぐに自転車の補助輪をはずし「乗るぞ」と二輪状態の自転車をハンドルを持ちながら私のところに持ってきた。

二輪の自転車

母方のおじいちゃんにバイクに乗せてもらったことがあったので、二輪なんてすぐに乗れるだろうと高をくくって自転車にまたがる私。

すると、グラグラぐららら全然安定しない・・・
なんだこれは!?
あの全能感を感じて操作していた自転車と同じものとは思えない。

そもそも二輪と言う不安定な状態で、なんでまっすぐ走れるの?
どうやって両方の足をペダルに乗せたらいいの?
だんだん、意味がわからなくなってきた。

私の焦りを父が悟ったのか、後ろのキャリアを持ってくれて「持ってるから漕いでみな」と、父が支えてくれる安心感安定感でなんとか足をペダルに乗せて漕いでみた。

漕ぎだすとすぐにフラフラして転んだ。
すぐに起き上がり、もう一度。

やっぱり転ぶ。でもさっきより少しだけ長く乗れた。

また、起き上がり、キャリアを持ってもらって漕ぎだす。

さっきよりも、短い距離で転んだ。

父が、「ハンドルをしっかりもって、行きたい方向をまっすぐ見て」
とアドバイスしてくれた。

何度キャリアを持ってもらったろう。何度転んだろう。
辺りはすっかり暗くなって、街灯が点灯し始めた。

母が暗くなったので家から呼びに来たけども、
街灯の下に移動してさらに練習した。

暗くなって見える範囲が狭まって、逆に集中できたのか。
キャリアを持ってもらってスタートする乗り方であれば、
なんとかその日の内に自転車に乗れるようになった。

その日は、疲れたのかよく眠れた。

後日、さらに練習して走り始めも克服し、正式に二輪の自転車に乗れるようになった。
それからというもの、私は自転車を乗り回し、幼稚園から帰るとすぐに自転車で遊びにでかけるようになった。

ある時、道がデコボコだったのか私の運転技術が未熟なのかわからないが、自転車に乗っている時に転んだ。
地面と自転車に挟まれて痛かった。ちょっと泣きそうだった。
ふと気づくと自転車の後輪がカラカラと音を立てて空回りしていた。

私は補助輪のことを思い出した。
私を支え、そして守ってくれていた補助輪。

私は家に帰り、外された補助輪を探してみた。
玄関の下駄箱の中にしまってある補助輪を見つけて取り出した。

補助輪は少し錆ていて埃をかぶっていた。
使っている時は気づかなかったけども、たくさんの傷がついていた。

私はその傷を指で触ってみた。
プラスチックの固さとザラザラ感が感じられ、ちょっと痛かった。

その後、私は補助輪を指で回してみた。
音もなく、すぐに止まってしまった。

私が知っている補助輪とはちょっと違った気がして、
私は間もなく、下駄箱に補助輪を仕舞った。ちょっとだけ泣きそうだった。








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