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人口500人の村の"いま" ~富山県南砺市利賀村~

こんにちは。今回は、去る2月16日に開催した企画展「人口500人の村の『いま』展」にて展示した写真とルポルタージュをお送りします。

構想段階で、「利賀村の企画展示」と考えたとき、題材は「美しい自然風景」だろう、すぐに思い至りました。

でも、並べてみると、確かに美しくて心惹かれるけれど、なにか物足りない。私たちが1年間活動してきて、表現したいものはこれなのかと、改めて考え直してみました。

そうして完成したのが、今回の記事に掲載しているものです。

単なる「美しい自然風景」の企画展示からどこが変化したのか、注目してお楽しみくださいね。

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草木も人も、動き出す


新生活を必死に消化する日々を
東京に置き去りにして
北陸ののっぺりした街並みの中を
バスはぐんぐん進む。


山のふもとで小さな南砺バスに乗り換える。
車がやっと一台通れるくらいの
細く急な勾配をくねくねと器用に進む。
木々はぴかぴかの新緑を湛えている。
この山の上に、どんな村が待っているのか。

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ずしんと重たい旗。
気づけば列の先頭に立ち、
祭の一員になっていた。
村の男たちは、鮮やかな衣装に身を包み、
獅子となって家々を回る。
まだ肌寒い空気の中で、
額に汗を浮かべている。
疲れた、苦しい、と言いながら
その顔は明るい。
子供たちも大人と一緒に力いっぱい舞い、
その役目を立派に果たしている。

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人口の減少で、祭の継続が
困難になっている地区もある。
本番直前まで熱く指導していた村の人が、
「ここまでせんといけんのか、
そういわれることもあるよ」
そう、教えてくださった。

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艶やかな笛の音。
旗を持ち直して、実感する。
祭は、それぞれの地区の誇り。
担い手不足、生活とのバランス。
華やかな祭りの裏で、
その灯を消すまいと奮闘する
村の人の姿がそこにはあった。

旗は風に吹かれる。
明日は筋肉痛だなあ。

この村は困難の中にあっても、
私たちを明るく受け止めてくれる。

-春祭り-

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毎年ゴールデンウイークに、五穀豊穣と家内安全を願い行われる祭り。江戸時代から現在まで100年以上にわたり受け継がれている。
笛の音、太鼓の響きに合わせて獅子が激しく舞う。
この期間は、村外からも多くの人が集まり、朝から晩まで村は祭一色となる。
獅子やお囃子のメロディーなどは村内の地区ごとに異なっており、地区の伝統が脈々と受け継がれている。


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想像以上に重い旗を持ち、
獅子や祭囃子の演奏者を先導する。
祭を作る一員に回ることができる瞬間だ。


緑は深まり、胸は高まる


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山の緑は、
同じ緑のようで、違う。
それを教えてくれたのは、利賀の山だった。
初夏の山は、濃い緑。

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早朝、市場に向かう。
眠気よりも、高揚感のほうが大きい。
村の人に話しかけると、
嬉しそうに野菜の特長を教えてくださる。
発砲スチロールに、
つやつやの夏野菜が詰まっていく。

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闇夜の屋外劇場。
ぐるりとステージを囲む客席に、
空席はない。
観劇はもちろん初めてだ。
私にわかるかなあ。

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風はひんやりと湿っている。
異国の言葉の台詞が
石造りの会場に響く。
ライトの中でくるくると表情を変える演者。
沈黙の瞬間、
聞こえるのは山の木々のざわめき。

なぜこんな山奥の村で?
そんな疑問は観劇をしてすぐに解けた。
コミカルな動きに一斉に笑う観客。
その声は、
利賀の夜に、
1つのかたまりとなってこだましていた。

-TOGAサマーフェスティバル-

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毎年8月から9月初旬にわたって行われる演劇の祭。この時期には、世界中の演劇ファンが訪れ、村は活気に包まれる。また、会場ではジビエや外国料理なども提供され、演劇のみならずグルメも大きな楽しみの1つだ。
今年は、国際演劇祭であるシアターオリンピックス(世界で活躍する演出家・劇作家によってギリシアで創設され、今回で9年目となる演劇の祭典)として、ロシアと2か国での共同開催が実現した。
サマーフェスティバルは1年を通して最も大きなイベントであり、来訪者には感動を、村には勇気と希望を与えている。


かじかむ手に、感じた情熱。
また来る場所はここにある。

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ぴりりと冷たい空気。
穏やかな日差し。
木々は葉を落とし、雪をまとう。
村はますますの静寂に包まれる。
この季節が1番好きかもしれない。

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例年なら、
今日は村の人口の何倍もの人が訪れる
そば祭り。
雪像が立ち並び、
利賀のそばを求める人の列ができる。

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暖冬だった今年、
例年のかたちでの開催は難しかった。
雪像はなくとも、
村の祭りを途絶えさすまいと
村の人たちは動いた。

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-そば祭り-

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2月初旬に行われるそば祭りでは、巨大な雪像や利賀村の名産であるそば、そして夜にはきんと冷えた夜空にあがる花火を楽しむことができる。
しかし今年は暖冬の影響で雪が少なく、そば祭りはやむなく中止になってしまった。
代わりに行われた「利賀元気市」では、そば、五平餅、イワナの塩焼きなどを提供し、例年とは異なる形だったものの大盛況だった。

祭の後の懇親会。
お酒を片手に、陽気に語らう。
世間話もひとしきりしつつ、
話題にあがるのは、
やはり、村の将来のこと。
村の人は、等しく危機感を持っている。

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一方で、
村のために何をすべきか、については、
十人十色の考えをもっている。
村を語る人々の目の奥には、
確固たる使命感が見える。

ありがとう、また来てね、と
最後まで手を振り見送る村の人々。
私はまたこの村を訪れるだろう。


私たちは「いま」なにを見ているのだろうか。


四季おりおりの美しい自然風景だろうか。
穏やかで恵みにあふれた里山の暮らしだろうか。


消えゆく山間農村の姿だろうか。


それとも、



「これから」に真剣に向き合い、
新しい村のカタチを探る人々の姿だろうか。



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私たちトガプロは、利賀村に何度も足を運ぶ中で、言葉では表現しきれないほどの利賀の魅力に出会いました。
きらきら輝く宝物が詰まったこの村を、少しでも多くの方に知ってもらいたく、この度ささやかな展示会を開催するに至りました。

当日は生憎の雨模様でしたが、足元が悪い中ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。

あたたかい人の心と美しい景色に溢れた小さな村のこと、ふとした時に思い出してみてくださいね。

いただいたサポートは、トガプロの活動費にあてさせていただきます。