日記 たぶん、狂ったクリスマス
10/29(日) 日記
元恋人・ヤマモトさんの家に置いたままになっていた荷物を引き取るために2週間ぶりに会った。
14:30に東北沢に着くよ、と連絡を入れておいたら、いつものように改札の前で待っていてくれて泣きそうになる。
お互いの近況を話しつつ家に向かう。
楽しいことあった?と聞いたら、少し考えてからあんまりないかも、と笑っていた。
荷物の整理は思ったよりも早く終わった。
この家に来るのも最後だし、と、部屋の中やベランダからの景色、煙草を吸うヤマモトさんの姿をフィルムカメラでたくさん撮る。
一時期は自分の家よりもいた部屋
いつどんな状態の時に来ても許されていた部屋
恋人であってもどうやったってひとつにはなれないんだし、私たちは結局個と個でしょ!と豪語していたくせに、境界線を曖昧にしてしまったのは私の方だったな、と反省した。
怒られるかなと思ったけど彼はずっと笑っていて、結局ヤマモトさんは最後の最後まで一度も私を怒らなかった。
この部屋から、もっと言うとやたら広いベランダから見る朝焼けがとても好きだったのだけど、朝焼けを見た日の半分くらいは喧嘩(というか出口のない話し合い)のあとだったり泣いたあとだったり、そういう悲しい瞬間の後だったことを思い出した。
のに、「この部屋から見る朝焼けが好き」と思っている。
す〜〜〜ぐ記憶を美化しちゃう、なんて曖昧なんだ私の海馬、、
クリスマスに引っ越すんだよね、と新しい家の間取りを見せた。
お〜いい部屋だね!と細かく見ている彼に、引っ越し、手伝ってくれる?と聞いてみる。
なんでだよ〜やだよ〜と笑って返されたけど、これは押せばいけるときの顔。
「後生なので!!!!」「手伝ってほしい〜〜」とわんわん言う私に観念したヤマモトさんは、「わかった、じゃあひとつ条件をつけさせて」と言い、
「俺、ミヤモトさん(仮名、ウルトラ優しいけど私のヒロミを絶妙に引き出してくる現職の先輩。34歳独身男性)に会ってみたい」と予想の斜め上の条件を提示。
「引っ越し、ミヤモトさんも来てくれるならいいよ!」と笑顔で言われ、あまりの突拍子のなさに瞬間的に3秒くらい思考が停止した。
なぜここでミヤモトさん、、?あんた会ったことすらないのに、、??
ヤマモトさんには付き合っていた頃からミヤモトさんの話(めちゃくちゃ優しいけどなんか絶妙にズレてる人だということ)をよくしていたのだけど、確かに当時から「俺はミヤモトさんと分かり合える気がする、、!」と言っていた。
明らかに狂った提案だけど私も相当気が触れていたので、4秒後には「わかった!」と快諾していた。
まだヤマモトさんに会うチャンスがほしいとかそういうことでは一切なく、シンプルに男手がほしかった。頼れるもの、ぜんぶ使いたい。
ただ、ミヤモトさんはあくまで職場の先輩だし、頼りすぎて勘違いをさせてしまう可能性もなきにしもあらず(私は距離感を見誤り続ける半生を送っているので)なので、せめて夜ご飯だけにしてくれ、というところで着地。
冷静になってみると、クリスマスに私・元彼・元彼とは面識のない職場の先輩(独身男性)で卓を囲むの、あまりにも狂った時間すぎる。
3人共通の話題、「私」しかないのに?それぞれとの思い出話に花咲かすのか??クリスマスに???
今泉力哉(敬称略)の映画の1シーンみたいじゃん、とふたりしてゲラゲラ笑った。
荷物重いだろうし、とヤマモトさんは車を借りてくれていて、おそらく最後になるであろうドライブをした。
ゆっくり行きたいね、と下道で行く。
夜ご飯はふたりでよく行った焼肉屋さんで食べた。
車中で繰り広げていた「今後の人生プランについて」を引き続き話す。
そう遠くない未来、この人は誰かと結婚して家庭を持ったりするのだろうな、私はそれをこの人の口からは聞けないのかもしれないな、と思ったら悲しくなって、結婚するときは教えてね、と小声で言う。
別れることよりも、「私はもうこの人のこれからを知ることができない」ということの方がよっぽどさみしい。
恋人とか家族とかよく会う友達とか、自分にいちばん近いところにいる人たちのことは意図的に日記に書いてこなかったのだけど、書いておけばよかったな。
4年前、まだスケジュール帳に書いていた頃の日記を読み返したら「笑ってくれるかなって思ったら最新のiPhone買ってたわ、と言われて、私この人と付き合うんだろうなと思った」と書いてあった。
「iPhoneボロボロじゃないですか、替えましょうよ」と私が茶化して言った言葉を覚えていて初めてのデートの日に最新の機種に替えてきた時のことなのだけど、これを読むまでそんなこと全部忘れてしまっていた。
確かにあの言葉で付き合おうって決めたのに。
別れ際、「車出してくれてありがとうね、遠くまでごめんね」と言ったら、「ぜ〜んぜん」と笑っていた。
私が何かを頼んだり謝ったりする度にヤマモトさんは「ぜ〜んぜん」と笑ってくれて、私はそれがとても好きだったなと思った。
後日、引っ越しの提案をミヤモトさんにしたら「待ってよ何それ、めちゃくちゃおもろいじゃん、、楽しみになってきちゃった、、」とはちゃめちゃに乗り気で怖かった。
「え、全然引っ越しも手伝うよ?あ、でも家具とか見られるの嫌だとか、そういうのあったら全然ご飯だけでも!俺は一日空けておくし、本当、いつでもなんでも大丈夫だから!」と早口でまくし立てられたので、「キモいです」とだけ言っておいた。
ミヤモトさんはウキウキしながら去って行った。
どこもかしこも狂った人間しかいない、もしかしてまともな人間は私だけなのかもしれない、、と思った。
たぶんもうここには戻らないのだろうかつておそろいだったスリッパ #tanka
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