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怪談 超ショート あっという間に読める恐怖の物語。

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実体験、体験者からの伝聞、創作など、様々な怪奇と不思議な短編をまとめました。 #ショートショート #短編 #怪談 #不思議 #恐怖
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2021年5月の記事一覧

「作品に音楽を」・・・考えると怖くなるホラー短編から、新しい音楽が生まれた。

pj_ukuleleguitar さんが、私の超ショートショートに曲を付けてくれました。ありがとうございます。 作品の中にある、日常の揺らぎ、主人公の幸福から不安、絶望への心情の変化が音楽で表現されていると思います。 ホラーの曲は、普段はあまりやっていない、不慣れなジャンルだという事でしたが、3時間ほどで作られたと危機驚きました。色々と苦労なさったと思いますが、とても楽しく聞かせていただきました。ありがとうございました。 pj_ukuleleguitar さんの音

「鉄の少年」・・・祈りをささげる小さな伝説。

『鉄の少年』 ストックホルムの港に降り立った時、 ぐずつきかけた空が、まるで冷えた鉄のように思えたのは、 この街が、かつて海外に鉄を積みだすための港であったと 船の上で聞いたからであろう。 波止場を離れ、ガムラスタンと呼ばれる旧市街を歩けば、 中世の名残を見つけることはたやすい。 すれ違うことさえ難しい狭い路地を通り抜けると、 輸出する鉄を集積していた広場にでる。 17世紀から18世紀にかけて、 ストックホルムは鉄の港として知られていた。 250年以上に渡って時を刻み続

フィンランドの怪談 天地創造編

怪談、というより、伝説であるが、お聞きください。 フィンランドに伝わる天地創造の伝説は海から始まります。 ・・・・・・ 遥か昔。 この世界には海だけがあり、一人の乙女がその海の上を漂っていた。 やがて、小さな大陸が生まれ、乙女は生まれたばかりの大地に流れ着き、 そこで最初の人間を産み落とした。 どこまでも広がる天と地の間に生まれたのは、詩人であった。 詩人は力強く立ち上がり、大自然の美しさをうたい上げていく。 その詩は、智恵の力と、魔法の力を持ち、人間に必要なものを全

「湧き水の女」・・・怪談。苦難の旅先で見た幻。

それは、まだ俺の心の若さが、恐怖に蓋をしてくれていた頃の話だ。 俺は、学生時代を通しての純愛を失い、ニヒルを気取って羽州から奥州の放浪を企てた。 不調の極みだった学業のストレスが、それまでの不摂生が溜まっていたのか、それとも、季節外れの暑さが生み出す陽炎に惑わされたのであろうか、 六郷の本陣からの道を見失い、名も無い荒れ野に入ってしまった。 日差しを避けようとしても日陰さえも無い枯れた野原では如何ともしがたい。天頂から照らす熱波の洗礼を甘んじて受けるしか術がなかった。

「蛾と真言」・・・その夜倒したものは?

さて、鏡花の体験したという不思議をもう一つ。 『蛾と真言』 少年の頃。私は蛾の類が苦手であった。 夜半に一人ランプの灯りを頼りに草紙の類を読み進める折、深淵なる闇の佳境に入りたるに限って窓のすりガラスに、多大なる音を立てるものがある。 元より苦手なる上に、あやかしの世を記しつつある夜。つど早鐘のごとく胸の内は急を告げる。 よもやこの鱗粉をまき散らす飛翔体が部屋内に入る事を想像しただけで、わが身は悶え苦しむほどであった。 その夜も例に漏れず、窓をたわしでこするごとく音を立

「怪談」・・・泉鏡花の体験した話。

『感応』 明治から昭和にかけて活躍し、近代における幻想文学の先駆者として有名な泉鏡花。 その鏡花本人の回りにも、実際に不可思議な出来事があったという。 ・・・・・・・・・・・ 私(鏡花)がまだ金沢に住んでいた時の話である。 父が仕事で東京に出かける用事があり不在にしていた。 黄昏が街を包むころ、 四つになる妹が縁側で遊んでいるのを母が見止め、ランプに火を灯しながら 「足元があやしくなってきたから上がりなさい」 と珍しく張った声で諭した。 妹は、急に不安になったのか

「消された前世」・・・怪談。忘れさせたい恐怖の思い出

あっという間に読める、超ショート怪談。でも、よ~くその場面と背景にあるものを想像してみると、じわっと何かが迫ってくる。 『消された前世』 これは私の友人の身に起こったた話です。 その友人の4歳になる息子さんが、前世について話し出したというのです。 始まりは、スーパーの冷菓売り場で、食べさせたことがない高級アイスクリームを指さして 「これ大好きだったんだ」と言ったことでした。 その後、前世の話はどんどん多くなっていったそうです。 亡くなった祖父の写真を見て、 「おじ

「十六夜に月光が舞い時計が笑う」・・・怪談、未完の連載小説

『十六夜に月光が舞い時計が笑う』 楽しみにしていた連載小説や連載漫画が、突然終わってしまう事がありますよね。 夏目漱石の『明暗』や尾崎紅葉の『金色夜叉』などは一般にも知られていますが、 出版関係者の間で有名な未完の小説があります。 この小説は、読者に文学界の話題を語り掛ける形で始まり、 不思議な世界観で純朴な恋愛物語が展開します。 しかし、この作者「A」が嫉妬に狂った浮気相手に刺殺され、連載途中で亡くなってしまったのです。 愛妻家として知られていた作家が痴情のもつれで亡

知られざる傑作群・・・「劇画ロードショー」。

「劇画ロードショー」は、洋画の宣伝として主に1970年代に月刊チャンピオンで掲載されていた企画漫画。 2時間余りの映画を16~32ページほど(時にはもっと長く)にまとめて劇画化していた。 当時、この劇画ロードショーのみならず洋画のコミカライズは、いくつかの雑誌で著名な作家が執筆していた。 「エクソシスト」「ヘルハウス」をホラー漫画の第一人者、古賀新一。 「ミスターノーボディ」「アランドロンのゾロ」を8マンの桑田次郎。 「ヒンデンブルグ」をアクション漫画家の田辺節雄。

怪談「塩の宿」・・・恋の道、純粋と、不純。その結末は・・・

『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』という言葉がありますが、 この物語では「牛」が狙われました。ところが・・・ 『塩の宿』 長野県の松本市から新潟県の糸魚川市に至る千国街道は、 江戸時代には塩の流通で栄え、塩の道と言われていた。 当時の塩の流通は、主に歩荷(ぼっか)と呼ばれる人力による輸送と 牛の背に荷物を載せて運ぶ、牛方(うしかた)と呼ばれる輸送が中心であった。 街道沿いのある茶屋の娘が、毎日のように家の前を通る一人の牛方を 見ているうちに恋に落ちた。 「休む暇も