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鄭玄で学ぶ中国古典

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後漢の大学者である鄭玄の一生やその学問を通して、中国史・中国古典の世界を知ることができる記事です。
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2021年2月の記事一覧

後篇・第三章「鄭玄の経書解釈法」

後篇・第三章「鄭玄の経書解釈法」

六藝論―鄭玄の経書観 鄭玄の経書観は、初期の著作である『六藝論』に整理されており、ここに彼の学問全体を貫く構想が示されています。「六藝」とは、易、詩、書、礼、楽、春秋の六種の経書を指します。このうち『楽』は散佚してしまいましたが、「六藝」といえばこの六種の経書を指すと考えてください。なお、「藝」は「芸」の旧字体ですが、中国では「芸」は別字になりますので、「藝」の字を使っておきます。

 さて、ここ

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後篇・第四章「鄭玄の「礼」研究」

後篇・第四章「鄭玄の「礼」研究」

周代の礼制を復元せよ ここまで、鄭玄の経学における基礎作業、理念、思考法を見てきました。以上を踏まえて、彼が具体的にどのような成果を出したのか、本章で見ていきましょう。

 鄭玄の学問成果は、何といっても「礼学」に発揮されました。「礼」とは古代中国を語る上で最も重要な概念の一つで、社会秩序を保つための政治的・社会的・倫理的な決まり事(規範・制度など)のことです。

 「礼」には、「子は父を敬うべき

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後篇・第五章「鄭説の概要」

後篇・第五章「鄭説の概要」

儒教の最高神―昊天上帝 ここまで、鄭玄の学問に焦点を当てて、基礎作業、解釈方法、その理念と実践を解説してきました。この本書の構成を見てみなさまがどうお感じになられたのか分かりませんが、実は学界で一般的に「鄭説の解説」と言われた時に想像されるメジャーどころの内容を、まだほとんど説明していません。むしろ、ここまで取り上げてきた「君子謂衆賢也」「留車・反馬の礼」「含・襚・賵・賻」「三者同制説」といった事

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後篇・第六章「鄭学の受容と批判」

後篇・第六章「鄭学の受容と批判」

王粛の登場 鄭玄より少し後の時代、鄭説の反駁者として有名なのが魏の王粛(一九五~二五六)です。王粛に関する研究も非常に多く、鄭玄と王粛の学説比較はもちろん、王粛が西晋の皇帝である司馬氏と親戚関係にあることから、政治上の立場と王粛の学説を結び付ける議論も盛んです。
 王粛は、『孔子家語』という本の偽作者に認定されたこともあって常にマイナスイメージがついて回り、「何が何でも鄭玄に反駁することを好んだ偏

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後篇・第七章「現代の視点」

後篇・第七章「現代の視点」

鄭説の意義 後の歴史の展開を見ると、第四章の終わりで述べたような矛盾は内包しながらも、鄭玄はその後長く受け継がれる体系的な礼制度の構築に成功したと言えます。これが経学においてどのような学術的役割を果たしたのかという点について、最後に考えることにいたしましょう。

 何度も述べたとおり、経書はもともとがバラバラに成立したもので、全体量も多いですから、様々な内容を含んでいます。極端に言えば、「AはBで

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『鄭玄から学ぶ中国古典』おわりに

 読者の皆様、ここまで読んできていただいて、本当にありがとうございました。内容については誤りもあるでしょうが、いま自分が書きたかったことはなんとか説明できたと思います。

 最後に、一つの疑問に答えなければなりません。本シリーズで長々とやってきたような歴史や古典に対する研究・考察は、現代我々が生きていくに当たって、何の役に立つのでしょうか?

 これに対しては、たくさんの回答が浮かびます。実は、「

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