大切

「ねえ。君にとって大切な物はなあに」

『ん、そうだなぁ。長くて真っ暗な夜に聞くラヂオに、人差し指の真っ青な石の付いた指輪でしょ。優しい言葉だけを書いたメモに、それから¨¨』

そこまでいうと、呆れた声で

「君はさ、本当に自分のことが大切なのね」

大切なものって、と考えた時
そんなことを言われたことがあった事を思い出した。

無論、自分のことは大切だと思っている。
その時、言い返せなかったくらい
マトを得た言葉だった。

自分のことを
大好きでいられるように努力だってする。
普通の生活すらままならない、
そんな自分を愛すのには
直接的でない、〝無機質〟な優しさをくれるものがとても大切なのだ。

誰かの優しさの香りのしないもの
私にとって大切なモノの基準なのだ。

私にとって大切な映画がある。
岩井俊二監督の手がけた
「リップヴァンウィンクルの花嫁」という映画だ。

ストーリーについては
ぜひ見て頂きたいので割愛をするが、
物語の後半で
とある登場人物がボソボソと、
漏らす言葉が大好きなのだ。

わたしね、
コンビニとかスーパーとかで買い物してるとき、
お店の人がわたしの買った物をせっせと袋に入れてくれるときにさ、
わたしなんかのためにその手がせっせと動いてくれてるんだよ。
わたしなんかのために 。お菓子やお惣菜なんかを袋につめてくれてるわけ。
それを見てると胸がギュッとして泣きたくなる。
わたしには幸せの限界があるの。
誰よりも早く限界がくる。ありんこよりも早く。

そうして、次の言葉で締め括るのだ。

「だってこの世界はさ、幸せだらけなんだよ 」

こんなにも、優しさの香りのする世界で生きている事。
それが時に怖くて仕方がなくなることもあるのだ。
このセリフ、映画も私にとっては大切で
私なりの自己防衛。
私だけの大切なモノ。