私は大切な人の人生を否定した

私は母が好きだ。

母はやさしく、面白く、いつも他人のために行動する。そんな母を、私は尊敬している。

でも私は母の人生を否定したことがある。

大学生のころ、就職活動を前に母にこう言った。

「私はお母さんのようにならない」


母は主婦だ。
保育士をしていたが、結婚後、出産を機に仕事を辞めて家庭に入った。私が小学校高学年になったころから、スーパーや保育園でパートをしていたが、フルタイムで働いてはいない。

キャリアウーマンになりたかった大学生の私は、結婚にも子育てにも興味はなかった。もし結婚しても、仕事は続けるつもりだった。

そんな私にとって母は好きだが、ロールモデルではなかったのだろう。
だからふとしたタイミングで、母のようにはなりたくないと、ひどいことを言ってしまった。


母が仕事を辞めたのには、理由があった。

母は兄を妊娠する前に何度か流産をしていた。
そして兄を妊娠してからは、ひどいつわりや切迫早産で布団の上で過ごす日々が長かったという。

当時は結婚・出産で仕事を辞める女性が多かったので、選択肢としては当たり前だっただろう。
だがそれ以外にも、退職には「子どもの命を守る」という理由があったのだ。

私はそんなことも知らずに、ただ自分の理想とするキャリアプランと違うというだけで、母の人生を否定した。

母がそれに対してどういう反応をしたかはよく覚えていない。
ただ怒ったり反論したりはされなかったことは確かだ。


でも自分が母になった今ならわかる。
悲しかっただろうなって。


私は結婚式のとき、両親への手紙でこんなことを言った。
「私は母のようになりたい」
たくさんの人から愛され、頼りにされる人。私はそうではないから。

その気持は今でも変わらない。

仕事してたかなんかどっちだっていいんだ。


母に謝りたいとは思っていない。

ただいつか、伝えたい。
「私たちを守ってくれて、ありがとう」と。

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