
デザイン思考「G-CID®」の教科書
1.はじめに
突然ですが質問です。
Q:デザインとはなんですか?
A:デザインとは「 」である。
皆さんはカッコの中にどんな言葉を入れますか?
デザインという言葉から感じる印象や、デザイン業界の方であれば考え抜かれた言葉が入りそうです。
ここで一つだけ言える確かなことがあります。
皆さんの答えは、バラバラです。
というのも今まで同様のアンケートをとってきましたが、見事にバラバラなんですね。

以下アンケートの抜粋です。
設計/情熱/心理学/生き方/目的を果たし共有するためのものづくり/愛情の結晶/被服/表現/意思/文字写真の配置/心の現れ/作品/戦略/第一印象を決めるもの/見た目/機能美/料理/目的を持って想いを形にすること/正解のないもの/見てわかるようにすること/感情
面白いですね。この多様さはある種の価値と言えそうですが、やはりデザインへの認識は皆それぞれということがわかります。
まあそんなこと気にしなくてもいいのでは、と思う一方で世間ではどうも〇〇デザインが増えていると思いませんか?
例えば
ソーシャルデザイン
キャリアデザイン
フードデザイン
体験デザイン
最近ではドリブルデザイナーや発酵デザイナーという肩書きも聞きます。
デザインが、美的なものとは関係の無い言葉にくっつき初めています。
これは一体何を意味しているのでしょう。
かっこいいから?と聞こえてきそうですが、きちんとした理由があります。
それがこれから語っていく内容、つまり「デザインとは何か」を知ることで理解することができます。
そしてデザインのことがわかると、今後個人や企業がどうあるべきか、そんな姿をくっきりと描けるようになってきます。
本ノートは、デザインとは何だろう?という問いを16年続けてたどり着き、獲得したナレッジを皆さんとわかちあうものです。
文章の中で何度も「定義」という言葉を便宜上使いますが、皆さんが納得してこその定義だと思うので、意味合いとしては「最も便利な解釈」と捉えてください。
では、始めましょう。
2.今デザインが必要とされる理由
2018年5月23日に経済産業省と特許庁が共同で「デザイン経営」宣言というレポートをリリースしました。欧米諸国の事例を元に、経営にデザインを導入したことで大きな成長に繋がっている、なので日本の企業もデザインを導入すべし。そういった内容が盛り込まれています。
昨今「生産性」が企業経営のホットワードになっていますが、それもそのはず、日本の生産性はG7で47年連続最下位です。
47年連続最下位なのにGDP3位の経済大国。そのギャップは「モーレツ」「企業戦士」等々の言葉に象徴される「労働量」によって補填されてきたことは容易に想像がつきます。そして今まで当たり前だと思ってきた方法論では、少子高齢化をはじめとする急激な経営環境の変化にいよいよ耐えられなくなってきた、ということだと思います。
そこで登場するのが「デザイン」です。
今回、国主導でデザインを経営に導入する機運を高めていることは大きな前進であり評価されるべき点です。
しかし、一方である問題を読み取ることができます。
「デザインの導入の仕方がわからない問題」です。
ロゴを新しくする。
ホームページをかっこよくする。
パッケージの凝った新しい商品を開発する。
これは決して間違ってはいません。
しかし本来的なデザインの力が発揮されているとは言い難く、別の言い方をすると非常に勿体無い状態です。
つまり「デザインが何なのかわからないので、デザイン自体の生産性が落ちている」といえます。
なので、まず解決すべきは「デザインとは何か」を定義することです。
それも、誰もがすぐに理解できるレベルにまで落とし込んだ定義が必要です。
3.デザインは効果の出やすいところから広まった
多くの人にとってデザインのイメージは色や形のいわゆる「視覚情報」にまつわるものがほとんどでしょう。視覚情報による影響は90%と言われるくらい、わかりやすく強いインパクトを持っています。そたのため「デザイン」は広告業界で広く使われるようになり、グラフィックデザイナーという視覚情報を扱う肩書きが先行して生まれてきました。
結果、デザインとは美的センスによる表現、といった捉え方が私達の常識となっています。
そういった理由もあり「デザイン」の中には「かっこいい」「おしゃれ」等のイメージが入っていますが、それらは二次的なもので、着目すべきは「かっこいい」「おしゃれ」という「感情を喚起すことにデザインが成功している」点です。
先ほど触れたように、すでにデザインは美的なものとは関係のない言葉とくっつき始めています。それを「なんでもかんでもデザインをつけて!」と憤る方もいるかもしれませんが、「なぜデザインをつけた名称が増えているのか」その理由にきちんとアプローチすると、デザインは美的なもの、というこれまでの解釈が瓦解していきます。
狭義のデザイン、広義のデザインという言い方もありますが、この辺りもきちんと伝わるものにしたいところです。そうでなければ、いつまでたってもデザインの生産性は向上しないのですから。
4.デザインの定義
デザインとは何か。その手がかりを得たのは、2018年の5月、いつものようにパソコンに向かって仕事をしている時でした。
手元にあるコーヒーカップにふと目を移した時、あるコンセプトが浮かびました。
「このカップは、アイデアの塊だ。」
今まで目の前にかかっていた靄がサーっと晴れるような感覚と共に、湧き上がるような興奮が襲ってきました。
そして確かめるように呟きました。
熱くても持てるように取っ手をつけるというアイデア。
コーヒーがこぼれない深さというアイデア。
口当たりが良いように縁の角をとるというアイデア。
どんな空間にもあう生成色というアイデア。
陶器で作るというアイデア。
手頃な価格というアイデア。
全て「アイデア」だ。
つまり、自分はアイデアの塊でコーヒーを飲んでいる!
「このカップ(デザイン)はアイデアの塊だ。」

デザインとアイデアに強い相関関係があることに気がつき、同時に確信も得ました。
しかし、続けて浮かんできた「デザインの定義らしいもの」にはためらい、躊躇しました。
なぜならあまりにシンプルすぎたのです。
長い間探し求めていた答えが、こんなにも単純でいいはずがない。
他にもっとそれらしい定義があるはずだ。
そんな煩悶を半年ほど続けたと思います。
その結果、やはり答えはこれしかない、そう結論に至りました。
デザインとは「アイデアをかたちにすること」である。
これがデザインの定義です。
いたってシンプル。
驚くべきシンプルさです。
早速事例を使って確かめてみましょう。
・グラフィックデザイン→グラフィックに関するアイデアをかたちにすること。
・グラフィックデザイナー→グラフィックに関するアイデアをかたちにする人。
私自身グラフィックデザイナーとして仕事をしてきましたが、確かにフォルムや色、質感など、グラフィックに関するアイデアをかたちにしてきました。
駆け出しの頃は、デッサンをしろ、色々な事例を見て参考にしろ、と言われ続けました。
私も、今教える立場では全く同じことを言います。
なぜなら学生やデザイナーの卵にとって形にするためのアイデアが圧倒的に不足しているので、まずは取り出せるアイデアをストックすることが効果的なのです。
グラフィックデザイナー以外の事例も考えてみましょう。
・フードザイン→食べ物に関するアイデアをかたちにすること。
・フードデザイナー→食べ物に関するアイデアをかたちにする人。
・ドリブルデザイン→ドリブルに関するアイデアをかたちにすること。
・ドリブルデザイナー→ドリブルに関するアイデアをかたちにする人。
いずれも破綻無くスムーズに理解できます。
人によっては狐につままれたような感覚かもしれませんが、私自身がそうだったので、同じ気持ちです。
確かなのは、身の回りにある全てのものがデザインされたもの、つまりアイデアの塊として世界を眺めることで、驚くほど情報の入り方が変わってきます。より詳細に、よりその奥に意識と興味が向かい始めます。それが、新たな気づきの一歩になるかもしれません
5.デザインの評価
さて、デザインとはアイデアをかたちにすること、そう定義しました。
大きな大きな前進です。
しかし、疑問が浮かびませんか?
アイデアをかたちにすれば、全てデザイン?
答えはYes。
では、デザインの良し悪しはどう決まるのでしょう。
例えば、同じモチーフでビジュアルを作った時、一方はいくつもの「いいね!」もう一方は「いいね!」ゼロ、そんなことがあったとします。
「いいね!」を多数獲得したビジュアルは、「かっこいい!」や「美しい!」と見た人の心を掴んでいます。
感情を掻き立てることに、ビジュアルが機能しています。
機能。
そう、機能なんです。
「いいね!」ゼロは、感情を掻き立てることに機能していない、と言えます。
つまり、欲しい目的や目標に対して機能しているかどうか、それがデザインの評価の仕方です。
この機能は英訳すると「Work」。
良いデザインは「働く」のです。
感情を掻き立てるよう働きかける、デザイン。
みなさんご存知くまモンは7年間の累計売上高が6600億円だそうです。
仮に年間3000万円を売り上げる営業マンが7年働いたとすると、およそ3142人分です。
つまり3142人分くまモンというキャラクターデザインが働いてくれている訳です。
良いデザインは「働く」のです。
デザインの本質を掴もうとすると逃げていくような感覚があるのは、定義だけでなく、その評価の仕方にも重要な役割があったというわけです。
まとめ
・デザインとは「目的に対して機能するようアイデアをかたちにすること」
6.デザイン思考
さて、以上でデザインとは?に関する簡潔な答えにたどり着くことができました。
十二分に大きな収穫です。
しかし、私にはデザイン自体の生産性をもっと上げたい、という想いがあります。
第一に、デザインのプレゼンスを上げたいと思っています。
デザインの価値をきちんと伝えられない故に、デザイナーやデザイン業界の価値が本来あるべきポジションより低くなっている、そう私は感じてきました。
そして第二に、デザインを全ての人が使えるものにしたい。そんな想いがあります。
企業運営や職業上の肩書きにとどまらず、普段の暮らしの中で全ての人が自然とデザインすることで、世の中はもっと良くなる、そう確信しているからです。
ですので、次にアプローチしたいのが「デザイン思考」です。
しばらく前にアメリカのデザインファームIDEOが広めた思考法で、書籍も多く出版され、ウェブメディアでも大分触れられてきましたが、やはりデザインが何だかわからない問題のせいでピンとこない、よってうまく導入できていない、そんな風に私は受け止めています。
専門性の高い人には理解と導入ができるかもしれませんが、ここで大切にしたいのは、誰でも理解できるものであること。そして使えるものであることです。
それを念頭に置きながら、みんなが理解でき、使える「デザイン思考モデル」の開発に望みました。
結論としては、作ってみたことで道具としての便利機能もいくつか発見されたので、合わせてご紹介をしていきます。
7.PDCAが回らない問題
PDCA、生産管理の思考モデルとして多くのビジネスパーソンに使われていて、その使い方を示した指南書も多数書店に並んでいます。私もPDCAを回すべく何度か試みましたが、なぜか引っかかりを感じてうまく回せませんでした。その理由を、先の「このカップはアイデアの塊だ。」によって気づくことになります。
つまりPDCAの「アイデアのありか」がわからなかったのです。
P(プラン)の中にありそうな気もするし、A(アクション)の中にもある気がする。さらにプランは目標、スケジュールなど複数の要素を含むので、理解の煩雑さは増し、思考をスタックさせてしまう傾向もあります。
そこで一つの仮説を立ててみました。
「アイデア」を中心とした、誰もが使える思考モデルが構築できるのではないか、と。
8.デザイン思考フレーム「G-CID®」
アイデアはどういった時に思いつくのでしょう。いきなりアイデアが降ってくる(と感じる)場合もありますが、なんらかのインプットがなければアイデアは生まれません。人と話をする、匂いをかぐ、クライアントにヒアリングする等々、意識・無意識に関わらず様々な環境でのインプットに影響される形でアイデアは生まれるはずです。その様々なインプットを「アイデアの素」とします。
アイデアの素をチェックして、アイデアを生む
Check→Idea
アイデアを実行
Check→Idea→Do
プロダクトの評価・検証
Check→Idea→Do→Check
改善アイデアをだす
Check→Idea→Do→Check→Idea
改善アイデアを実行
Check→Idea→Do→Check→Idea→Do
以上より、ユニットとして取り出せるのは
Check→Idea→Do(CID)
です。
CIDは私のデザイン業務に当てはめて見ても、スムーズに回ります。
ヒアリング(C)→企画提案(I)→制作(D)→クライアントチェック(C)→改善アイデア(I)→改善(D)→クライアントチェック(C)→・・・
そして、デザインをする前提として「何をデザインするのか」という目的設定が必要になります。
この目的設定が大きくアウトプットを左右します。
つまりCIDはGに向かってスパイラルアップしていきます。
これをデザイン思考フレームG-CID®(ジーシッド)と名付けます。

次からは、それぞれの要素に区切って理解を深めます。
9.Goal
Goal:ビジョン、目的、目標
ゴールが最初からビビットなこともありますが、多くの場合最初はぼんやりと、CIDを回しながら徐々に明確になってくるものです。ですからプロジェクトの途中途中できちんと目的を確認して行くことが重要です。
<良いデザイン悪いデザイン>
デザインの評価において、目的、目標へ機能するものが良いデザインとしました。
そして当然悪いデザインも存在し、その種類は3つあります。
①ゴールに届いていないデザイン→方向性は合ってるが、クオリティが足りず機能しないデザイン

②ゴールと見当違いの方向へ向かってるデザイン→どんなにクオリティが高くても、機能しないデザイン

③そもそもゴールが無い、ゴールが曖昧なデザイン→やっていること、頑張っていることに意識が向いてしまい目的意識を見失った生産性の著しく低いデザイン

一方でものすごく良いデザインも存在します。
想定していた目的・目標のはるか上に突破し、もっと大きなゴールに到達する場合。
前出のくまモンはその好例です。

良いデザイナーの共通点は、方向のチューニングが抜群に上手いのと、依頼側が想定しているゴールより上に目標を設定している点です。
<デザインしないでデザインをする>
既存のものに新たな目的を設定することで、作らずにデザインすることもできます。
茶の湯に「見立て」という概念がありますが、そこに通じるものがあります。
例)
・空き瓶を一輪挿しとして使う
・ゴミ箱を裏返してスツールにする
・椅子をステップにして電球を変える
実は多くの場合、デザインはもともとの目的とは異なる目的を宿す、まるで宿り木のような存在になります。これが世界をより豊かにしている秘密かもしれませんね。
作らずにデザインをするという視点は、消費が縮小していく時代においてますます必要になるセンスでしょう。
10.Check
Check:
(1) アイデアの素をチェック(観察・調査)
(2)プロダクトをチェック(評価・検証)
(1)はサイクルのスタートに当たる部分です。普段色々なものを見たり聞いたり食べたりから、仕事上でのヒアリングやマーケット調査がこの部分にあたります。
(2)はサイクルの2回転目以降です。形にしたモノ・コトを評価・検証していきます。ポイントはゴールに対して機能しているかどうかです。なので、ターゲティングを始めとするマーケティングが必要とされる所以はここにあります。きちんとゴールを明確にすることで、デザインを機能させようとする営みとしてマーケティングは機能します。
<変化への抵抗から生まれたチェックは回転を止めてしまう>
マネジメントの世界で、社内にイエスマンだけでなく、反対意見を持った人がいるべきだ、という考え方があります。確かにイエスマンばかりで社長の一声で物事が進むより、時に正直な指摘が入ることでプロジェクトに刺激や緊張が生まれ、より良いデザインが生まれたりするものです。ただし、この場合は「より良いデザインを生む」という共通認識が前提としてある場合で、変化への抵抗から生まれたチェックはプロジェクトを止めてしまうばかりか、新たなデザインを生む機運を阻むことになりかねません。
日本では高品質なものは生まれるけど、革新的なものが生まれづらいのはこのあたりに理由がありそうです。
11.Idea
Idea:アイデア
CIDのサイクルにおいて、実際にはアイデアとチェックは頻繁に行き来をします。
C⇆I→D
<可能性の拡張>
「アイデアを形にする」とは、「可能性を拡張する」ということです。
広告の新しいアイデアは、広告自体の可能性を拡げます。
発酵の新しいアイデアは、発酵自体の可能性を拡げます。
つまり、現在デザインが世の中に広まってきている理由は「可能性を拡げるため」と読み解くことができます。
行き詰まりを感じるこの世の中で、アイデアで可能性を拡張しようとする試みが、デザインなのです。
12.Do
Do:実行、実施、行動
<プロトタイピング>
デザインは形にしてこそデザインですが、面白いアイデアが沢山でたわりには一つも形にならないパターン、ありますよね?
C⇆I
ここでおすすめしたいのが「プロトタイピング」。
出たアイデアをとりあえずざっくりと形にしてしまう。そうすることで、議論が生まれたり、最終的な形へつながる可能性が生まれます。
C→I→D
<ブリコラージュ/ティンカリング>
ブリコラージュ/ティンカリングという言葉もあり、プロトタイピングに近い感覚ですが、まずは形にしてアイデアを発見するという方法です。
D⇆C→I
これも、デザインする上で非常に有効な手段ですし、いわゆるデザイナーの仕事はこの感覚に近いかもしれません。様々なラフスケッチからピタッとくるアイデアを発見する、という感じです。
13.サイクルの大きさと速度
CIDのサイクルは、デザインするものの規模によって、大きさと回転速度が変わります。
・プロジェクトのシッドサイクル

大きくてゆっくり
・タスクのシッドサイクル

小さくて速い
例えばグラフィックデザイナーの仕事の場合、CIDが規則正しく回っていることはなく、高速に回転・行き来をしています。この場合はG-CIDを「デザインチェックの道具」として使います。
目的に向かっているのか、良いアイデアが出ないからもっとリサーチしよう、早めにラフをチェックしてもらって方向性を合わせよう、などです。
14.G-CID®はカスタマイズできる
世の中にはPDCAを始め、OODAループなどいくつか有名な思考モデルがあります。
いずれもある目的において機能する思考モデルなので、汎用性は高いとは言えません。
一方でG-CID®はデザインするという目的において、あらゆることにカスタマイズが可能です。
・計画(P:Planning)を入れたい場合
GP-CID
・意思決定(D:Decide)を大切にしたい場合
G-CIDD
・フィードバック(F:Feedback)作業を重視したい場合
G-CIDF
ぜひ個々に合ったG-CIDにカスタマイズしてみてください。
さて、一息にデザインの定義やG-CID®について語ってきましたがいかがでしょうか。冒頭で、デザインのことがわかると今後個人や企業がどうあるべきか、そんな姿をくっきりと描けるようになってきます、と申し上げました。
ここからはそのことに触れてみようと思います。
15.デザイン経営
デザイン経営とは、企業活動においてG-CID®サイクルを回し続けることです。
ビジョン、目的、目標を明確にし、スパイラルがゴールへ向かっているか、デザインが機能しているかチェックし、アイデアを形にし続ける。
なので、経営者の最も大切な役割はゴールの設定です。そして、CIDがGへ向かっているかを管理するのがマネージャーとしての役割と言えます。
そう考えると、G-CID®を管理する「デザインマネージャー」という肩書きがとても大切なことがわかります。「デザイン経営」は英訳すると「Design management」ですからね。
16.企業のデザイン会社化
次に、私自身が手がけているブランディング事例についてお話しします。
ブランディングといってもその幅は広く、企業理念の策定などアイデンティティの開発からウェブ構築やパンフレット制作、SNSを使った認知などありますが、すべてのプロジェクトには共通したある狙いがあります。
それは「企業のデザイン会社化」です。
デザインは可能性を拡張すると申し上げました。
つまり、企業の持続可能な営みはデザインによって実現される。よって、あらゆる企業はデザイン会社化していく、そんな風に以前から予測を立てていました。
結果、これまで手がけてきたクライアント企業は軒並みデザイン会社化していて、いずれの会社もアイデアにあふれています。
打ち合わせはトップダウンの重苦しい雰囲気はなく、若手社員を中心とした自由闊達なブレインストーミングが自然と繰り返されています。
その様子を外から眺めていると、デザイン業界にずっといる人間だからわかりますが、デザイン会社そのものの姿です。
その対極にあるのが、社会問題化している「ブラック企業」でしょう。
山登りにたとえてみます。

頂上(ゴール)にたどり着くためのルートAがあったとします。
いつもはルートAで問題なく登頂できていました。
しかし、ある日崖崩れが起きて、まともには通れる道ではなくなってしまいました。
にもかかわらず、ルートAしかないと思い込んでしまい、やる気と根性で登山、結果事故は起きゴールにもたどり着けない、これがブラック企業の姿です。
崖崩れは経営環境の急激な変化です。
この時、視点を変えて、脇に隠れていたルートBを発見する、もしくは新たなルートCを切り開き登頂への可能性を拡張させること、それがデザイン企業の姿です。
デザイン経営はすなわち「企業のデザイン会社化」を意味しています。
かっこいいウェブサイト制作がデザイン経営の一部分、一つのアイデアであることがこれでお判り頂けたと思います。
17.デザインチームを作ろう
CIDは人の適正を大まかに捉えるツールとしても役に立ちます。
C(チェック):リサーチ力や細部への視点を持っている人
職業:リサーチャー、経理、校閲
I(アイデア):企画力を持っているアイデアマン
職業:プランナー
D(ドゥ):形にする力や実行力のある人
職業:デザイナー、カメラマン、職人、営業
また人ではなく、国で考えることもできます。
C(チェック):日本
品質管理の国
I(アイデア):アメリカ
インターネットや車、ビッグアイデアの国
D(ドゥ):中国
桁外れの実行力
おおよそ納得感があるのではないでしょうか。
こうやって眺めると日本は「IとD」に大きなポテンシャルがあるので、今後伸ばすべき分野が「デザイン」であることがわかります。
もともとの細かい点に気づく日本人らしさは大切にし、発想豊かな人間や、多動性の人材をうまく「デザインチーム」として機能させる視点が今後ますます必要になってきます。
例えば、もし飛び抜けたアイデアが出ない場合、アイデアの素になる情報を沢山集めてきたり、人と人をつないでプロジェクトを具現化するなど、デザインチームの中でどう自分が機能できるか、その役割をきちんと見極めることで一人一人のパフォーマンスが変わり、プロジェクトの成果にも好影響を及ぼします。
18.全ての人がデザイナー
企業での肩書きとは別に、自分だけのデザイナーの肩書きを全ての人が持っていると私は考えています。
その試みとして「デザイナーズ名刺交換会」というワークショップを開催しています。
まず自分の興味あるものを書き出し、そこに「デザイナー」をつけてもらいます。
そして「これだ!」と思う〇〇デザイナーを一つだけ選び名刺を制作。4〜5枚手に持ち名刺交換開始。相手に「どんなことをデザインしているのですか?」と質問し、それに応えるというワークショップです。
とてもシンプルなワークショップですが、驚くほどその人らしさが出てきます。
例えば大学生向けに行った回では以下のようなデザイナーが生まれました。
たし算デザイナー/ベーカリーデザイナー/ぼっちデザイナー/カフェ探しデザイナー/あいさつデザイナー/ひらがなデザイナー/パンク修理デザイナー/習慣デザイナー/サッカーオフェンス戦略デザイナー/おしゃべりで相手を笑顔にするデザイナー/おみそ汁デザイナー/コレクションデザイナー/マンガデザイナー/男のロマンPCデザイナー/ハンバーグデザイナー/ウォッチバンドデザイナー/100回使える皿デザイナー
いかがですか?どれを取ってもオリジナルで、その人らしさが十二分に表現されているし、そのままビジネスになるのでは?というものがいくつもあります。何より、ストレートに自分の想いを伝えるきっかけになるので、想像以上に盛り上がるワークショップとなります。
盛り上がるデザイナーズ名刺交換会↓

デザインは限られた人のものではなく、全ての人のもの。全ての人がデザイナーであることに気がつけば、本当の意味で世界に変化が生まれてきます。
19.おわりに
大学4年の時、友人宅で初めて目にしたマッキントッシュ。それ以来デザインを生業とし、20代はグラフィックデザイナーとして車メーカーのカタログやファッション広告、時にはアートのようなオブジェをデザインしたり、30代は独立してブランディングの仕事に携わってきました。振り返ると本当にデザインに取り憑かれるように過ごしてきました。
今ならなぜデザインに魅了されてきたのかわかります。
アイデアを実現すること、それによって可能性が拡がっていく感動は私にとってかけがえの無い喜びだからです。
デザインは面白いもので、それを生み出した人、組織、企業の個性を色濃く反映します。
その理由は、アイデアはアイデンティティと密接につながっているため、そう私は考えています。
故に企業や個人の「あり方」がとても大切になってきていると言えますが、このことについてはまた別の機会に触れようと思います。
さて、今後ますます大きくなる不安の一つに、ロボットやAIの台頭があるでしょうか。
当然のようにAIによってアイデアやデザインが生み出されることになるだろうと思います。
しかし、インターネットやアルゴリズムの中にない、人間だけがチェックできるものはまだまだあります。
外へ出て、見て、聞いて、触って、味わって、かいでみる。
その先に、人間だけが生み出せるデザインが無数にあります。
私たちはみなデザイナーです。
自分で限界を決めない限り、可能性は拡張し続けます。
無数にやってくる課題を、デザインで解決する。
そんな人や企業で溢れるビジョンが私には見えます。
希望へ歩みを進める、そのきっかけに本ノートがなれることを祈って。
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※「G-CID」は株式会社グティの登録商標です。
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