オキナワンロックドリフターvol.109

お恥ずかしながら、小学校から高校まで友達が少なく、そんな私だから協調性やコミュニケーション能力を是とされる世の中では息苦しく、小学校5年にしてパニック障害を発症し、今は寛解したものの、時々しんどさから今もフラッシュバックが起こり、そこから体調を崩しがちである。
そんなわけだから大学で一番の心配は友達ができない大学生活を送るかもしれないという不安だ。
さて話は新入生歓迎キャンプに遡る。やはり、9つの年齢差の隔たりを思い知らされた上に、レクリエーション等についていけず、歓迎キャンプ実行委員会によるムービーを見る時間になると、フラッシュバックは起きるは鼻血を出すわで、医務室用の別室で寝て過ごす泣きたい事態になった。
やはり、9年遅れで大学進学したのが間違いだったのか。やはり孤立してしまうのか。
布団の中で、鼻をおさえながら泣いたのは今でも覚えている。
かといって、中道さんが提案した、訳あり姐さんキャラクターなんて演じてもボロが出そうだ。
時に卑屈になったり、時に足掻きながら考えた結果は。
いつもの私でいよう。
孤立無援なんて今に始まったことじゃないし。
友達が一人でもできたら儲けものだ。
そう開き直って、私は大学内のチャペル委員会に入ったり、聖歌隊に入ったものの、基本マイペースで大学生活を送った。そうしたら早速友達ができた。すらりとした長身に伸びやかな足を持ち、脱色した天然パーマが天使の巻き毛みたいな女の子、シオミちゃんという女の子だ。最初に声をかけてくれ、なおかつ専攻学科は違うけれど授業が一緒だと、授業の終わりにわからないところを色々質問してくれるシオミちゃんは大学で初めてできた友達だった。
「まいきー、帰りに蜂楽饅頭食べよう!」
聖歌隊の練習がない日はシオミちゃんと一緒に帰り、市街地にある蜂楽饅頭という蜂蜜が生地や餡に練り込まれた今川焼のような饅頭を食べにいったりした。
高校時代には無縁だった優しい世界がそこにあった。
シオミちゃんのおかげでだんだんと友達が増えた。
最初は別の学科の子たちからだった。おっとりした、つぶらな瞳と唄うような声がかわいらしいナミちゃん、柔らかな巻き髪とオリーブのように華奢な体躯がキュートなマホちゃん。彼女たちがいるから、私は放課後の聖歌隊の練習が苦にならなかった。
6月くらいには同じ学科の子たちとも仲良くなった。しかし、グループ作成で一緒だったルリちゃん以外は男子ばかりなのが私らしい。JJやCanCamに出てくるようなファッションの女の子たちは私をせせら笑うか、異形のものとして見るかの何れかだったので相手にされなかったのだ。
男の子たち5人には随分と助けられた。本城くんという華奢な体躯と雪のように白い肌の男の子、大川くんというスキンヘッドに三白眼という強面の容姿ながら面倒見のいい子、一番の秀才肌かつ人懐っこい柳瀬くん、長身に楠田枝里子かクレオパトラかという黒髪のボブカットのミステリアスな、それでいてさりげなくアドバイスしてくれる但馬くん、そして、温和かつ努力家で、朴訥な風貌の理央くんという子たちだ。
ゆとり世代ならではの穏やかな気質の彼らは、蹴倒すばかり、なおかつ自分にとって圏外だと思う人間には残酷だった、私が学校や職場で知っている同世代の男性たちと真逆で、このまままっすぐ生きてくれと願うくらい気持ちの温かい子たちだった。
但馬くんとは残念ながら卒業から没交渉になってしまったが、本城くん、大川くん、柳瀬くん、理央くんとは今でも連絡を取り合っている。
閑話休題。
自閉スペクトラム当事者である森口奈緒美さんの著書『平行線』の後書きで、森口さんは「友達を作ろうと思うのをやめたら友達ができた」と記されていたがまさにそのとおりで、躍起にならずに肩の力を抜いたら、自ずと友達ができたのだ。
そして、それは物心ついた時から暗い海に放り出され、時には誰かにオールを奪われたり、時には木切れに掴まるしかできず溺れかけていたような私にとって、やっときちんとした小舟を手にし、航海するような心強さだった。
そんなこんなで前期は終了した。
期末テストも四苦八苦しながら終え、中には出席率とノート査定の結果から試験を免除された科目があり、随分と助かった。
結果は、1教科のみ良だったものの、他は優というブランクの割にはまあまあの結果だった。
しかし、学期末の特進クラスの面接にて、アーリントン教授から私の英語について厳しく指摘された。
「ミキ。君は独学で英語を勉強したんだね。それなのにこの特進クラスに入れるくらい頑張ったのはエライよ。けど、基礎がなっていない箇所がかなりある。だから基礎をしっかり学びなさい」

図星なのでアーリントン教授のアドバイスはかなり痛かった。
しかし、それでも特進クラスで優が取れたのはアーリントン教授の温情を差し引いても有り難かった。

さて、長い夏休みだ。
いまだにバイトは見つからず、貯金と学生支援機構にて支給された奨学金で細々生活しているので贅沢はできない。そんな私に一乗寺教授が発達障害を持つ子どもたちのサマーキャンプの引率の手伝いをオファーしてくださった。8月7日から8月8日の1泊2日。阿蘇のコテージでのキャンプだ。
当事者だからこそサポートできると教授はオファーしたのだろう。二つ返事で引き受けたものの、内心は不安だった。
しかし、参加費の大半は一乗寺教授が出してくださる、しかも、キャンプではバーベキューパーティーありという特典に揺らぎ、結局、引率の手伝いをすることになった。そして当日。
ふたりの子どもを担当した。ひとりはチクチクしたものと骨みたいな突起が苦手な自閉スペクトラムの少年。もうひとりは小石をぶつけてコミュニケーションを取る他動気味の女の子だ。担当した子どもたちは素直で感受性が高いものの、反面、こだわりや感覚過敏が強く、そこを踏まえ、解きほぐしながら関わっていった。特に、小石をぶつけてコミュニケーションを取る子は、悪意はないのはわかるものの、かなりぶつけられた石が痛くて困った。しかし、悪戦苦闘しながら彼らと一緒にアイスクリームを作ったり、バーベキューでは、骨が苦手な子のために魚や肉の骨をとったものを食べさせたりと、実りある、なおかつ過去の自分と向き合うようなサマーキャンプを過ごせた。
8月8日。キャンプが終わり、帰りのバスに乗る子どもたちと握手をして見送った後、反省会をして、その後にマイクロバスに乗り込み、市街地のバスターミナルにて解散。着いたのは午後16時だった。
なんだか家に帰る気分になれず、かといって財布の中身も乏しいので駅までの道をぶらぶら歩いた。
そんな時に、ふと、城間家に久しぶりに電話しようと思い立った。
私は駅近くの丘に上り、ベンチに腰掛けて、携帯の電池の残量を確認した。まだ十分ある。
私は息を吸い込み、城間家に電話した。
電話には俊雄さんが出た。

「はい。城間です」 「俊雄さん?久しぶりですね」 私は数ヶ月ぶりに俊雄さんに電話した。

(オキナワンロックドリフターvol.110へ続く……)

(文責・コサイミキ)

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