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君に贈る火星の

「準備は整った。あとは発表を待つだけだ」

 俺は社長室で部下とテレビを眺めていた。火星総督府が、太陽系政府の首相の一人娘であるアイに、火星の命名権を贈ってから二か月。今日、アイの口から新しい火星の呼び名が発表されるのだ。

「普通なら『火星』では商標登録できないが……新しい火星の名前で商標を押さえておけば、とてつもない高値で売れる。大儲けのチャンスだ」

「アイ嬢が思いつきそうな全ての語句で、商標登録を済ませたんですよね、社長」

 俺はうなずく。大学時代、アイと交際していた俺には、彼女の好みや考えがわかる。卒業と同時に、どこかの御曹司と婚約した彼女に、あっさり捨てられたのだ。この機会に儲けさせてもらって何が悪い。

 アイがテレビ画面に現れた。

「ハルキと命名します」

「ハルキって……社長の名前じゃないですか」

 部下が驚いて叫ぶ。

 くそっ、登録してねーよ、そんな商標。俺はうめいた。
 儲け損ねたのに、顔がにやけるのはなぜなんだ。

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