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趣味:映画鑑賞って言っても良いですか?

 私は映画をあまり観たことがなかった。今ではサブスクが当たり前になってどこでも映画を楽しめるが、私の中で映画といえば小学生の頃に親に連れて行ってもらった「千と千尋の神隠し」とか、友人に誘われてあまり乗り気じゃないまま映画館に行ったことしか記憶にない。

 しかし、新卒で入社した会社を辞め、転職した会社で挨拶をしたときに衝撃の事実を知る。社員の多くが、趣味が「映画鑑賞」だった。そんなことある? あるか。よくある趣味だし。でも、そこで聞かれる「渦野さんはどんな映画観る?」の辛さね。観ないにも程があるんだよな。まじで映画を観ない人間だったから、ジュラシック・パークもスタンド・バイ・ミーもショーシャンクもあらすじすら分からない。なんか恐竜が出るんですよね……? みたいな。地上波で何回も放送されたような映画すら知らないから映画トークを振られたらもう地獄。興味のないことは全く手を付けない、「好きなことで、生きていく」というユーチューバースタイルの人間だからもう会話のキャッチボールが続かないんだよね。ユーチューバーの方が嫌いなこともきちんと熟して生きていってると思うよ。

 でも単純に気になった。映画って、そんなに面白いのか?

 丁度その頃、LGBT映画がよく取り上げられ始めた時期だった。気がする。「君の名前で僕を呼んで」のポスターを見た。映画を観ない私の目に入るくらいだったから、わりと大々的に取り上げられていたと思う。

 文学部出身で、近代~現代文学を勉強していたので、同性愛ものは多く読んできた。私が生殖・繁栄のサイクルを不気味に感じてしまう人間だからなのか分からないが、小説を読むときに同性愛ものをつい選択してしまいがちだ。

 だから「君の名前で僕を呼んで」も気になった。というかビジュアルが良すぎる。真っ青な画と、ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマーというタイプの違う美しい男。映画は面白いと言う職場の人の声も気になっていたので、とりあえず観てみるかという気持ちになるのはわりと早かった。

 ドラマやアニメを観たり、最近は漫画を読むのも若干苦手なので心配してたけど、杞憂だった。単純な人間なので「エイガ、スゴイ!」ってなった。文学部出身とは思えない語彙力の無さ。こんなんでも生きていける。

 まず感動したのが、一つの物語が約二時間程度で完結するということ。本を読むときは、気になる部分にひたすら付箋を貼りながら読む人間なので、一度読み終えるまでにわりと時間がかかる。でも映画はきちんと決まった時間の中で勝手に物語が進行してくれる。ドラマやアニメを観るのが苦手な理由の一つに、つい違うことをし始めて話の流れが分からなくなってしまうというのもあったから、映画館で観る映画最高! って気持ちだった。隣の席の人にもこの感動を伝えたかった。さすがにしなかった。

 あと、映画=エンタメという印象があった。まあエンタメではあるけど。極端なこと言うと、何か事件起こる、爆発ドカーン! らーん! しんいち~! みたいな劇的な事件が起こるものだけが映画だと思っていた。そんな馬鹿なことあるか? って感じだけど、そう思ってた。あと、コナンは面白い。

 実際、映画ってきちんとストーリーがある。当たり前だけど。あとなぜか斜に構えていた自分がいたよね、エンタメ(=映画)よりも文学(=小説)のが高尚みたいな。恥ずかしい。どちらが優位とかはないんだよな。面白いと思えることが増えたのは幸せなことだ。友人と観に行った映画が、テンションが上がりきらないまま終わってしまったのは、単純に好みじゃなかったのかもしれないけど、あれから数年経った今なら楽しめそうな気もする。

 「君の名前で僕を呼んで」というタイトルが台詞として出てくるシーンは、思わず口を開けて観てしまった。同一の性別、ユダヤ人としての民族アイデンティティを持っていることを見せられた後に、名前の共有も果たして、ついに肉体的にも一つになる瞬間、回収が美しすぎる。

 あと、エリオのお父さんの台詞がすごく良くて取り上げられることが多々あるけど、終盤のマルシアとエリオの会話も良い。この作品、登場人物がみんな優しいから気持ちが良い。

 全てのシーンに意味があって、初めて観たとき情報量が多すぎて、感動と同時に動揺した。勉強することが多すぎる。一度では足りないので、観終えた瞬間にもう一度鑑賞することを決めた。結局計六、七回映画館で観て、上映期間が終わってしまったのでブルーレイを購入した。初めて自ら進んで観た映画ということもあったと思うけど、めちゃくちゃはまっていてうける。

 「君の名前で僕を呼んで」のおかげで、私の趣味に映画鑑賞が追加された。されたって言っても良いかな。とにかく感謝しかない。この作品を観てから、毎日のように他の映画を漁った。美しい夏の景色から一転して真っ白な雪に包まれた景色で終わるシーンが印象的だったから、監督のルカ・グァダニーノの別作品「胸騒ぎのシチリア」を観た。脚本を担当しているジェームズ・アイヴォリーが監督を務めた「モーリス」を観た。タイトルの意味と似たテーマを描いている「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」を観たらドラァグクイーンものの入口が開き、「プリシア」を観た。考えさせられる映画を観すぎて脳が疲れてきたから、「ジュラシック・パーク」を観た。ハラハラした。感情が揺さぶられるのは面白い。「君の名前で僕を呼んで」を観なかったら、私は今も映画を観ない人生だったかもしれない。あと会社の人が映画好きじゃなかったら。まあ、映画好きが集まった会社ももう退職したんだけど。しかも観ている映画が偏っていたから結局まともに映画トークはできなかった。それだけは心残り。

 ここまで書いてから、映画感想文とは? という気持ちになってきた。映画を初めて観た原人を見守る気持ちで読んでもらえたら幸いです。

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