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映画「Perfect Days」を鑑賞して、感想と「幸せ」について考えてみた。

今年に入って映画館でみた映画の8本目。なかなかのペースで観ている。

この映画は、予告編をみた時からずっと気になっていた。「幸せとは?」について、新しい価値観を見せてくれそうな、そんな気がしてた。
そしてそれは正解だったと思った。

※以降ネタバレを含みますのでご注意下さい。


映画全体を通して、「今」に目を向けることの大事さを再確認した映画だった

最近似たテーマの本をいくつか読んでるので、どの本に書いてあったか忘れたけど「過去のことを思い出して不安に思っても、それは過去に起きたことであって"今"それが起きてるわけではない。そして未来のことが心配で不安に感じていても、8割のことは起きないし、1割のことはちゃんと想定して準備していれば問題にはならない。それよりも大事なのは"今"に目を向けて生きること」といったような内容を読んだ。

そして、主人公の平山はそれを体現しているような生き方をしているなと感じた。実際無口だし、平山が過去や未来についてどう考えているのかを語られることはなかったけど、少なくとも「今」を感じて、人生を楽しんでいるっていう印象を受けた。

朝のルーティンを終え、出勤するために家のドアを開けて必ず空を見上げて微笑んだり、公園(神社の境内?)でお昼ご飯を食べて、木漏れ日を見上げて写真を撮って微笑んだり、"トイレの清掃員"という一見すると変化のないルーティンな日々を送っているようで、それでもその瞬間瞬間でちょっとした"今"に目を向けて微笑むことができるのが平山なんだなと思った。

自分にとっての"今"と、"幸せ"について考えてみた

自分の話になってしまうが、適応障害と診断され長い事休職して療養中である。原因となった職場での出来事を忘れようとしても、ふとした瞬間でフラッシュバックしてくる。その度に不安に襲われ、このまま職場復帰できないのではと思うこともある。

でもその原因となった出来事は"過去"のことであり"今"ではない。職場復帰できるかどうかは"未来"のことであり"今"ではない。

自分にとっての"今"は朝散歩をし、セロトニンを分泌させ、ジムに行き無心でトレーニングに励み、読書をし知恵を身につけ、映画を観て人生を学ぶ。それが自分にとっての"今"であり、今の積み重ねが未来を作ると信じるしかない。

では"幸せ"とは?平山はちょっとしたことで微笑む。自分も面白いPodcastやYouTubeを観た時に少しは笑うが、平山のように"微笑む"っていうのはなかなかしないなと気付かされた。

自分は、他の人よりは日々の何気ないものにも目を向けられるタイプだとは思っていた。朝散歩の時、この時期であれば花が咲き始め春の訪れを感じる。冬であれば、日没時の空のグラデーションを観て写真におさめたりする。でもそこで"微笑む"ことはしてなかったなと気付かされた。何かしら心は動いているから写真におさめているはずなのに。

そう思ったら、よくよく自分を観察したら普段はとても険しい顔をしている。もしかしたら、この"心が動いた時に微笑む"ことができるようになったら、仕事も復帰できるのかも知れない。

ニコとの会話「今度は今度、今は今」はすごく"心"が楽になる言葉だなと思った。

仕事(収入)と幸福度は比例しない

そして仕事、もはや同じ仕事に戻る必要もないのでは?とも思い始めている。平山のように、トイレの清掃員だったとしても、日々の"今"を行きて幸せを感じて生きていけるのなら、もっと自分らしいペースで生きられる仕事に転職するのもありなのではと。

一説によると、ある程度の年収を超えると幸福度は逆に下がるらしい。自分はそこまでのレベルには達してはいないけれど、自分がもっと幸せを"感じて"生きていけるなら、もう少し年収がさがっても問題はないと感じていたりする。以前読んだ「低コスト生活 がんばって働いている訳じゃないのに、なぜか余裕ある人がやっていること。かぜのたみ (著)」では、自分の生活と比べたら信じられないぐらいお金を使わずに幸せに生きる術が書かれていた。平山はまさにその生き方何じゃないかなと思う。

家の中にはテレビはなく、もちろん電話はガラケー。音楽は昔買ったカセットテープを大事に聞いている。楽しみはフィルムカメラで写真を撮ったり、古本屋で買った100円の本を寝落ちするまで読んだり、神社の境内に生えている木の根元に生えている若い木を許可をもらって持ち帰り育てること。週に1度は行きつけのママの店に行き食事と会話を楽しむ。まさに低コストライフ。

がんばってがんばって仕事をして、収入も人並み以上稼げるようになって、都心に住み、管理職になって、心を病み、傷病手当も通常より少ない金額しか貰えず、貯金と心を削られる毎日。でもこの先に、この映画やいろんな本に出会ったおかげで、自分らしく幸せに生きる道があるような気がしてきている。

人間の嫌な部分と平山との対比

映画にでてくる他の登場人物は、ちょっと嫌な感じの人が多い。でも平山はあまり嫌な顔をしない。

公園酔いつぶれていて、平山が掃除したばかりのトイレを使う人。掃除中の黄色い立て看板を蹴ってフラフラと出ていく。

公園のトイレで泣いてる男の子の手を引いて母親を探し、その母親の態度が良くない。子供には激しく注意し、平山がトイレの清掃員だとみたら眼の前でウェットティッシュで子供の手を拭く。そして感謝すらしない。

同僚のたかし。仕事は出来ない、彼女に振り回される、なんでも世の中のせいだと愚痴を言う、恩を仇で返すように仕事をやめる。

タカシの彼女、だまって平山のカセットテープを持って帰っている。返しに来たのは良いけど。

そして悪意は無いんだろうが、棘のある妹のセリフ。「こんなところに住んでるのね」「ホントにトイレ掃除の仕事してるんだ」など、節々にチクチク心を刺してくる

でも平山は大半は微笑んでやり過ごす。でも3回だけ感情をあらわにする。1度目はタカシが仕事をやめ、本社の対応が良くなかった時に強く抗議する。2度目はニコと妹が帰った後に泣いた時。3度目はラストシーン。これは感情をあらわにするというより、複雑に入り混じった感情で心が不安定になっているような感じ。

普段無口で、何事にも動じない平山が、ちゃんと怒ったり泣いたりするっていうのがこの映画のすごいところなのかなって思う。平山もちゃんと人間で、ちゃんと心があるんだっていうのを見せるからこそ、そこまでで描いてきた普段のルーティンやほほえみが意味を持つんだろうなって思った。

平山の子供っぽい部分と繊細な部分がちょっと「レオン」っぽい

マルバツゲームに乗っかってみたり、タカシの友達の子のマネをして耳を引っ張って微笑んだり、ママの元夫と影踏みをしてみたり。寡黙なのに純粋で子供っぽいところがなんか映画「レオン」のレオンを思い出した。そういえばレオンも植物を愛していたな。

夢のインサートが異質で印象的

平山が眠りにつくと描写されるモノクロで、夢というより、心理学に使われそうな感じの映像。夢はモノクロで見る人とカラーで見る人がいるらしいが自分は後者。平山はモノクロで見るっていうことなんだろうか。昼間の何気ない日常を切り取ったような映像表現に対して、あの夢のシーンだけ現代アートのような、異質な感じ。

劇中歌が好き

この映画はフィクションだけど、ドキュメンタリーっぽく撮られている。だから劇伴はあまり流れない。パンフレットにも「平山が聴くもの以外知る必要はない」という監督のコメントがある。だから平山が車の中で聴く曲以外は流れないし、車の中っていうこともあってロードムービーっぽさがでてる(とパンフにも書かれている)

"THE HOUSE OF RISING SUN" The Animals
"PALE BULE EYES" The Velvet Underground
"(SITTING' ON) THE DOCK OF THE BAY" Otis Redding
"REDONDO BEACH" Patti Smith
"(WALKIN' THRU THE) SLEEPY CITY" The Rolling Stones
"AOI SAKANA (BLUE FISH)" Sachiko Kanenobu
"PERFECT DAY" Lou Reed
"SUNNY AFTERNOON" The Kinks
"THE HOUSE OF THE RISING SUN" Japanese Version
"BROWN EYED GIRL" Van Morrison
"FEELING GOOD" Nina Simone
"PERFECT DAY" Patrick Watson 

パンフレットより

ママ(石川さゆり)の「朝日の当たる家」がめっちゃいい

客がギターを持ち出し、その演奏に合わせてママが歌う。下町ならではの風景。そしてママは石川さゆり。似合いすぎるし歌がうますぎる。

浅草、押上あたりの風景が好き

平山が住むアパートは「押上」らしい。スカイツリーが近いからあのへんだろうなとは思ってた。そしてよく自転車で橋を渡っているが、あの橋はおそらく隅田川の桜橋。ニコと自転車に乗ってる時は「台東リバーサイドスポーツセンター」が見えた気がする。

ということは、石川さゆりがママをやってる店は、浅草の裏手側なのかなと推測。観光地側よりはもっと下町側。おそらく「観音裏」と呼ばれるエリアなのかな。自分も去年まで台東区に住んでいたので、あの辺りの風景はとても懐かしいし、知ってるところが出てくるとちょっと嬉しい。

トイレがおしゃれ「THE TOKYO TOILET」

この映画はもともと「THE TOKYO TOILETには専門の清掃員がいるらしい」ということで、その清掃員を主人公にした短編映画を撮ろうという話から始まったらしい。それがこんなすごい映画になってしまうとは。

自分は正直このトイレの存在をあまり知らなかった。この映画のおかげで知ることができて、「トイレ巡り」するのもちょっと面白いかもと思ってしまった。気軽に行ける距離ではないし、17箇所あるらしいので一日で全部めぐるにはちょっとしんどいけど、そんな無駄とも思えるようなことを楽しめるようになりたい。

まとめ

これは何度でも"見れる"映画だと思う。疲れた時、イライラした時に、土曜日の家の中でぼーっと眺める映画。そして日曜日には「まぁいっか」と思って次の月曜日に向けて英気を養う。そんな使い方をする映画だなと思った。

この映画の中には2回「人生の終わりの想起」がある。1つ目は妹から告げられる父の状態。2つめは最後に出てくるママの元夫(三浦友和)。

元夫はガンの転移があり、抗がん剤を打っていると平山に打ち明ける。見ず知らずの男。元妻の店のただの常連客。そんな男に自分の事情を打ち明けて、「あいつを頼みます」と頭を垂れる。

ふたりとも直ぐに人生が終わるわけではない。でも人生の終わりはすべての人間に平等に訪れる。"Perfect Days"にも終わりは来る。

その最後の時が来るという前提で、これからの日々を、"今"を感じて、自分のペースで幸せに生きていきたいなと思った。


映画情報

上映日:2023/12/22
上映時間:124分
製作国:日本
配給:ビターズ・エンド
ジャンル:ドラマ

関連情報

公式サイト
https://www.perfectdays-movie.jp

公式X(Twitter)
https://twitter.com/perfectdays1222

Filmarks
https://filmarks.com/movies/109454

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/PERFECT_DAYS

THE TOKYO TOILET
https://tokyotoilet.jp
https://ja.wikipedia.org/wiki/THE_TOKYO_TOILET



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