ネットゲ廃人(1回目)と引きこもりについて
メイド喫茶で知り合ったBMWさんと別れ、服飾の学校にも行けなくなった私は、夢も希望もなくなり、現実を逃避するように、ネットゲームを始めた。
当時ラグナロクオンラインなどが流行っていた時期、家庭ゲーム機でまだオンライン通信を使って遊べなかった時代。
私は、パソコンでテイルズウェーバーというオンラインゲームをやり始めた(ちなみにこのゲームまだ続いているらしい。すごい。)
なぜテイルズウェーバーだったのかというと、イラストやモンスターが可愛かったからだ。あと、このゲームは軽かったため、うちの低スペックPCでもなんとか動いた。それが理由。
そしてそのままこのゲームに沼ることになる。当時ネトゲ廃人という言葉が存在したが、私はまさにネトゲ廃人だった。起きて寝るまでずっとネットゲームをしていた。
最初のうちはたくさんのプレーヤーが同じフィールド内にいるオンラインゲームに慣れず、他のプレイヤーと会話をすることもできなかった。
しかし、テイルズウェーバーはオンラインRPGにもかかわらず、キャラクターによってストーリーが存在する少し変わった形式をとっており、ストーリーを進めるためには他者と協力する必要があった。
また、最初のうちは弱すぎて街と街の間を単体では移動することができず、他のプレーヤーと一緒にチームを組んで渡りたいと私は思った。
ゲームは各キャラクターのスタートの町があり、そこから始まる。
街の周囲には弱いモンスターがおり、街から離れるほどに敵が強くなっていく。
なので、最初のうちはひたすら町周辺の弱いモンスターを倒し、街でNPCなどから受ける依頼をこなして経験値とお金を貯めるが、売っているものも、依頼の内容も変わるので別の街にも行ってみたい。けれど敵が強くて別の街に移動できない。
そんな感じに毎日ログインをしていると、どんなきっかけだったから忘れてしまったけれど、話しかけた人と知り合いになった。
LVの高い人たちとはなかなか声をかけずらいけれど、同じ初心者同士なら少し声をかけやすい。
そのうち同じくらいのLVのプレイヤー4人ほどと知り合いになり、皆でなんとか隣の街へ行こうとういうことになった。
私たち4人は強いモンスターの間を掻い潜り、なんとか隣町へたどり着くことができた。街にはワープゲートがあり、一度そのワープゲートを登録してしまえば、街から街への移動はそのワープゲートでできる。
隣町のワープゲートを登録した時の達成感たるやなかった。
本当に楽しかった。
ちなみに、実は町の魔法道具屋に別の町へのワープカードが売っていて、それを買えばあっさり隣町に行けた。私は当時そのことを知らなくて、敵を乗り越えていかなくてはならないと思い込んでいたのだが、結果的にみんなで力をあわせて平原を渡って隣町にいってよかったなと思っている。
私は毎日そのゲームにログインし、遊んでいた。
けれど、私はそもそも当時ブラインドタッチができなかった。
そのため、誰かに話しかけるのも、話しかけられた内容に答えることもかなり大変だった。
最初のうちは、複数の人間とグループで話すときなどは、チャットの流れに入力が間に合わずついていけていなかった。
話したくて、また、チャットで相手が見えない状況で話しているので返事が遅くて変な誤解を与えたくなくて、私は必死に文章を打った。
このゲームでブラインドタッチを習得したと言っても過言ではない。
1回目にテイルズウェーバーにハマった時は、不思議な人たちと知り合いになった。
一人は、男性ホルモンを注射し続けなければいけない男の子。
何かそう言う体質らしく、そんなことを言っていた。
もう一人は解離性人格障害の女の子。
彼女は大学受験に失敗し、親に「お前なんて産まなければよかった」というような内容を言われ、その後、解離性人格障害を発症。
引きこもりとなったらしい。ゲームをしていた当時も家の外には出ず引きこもっていた。
とても気の弱い引っ込みがちの女の子だったが、たまに人格が入れ替わって、とても強い気で怒りやすい女性が出てきていた。
その度にその女性を宥めて(別の名前がついていた)元の人格に戻ってくれるようにお願いしていた。
類友というか、当時の私の精神状態と似たような人と知り合っているのが今振り返ると面白いなと思う。
ネットゲームというのは、家庭用ゲーム機のRPGのように敵を倒しながら、チャットを使って話をすることができる。
なので、ゲームしながら色々な話をした。
時に、敵を倒しに行かないで、街でずっとおしゃべりをしていた。
私は全く家の外には出れなくなっていたけれど、人との交流は一応していたんだなと思う。
ひきこもりについて
私はBMWさんに振られてからの約1年間、家から出られなくなっていた。
当時問題になっていた、『ひきこもり』である。
この『ひきこもり』という現象、ゲームをやりたいから家を出ないというより、心理的に家を出ることができなくなる。
なんと言ったらいいのかわからないけれど、外に怖くて出られなくなるのだ。
近くのコンビニにもいけない。家から一歩も外に出られないが正しい表現だと思う。
心理的には自分がダメな人間だからとか、恥ずかしいからとか、人と会ってもすごくマイナスな印象を持たれるのではないかとか、自分がものすごく醜いような気がするそう言った思い込みもあるし、人とコミュニケーションを取るのが怖い、人が怖い、外の世界が自分とは全く別物な感じがして怖い、外の世界で受け入れてもらえない感じがして怖いなど、社会に対する適応障害のような心理で出れなくなっていた。
30歳を超えてから、PTSDを発症して家にずっといたこともあったが、この時は『ひきこもり』の状態とは全く違っていた。
たとえ何日も外に出ないで家にいても、外にでれなくなるということはなかった。
その経験をしてから、20代の時のひきこもりの状態はかなり特殊な心理状態だったのだなと改めて思った。
当時の私はまだ、自分軸が全く育っておらず、依存をしていないと自己が保てない状況であったと思う。
一人で社会に出て何かをしたり、人とコミュニケーションをとって物事を解決していけるスキルがなかった。
また、学校では比較的優等生であったこともあり、社会に出てさまざまなことが上手くできない自分を受け入れることができていなかった。
もっと上手くできなければいけないとも思っていたし、それができるはずである、そうでなければいけないと思っていた。その一方で、燃え尽き症候群のような無気力状態にもなっていた。
ひきこもりの時も鬱や過食症が治っていたわけではないので、ゲームをしていない時は鬱々としていたし、家にあるものをかなり食べていた。
その行為や鬱々とした気分からの現実逃避でゲームに没頭していた部分もある。
結局どういったきっかけで引きこもりから脱したのか忘れてしまったが、私はなんとか引きこもりから抜け出すことができた。
それには私が引きこもりになっても、変わることなく付き合っててくれた親友とスナフキンさんの存在が大きい。
私はとにかく外に出るのが怖かったけれど、飲みに誘ってくれて外に行き、まったく変わらず接してくれたのを覚えている。
結局私は一年後の5月くらいから、すこしずつイベント関係の日雇いの仕事を始め、社会復帰をしていく。
ゲームで知り合った子達とも、ゲームを辞めたことで縁は切れてしまった。
ぐちゃぐちゃだった時期を一緒に過ごしてくれたこと、今思うととてもありがたかった思う。
彼らもちゃんと社会に復帰していけただろうか。
彼らの今が幸せであることを祈るばかりである。