友達の話を元にしたフィクションを書いてます。

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  • 獅子の挽歌

    かつて、有望な空手家だった金子晴臣はとある“事件”をきっかけに地元を逃げ去る事なった。その末行き着いた町、歌舞伎町。 暴力と欲望が蠢く街で、今日を生き延びる。 #小説 #空手 #歌舞伎町 #格闘技

最近の記事

フリー雀荘で刃物を振り回したメンバーの話

※この記事は実話を元にしたフィクションです。 界隈では皆知っているんだけど、その話はタブーとされていた。“彼”の名を出すことすら憚られる、そんな雰囲気を誰もが感じている。 そろそろ良いだろう。当事者ではない俺が判断するのも可笑しな話だが、この話は世に知ってもらわないといけない。 仮に、この記事を読んだ“彼”が俺の下へ刃物を持って現れることになったとしても。

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    • 日本武道は弱いのか

      日本武道は弱い。そういう趣旨のツイートを見かけた。 その方はムエタイをやっており、現役選手では無いものの動きからはかなりの練度を感じる。俺はその人にリスペクトを持っている。仮にTさんとする。 相互フォローの仲であり、その方は面識は無いものの結構好きなタイプなので「あー、また言ってる」と笑いながら見ていた。 それが大人ってもんで、いちいち噛みついてる奴はなんか疾患持ってると思う。 しかしまあ、日本武道が弱いなんて事はないんだよね。 それをその人に言ってレスバトルするつも

      • 獅子の挽歌016

        5月。大阪府。 今年も全日本体重別空手道選手大会の季節となった。 軽量級(-70kg) 中量級(-80kg) 軽重量級(-90kg) 重量級(+90kg)の4階級に別れて行われるこの大会は、地区予選などないフリーエントリーのオープントーナメントだ。 二日目間かけて行われ、シード選手でなければ優勝まで6~7回試合する事となる。 秋の無差別大会に次ぐ、徹真会館のビッグタイトルの一つと言える。 金青花(キム・チョンファ)は自信に満ち溢れていた。 近頃では佐倉、塚島を相手にしても倒

        • 獅子の挽歌015

          中井千草。 俺は彼女の事で頭が一杯だった。 可憐なその容貌に、運命的な再会。 間違いなく、俺は恋に落ちていた。 恋というのは不思議だ。 もて余す程のエネルギーが身体中に沸いてくる。 それは性欲とも違う、形容しがたい物だ。 明日、彼女とデート…というと些か大層な物言いかもしれないが、茶を飲みに行く。 胸が狭くなるような、そんな感覚を抱きながら俺は気合を入れてサンドバッグを蹴っていた。 この日、俺は徹真会館に出稽古に来ていた。 5月には大会がある。佐倉も塚島も、毒島も気合を入

        フリー雀荘で刃物を振り回したメンバーの話

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        • 獅子の挽歌
          16本

        記事

          獅子の挽歌014

          中井千草は昨日の出来事を思い出していた。卒業式の後、クラスメイトとカラオケに行った時の事だ。 自分に絡んできた不良の二人組の事を。そして、その二人を瞬く間に倒した男の事を。 それは千草にとって恐ろしい体験だった。 女子高で育った千草は暴力沙汰とは縁がない人生を送っていた。 生まれて初めて目にする暴力。映画や漫画とはまるで違うものだった。大の男がえずきながらうずくまる姿は千草の脳裏にしっかりと焼き付いていた。 ただ、あの男の使った“技”あれは暴力とはまた違う、そんな気もしていた

          獅子の挽歌014

          獅子の挽歌013

          3月。春の訪れを感じつつも、夜になると少し肌寒い。そんな季節だ。 22時。桜獅館の一般部の指導が終わるところだった。 「神前に礼。お互いに礼。それでは、今日は終わります。皆さんよく柔軟をして、気を付けて帰ってください。」 俺がそういうと10名ほどの道場生が押忍と返事をする。 「師範代。明日の指導、私が変わりましょうか」 そう声をかけてきたのは最古参の道場生、増田だ。38歳の二段で、かつては徹真の関東大会でも入賞したことがある。現役を退いているが、よく練習に付き合ってくれる

          獅子の挽歌013

          獅子の挽歌012

          目が覚めると、見慣れない天井が見えた。 俺はぱっと起き上がり周囲を見渡す。 そうだ、ここは徹真会館の群馬支部だ。 今日は出稽古に来て、そして…倒されたんだ。 「お、目が覚めたか」 声の方を向く。 佐倉がバツが悪そうにこちらを見ている。松下と塚島もいる。俺が倒した毒島はベンチに腰掛けながらまだ首に氷嚢を当てている。 「大丈夫か。吐き気や目眩はないか」 松下が心配そうに言う。大丈夫です。と答える。 「いや、悪かったな。チョンファくんが結構つええからさ。顔面膝なんて道場じ

          獅子の挽歌012

          獅子の挽歌011

          佐倉貴道。27歳。徹真会館三段。体重別世界大会、中量級の二位の実力者だ。 180cm80kg。フルコンタクト空手の選手としては特別体格はよくないが、多くの引き出しと、相手の攻撃を捌く華麗な組手を持ち味とする日本人最強の中量級だ。 無差別級では、結果を出せていないが塚島曰く“僕より全然強い”とのことだ。 トーナメントでは、例え実力があっても勝ち上がれない事がある。100kg級がゴロゴロいる無差別級を佐倉が勝ち上がるのは至難の業だ。 しかし、無差別級日本王者の塚島が自分よ

          獅子の挽歌011

          獅子の挽歌010

          徹真会館 群馬支部。全日本大会でも毎年入賞者を輩出する名門道場だ。その勢いは総本部にも負けず劣らずだ。 徹真の創始者、山本徹基の内弟子であった松下義一(まつした ぎいち)が支部長を勤めている。松下は現役を退いているが全日本大会無差別級3位の実力者だ。現館長の松宮ともかつて激戦を繰り広げ、惜しくも破れた。その日、俺はその群馬支部の高崎道場に出稽古へ来ていた。 「知っている者も多いと思うが、桜獅館のキム・チョンファ君だ。これから頻繁に出稽古に来るようになるから、皆仲良く、また勉

          獅子の挽歌010

          獅子の挽歌009

          親父が経営していた焼肉屋は、母さんが引き継いでいた。 バイトを一人だけ雇い、俺もたまに手伝っていた。繁盛している、とは言い難く、なんとかやっていける、そんな状態だった。 店の上は住居になっていた。狭い家だが、父も祖父もいなくなった今では少し広く感じた。 ある日、学校と稽古を終えた俺が家に帰ると、店に客が一人だけいた。 高級なスーツに包まれた大柄な体、金色の高級時計、見慣れない顔だが富裕層の人間で有ることが一目でわかる。 男はこちらに気が付き、笑顔で手を振ってきた。 「おおー

          獅子の挽歌009

          獅子の挽歌008

          祖父は朝鮮人日本兵だった。名はキム・ヨンス。通名は金子陽明。 祖国では朝鮮の伝統武術テッキョンを、軍役中には空手を学んだらしい。終戦後は沖縄古流空手の修行をしたとの事だ。 50歳で群馬県前橋市に自らの道場「桜獅館」を立ち上げる。 道場には在日朝鮮人も日本人もいた。小さい道場だが、賑わっていた。 精肉店も経営していて、客の入りは悪くなかった。 気難しく、厳しいが、時に優しかった。 親父、キム・ハミンはそんな祖父から幼少より空手を学んでいた。まだ朝鮮人差別をされる事が

          獅子の挽歌008

          獅子の挽歌007

          区役所通りでも一、二を争うぐらい大きなビルの七階。その一番奥に俺が働いているバー「クリビア」はあった。 クリビア。君子蘭の事だが、その名前に似合わず、小汚く、安いバーだった。 客足はあまりなく、多くの事業を行っている沢村の税金対策部門といったところだ。 また、人に聴かれたくない話をする際など、沢村はここをよく利用する。 大樫との戦いを終えた後、俺と沢村、そして顔を腫らしたホストはボックス席に座っていた。 沢村とホストが隣り合わせに、俺は向かい合うように座っていた。 「中

          獅子の挽歌007

          獅子の挽歌006

          立ち上がった大樫が再び構えを取る。 “ダメージは残っているはずだ。次で決める。” 晴臣が考えている通り、大樫の腹部、頭部にはダメージが残っていた。 ミドルキックを蹴り込んだレバーには、重く鈍くい痛みが残っていた。また呼吸も浅くなっている。 ハイキックはガードをしたものの、ガード越しでも頭部を揺らすには十二分な威力があった。 “長くはやれねえな” 大樫はそう思った。 晴臣はダメージの残っている腹部に更なる打撃を打ち込みたいと考えていた。 しかし、晴臣が最も得意とする左

          獅子の挽歌006

          獅子の挽歌005

          ホコリっぽく、薄暗い空間だった。 金城彪(きんじょう たけし)が借りているというこの空きテナント、以前はキャバクラか何かだったのだろう。入り口から見て左右にボックス席が並んでいる。奥の方にも席がある。 天井にはシャンデリアがあるが、電球が所々切れている。 また、床やソファに血のような赤黒いシミが所々みられる。 何か事件があって閉店となった店を金城が買い取ったか、金城が暴力を振るう際にここを使用しているか、どちらかだろう。 晴臣はそう推察した。恐らくは後者である。 金子晴

          獅子の挽歌005

          獅子の挽歌004

          21時。歌舞伎町もすっかり「夜の顔」になる時間帯だ。 「早速本題だけどね。」 薄ら笑いを浮かべながら、金城が切り出す。 金城の左手の大柄の男は背筋を伸ばしたまま、誰とも目を合わせない。右のサングラスをかけている坊主頭の男は、ガムをくちゃくちゃ噛みながらスマホをいじっている。 二人とも微妙ながら殺気を出しているのがわかる。 「うちの店はね、そもそもホストとかスカウトとか出入り禁止なの。それだけで罰金一回50万。引き抜き行為に関しては一回100万ね。うちの店で営業かけた回数

          獅子の挽歌004

          獅子の挽歌003

          10分ほど走ってラ・ルーシュに到着した。汗がにじみ始めている。 後でまた風呂入るか… 店内を見渡すと奥の方の席に沢村と若い男が並んで座っていた。 こちらに気付いた沢村が、「よっ」と手を挙げる。 俺は軽く会釈して席に向かう。 「おー金子。休日にすまないな」 まったくだ。 「いえ、大丈夫です」 俺は沢村の対面に座ろうとする。 「いや、お前もこちらに座れ」 沢村に静止される。 どうやら、この後さらに誰かが来るようだ。 沢村は高級そうななジャケットの下にセーターを来

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