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【ぐお小説】超絶イケメンに転生しました。チート容姿で復讐するつもりだったけど、それどころじゃなくなった話。①

「沢村シュンスケです。よろしくお願いします」

「「「わぁ…///」」」
「「「……………………」」」

俺の自己紹介を見たクラスメイト達の反応ははっきりと2種類に別れた。
女子達は一斉に感嘆の吐息を漏らす。
対して男子達はつまらなさそうな表情。中には憎悪に近い視線を向けてくる男もいる。
それもそのはず。
俺はイケメンだ。
身長182センチ。体格は細マッチョ。
「俳優やってます」と言えば100%信じてもらえるであろう甘いマスク。
真っ白な歯。
ちょっと笑うだけで女をイチコロに出来る存在。

そう、俺はイケメンだ。
イケメンに転生したのだ。

いじめられて自殺した俺はもういない。

前世の俺はヒョロガリのブサメンだった。
学校の成績は中の下で、体育に関してはドンケツ。
コミュニケーションも苦手で友達もいない。
ついでにオタク。
典型的ないじめられっ子ポジションであり、実際にいじめられた。
その苦しみに耐えかねて自殺した。
それが本来の俺だ。

しかしそんな俺を憐れんだ神様が俺を完全無欠のイケメンとして転生させてくれたのだ。
『転生』といっても赤ん坊から人生をやり直したわけではない。
年齢と性別だけそのままで容姿をはじめとしたあらゆるスペックが別人になったと言った方が良い。
新しい名前、新しい家、新しい戸籍、そしてこの学校への編入手続き。全部神様が準備してくれた。
だから厳密には『転生』とは言えないかもしれない。

だが、そうでないと困る。
俺の目的は俺をいじめた奴らに復讐する事なのだから。

島田ケンジ。そして間中アリサ。

この二人が俺を自殺に追い込んだいじめの首謀者であり、カップルであり、クラスメートだ。
つまり二人とも今、俺の目の前にいる。

アリサは芸能人にでも遭遇したかの様に興味津々という顔で俺を見ている。
ケンジはそんなアリサの様子に気付いて嫉妬してキレているのがバレバレだ。
殺意を乗せた視線で俺とアリサを交互に見ている。

(ふふ、既に復讐が始まっている様だな)

俺は口元が緩んでしまうのを必死にこらえる。

『イケメン』

なんと恐ろしいチート能力だろうか。
まだ自己紹介をしただけなのに、これほどの影響力があるとは。
ただ存在しているだけで愛され、嫉妬される。
アリサだけではない。クラスの女子全員が俺に興味津々だ。顔を見ればわかる。

真面目なクラス委員長の須永さん。
大人しくて読書家の尾崎さん。
クールでちょっとヤンキー気味な石井さんですら俺から目が離せない。

(素晴らしい力だ)

俺は自分が確かに生まれ変わったのだと確信していた。

◇ ◆ ◇

一時限目の授業が終わり、休み時間になる。
案の定女子達がワァっと俺の周りに集まってきた。
イケメン転入生だけに訪れるイベント『質問責め』である。

「どこから来たの?」
「趣味とかあるの?」
「背、高いね! スポーツとかしてるの?」

女子達が次々質問してくる。
俺は気持ちが昂ってしまうのがバレないよう、必死に平静を装う。
なにせ、つい先日までは非モテでヒョロガリのキモオタだったのだ。こんなに女の子達に好意的にされた事は人生で一度も無い。だから気を抜くと顔が赤くなってソワソワしてしまう。いかん、余裕のある男を演出しなくてはならない。

「あ、沢村くん、照れてる!」
「結構ウブな感じ?」
「かわいいね!」

バレた。
しかし良い印象を与えた様だ。転生前の俺だったら「キモっ!」と言われていただろう。『イケメン』というだけで同じリアクションでも評価が逆転してしまうのだ。凄まじい。
だが、なるべく早く余裕のある態度を身に着けた方がいいだろう。いかに顔がイケメンでもオーラがずっと童貞のままではおそらく呆れられてしまう。
猫背になるな。堂々としなければ。

「沢村くん、ちょっといいかしら」

毅然とした声。
俺を囲む女子達が会話を中断してそちらを向く。
綺麗な黒髪で眼鏡をかけた女子生徒。
クラス委員長の須永カエデさんだ。

「沢村くんに校内の教室や施設を一通り案内する様に先生に頼まれたの。いいかな? 昼休みにでも…」
「うわ、カエデずるくない? 沢村くんを独り占め?」
「先生に頼まれたって言ってるでしょ」

俺を囲んでいる女子の一人が須永さんを牽制するが、須永さんは『先生』を盾に食い下がる。

「わかったよ。お昼を食べ終わったら声をかけるね」
「うん。後でね」

俺は須永さんの提案を承諾した。
俺は元々ここの生徒なので学校の事はわかっているのだが、今は『転入生』のフリをしなくてはならない。
いや、そんな事よりも、俺は須永さんの態度に内心驚いていた。

「うん。後でね」と言った時の彼女は、まるで生まれて初めてのデートの約束をした少女の様にウキウキしていた。
頬を赤らめ、口元も緩んでいた。
ただ学校の中を案内するだけなのに。
真面目で成績優秀。先生にも信頼されている普段の須永さんからは全く想像できない反応だった。転生前の俺では絶対にあんな表情は引き出せなかっただろう。

須永さんが去り、再び女子達の質問責めが再開されそうになる。だが俺はちやほやされたい欲望をぐっとこらえる。
「ごめん。ちょっと先生に用事があるから」とデマカセを言って一旦その場を離れた。
そのままちやほやされ続けたら顔がニヤついて化けの皮が剥がれていたかもしれない。
それに、目的はもう一つある。
島田ケンジが嫌がる間中アリサを引っ張って教室を出ていくのを見たからだ。気になる。

ケンジとアリサは校舎裏で口論していた。
俺はバレない様に廊下から窓越しに立ち聞きした。

「お前、転入生に色目使ってんじゃねーよ!」
「色目なんか使ってないし!」
「使ってただろうが! わかんだよ!」
「嫉妬してんの? ダッサ!」
「ああ!?」

ケンジとアリサは学校一とイケメン学校一の美少女の公認カップルだ。
ケンジはヤンキー風だが運動神経バツグンでサッカー部のエース。
アリサは巨大女子グループのリーダー。
この二人が揃った時に逆らえる生徒はいないと言って良い。
その二人がケンカしている。
原因は俺だ。
俺はまだあいつらと直接話をしてすらいないのに。
俺が、ただ登場しただけで。
学校最強カップルの関係に亀裂が入っている。
俺を自殺に追い込んだ奴らが仲違いを始めている。
俺はニヤつくのが止められなかった。

キーンコーンカーンコーン♪

チャイムが鳴ってしまった。
二人の口論をまだ聞いていたがったが仕方ない。俺は二人を残し、教室へと戻った。

◇ ◆ ◇

「須永さん、行こうか」
「うん!」

昼休みになり、約束通り俺は須永さんに声をかけた。
他の女子達が須永さんに非難がましい視線を向けているが、須永さんは気にしていない。
むしろ得意気に見える。
俺は須永さんが今後いじめられたりしないか少し心配になったが、今それを気にしても仕方ない。
俺は須永さんに連れられて教室を出た。

理科室、美術室、視聴覚室、そして体育館と主要な施設を回っていく。

「一回じゃ全部の位置を覚えられないだろうし、忘れちゃった時は遠慮無くわたしに聞いてね」
「うん、ありがとう」

当然俺は全て覚えているのだが、そんな事はどうでもいい。
俺を案内している間、須永さんはずっとご機嫌だった。
理科の先生はこんな人だとか、以前美術の授業でこんなハプニングがあったとか、案内する教室に絡めて色々な話をしてくれた。
俺を楽しませる為に一生懸命なのは明らかだった。
俺は大きな優越感を覚えると同時に、須永さんに少し失望した。
須永さんは真面目だから男を顔で選んだりしないと思っていたのだ。
だが今、須永さんは俺の事を何も知らないはずなのにやたら好意的に接して来ている。イケメンの力である事は疑い無い。
須永さんがこんなに簡単にイケメンに媚びるなんて思わなかった。

もちろんこれは俺が勝手に思っている事だ。
俺が勝手に須永さんはこういう人だと思い込んで、勝手に裏切られて失望したのだ。身勝手なのは俺だ。わかってる。
それでも俺は、内心で須永さんへの評価を変えざるを得なかった。

「おい」

一通り巡り、そろそろ自分達の教室に戻ろうかとしていたその時、男の声に呼び止められた。

島田ケンジだった。

「ちょっと顔貸せよ、転入生」

ケンジは憤怒の感情を隠す事無く俺を睨み付けている。
アリサの事で腹を立てているのか。
ここは生徒達がいる教室棟からは少し離れていて、昼休みであるにもかかわらず人目がほとんど無い。
俺と須永さんが二人だけになるタイミングを見計らって話しかけてきたのだろう。

「ちょ、ちょっと、何、島田くん? 沢村くんに何の用?」
「邪魔すんなイインチョー。俺が用があるのはそいつだ」
「わ、わたしは、先生に頼まれて沢村くんを案内してるの。か、勝手に連れて行かれたら困る」

須永さんが勇敢にもケンジを牽制してくれた。
そんな須永さんをケンジは嘲笑う。

「はっ、イインチョーもそいつに一目惚れってわけか。でもいいのか? 俺達のカンケーをバラされても?」
「!!」

ケンジの言葉を聞いて須永さんの顔が青ざめる。

「あ~ん♥️ イインチョーなんて呼ばないで~♥️ カエデって呼んで~♥️」

突然、ケンジが変な事を言いながら、自分で自分の身体を抱き締めてクネクネと踊り始めた。

「あんあん❤ 間中さんに悪いよぉ~❤」

ケンジの変なダンスを見て須永さんがさらに真っ青になる。

「や、やめて! お願いやめて!!」
「人気の無い校舎裏でさ~、俺達求め合ったよな~」
「やめてったら!」

会話の内容から、ニブい俺もさすがに察した。

須永さんはケンジとセックスした事があるのだ。
しかもこの学校の敷地内で。

俺は衝撃を受けた。
確かにケンジはイケメンでモテる。
アリサという公認の彼女がいながら他の女子に頻繁にちょっかいを出しているという噂は聞いた事があった。
だけどまさか真面目な須永さんが…?
しかも学校内で…?

俺は非モテだったが、自分が通っている学校で何が起こっているのかくらいは把握しているつもりだった。
誰と誰が付き合っているとか、誰がフタマタしているとか、それくらいは知っているつもりだった。
だが違った。
全く違った。
イケメンでサッカー部のエースとはいえ、素行が良いとはお世辞にも言えないケンジ。
成績優秀でクラス委員長で先生からの信頼も厚い須永さん。
この二人がセックスしているなんて全くイメージ出来なかった。
モテる男というのは非モテとは全く異なる世界を生きているのだ。
まるでパラレルワールドの様に、すぐそばにあるのに交わる事は無い世界。
非モテではアクセス不可能な情報が存在していたのだ。
俺は今、産まれて初めてそれにアクセスした!!
イケメンに転生した事によって!!

「う、嘘よ、…嘘。島田くんは嘘を言ってるのよ…。信じて沢村くん…」

須永さんが目に涙をためて蒼白の表情で訴えてくる。しかし直前のやり取りからして真実を言ってるのがケンジの方であるのは明らかだった。

「なあ、もういいだろ? ツラ貸せや」

ケンジが再び俺を恫喝する。
俺は気持ちを奮い立たせた。
正直、須永さんにはかなり失望した。
彼女は俺をいじめた張本人と肉体関係を持っていたのだ。
ついさっきまで須永さんにちやほやされて、少しいい気になっていた自分がアホらしく感じた。

だが、今の俺は『イケメン』だ。
『顔だけイケメン』のケンジに『真のイケメン』を見せ付けてやらねばならない。
イライラを隠そうとしないケンジの顔はかなり怖い。
それでも俺はいかにもイケメンが言いそうなセリフを必死に考えた。

「…いや、泣いている女の子を一人置いて立ち去るわけにはいかない」
「……はぁ?」
「君、女性との関係をそんな赤裸々に明かしてはダメじゃないか。須永さんがかわいそうだろ!」
「……」
「さ、沢村くん…♥️」

ケンジは俺が従わないのが相当気に入らないのか、視線がさらに鋭くなっていく。まるでB級映画の殺し屋の様だ。
それに対して須永さんはさっきまで真っ青だったくせに今度は真っ赤になって俺に潤んだ瞳を向けている。こっちはエロ漫画のヒロインの様だ。

「いい加減にしろよてめえ…」

我慢の限界が来たのか、ケンジが腕を伸ばしてきた。
俺の胸ぐらを掴むつもりだ。
だが慌てる必要は無い。
俺が転生して手に入れたのはイケメンの顔だけではない。
身体能力も『イケメン』になっているのだ。
俺は優れた反射神経によって、俺に掴みかかろうとするケンジの手首を掴み返した。
さらにその手首を少しだけひねってやった。

「! …っ! あ! あだだだだ!!」

ケンジが痛みに悲鳴をあげる。
俺はケンジの顔が苦悶に歪むのを確認してから、すぐにパッと手首を離した。
ケンジは俺を自殺に追い込んだ奴だ。
本当はもっと痛め付けてやりたかった。
だが暴力沙汰になって俺が先生に睨まれたら元も子もない。

「く…!」
「君と話す事なんか無い。どっかに行け」
「……」

ケンジは屈辱に顔を歪めるが、俺にかなわないと悟ったのか、踵を返して去っていった。

(ククク…)

内心でケンジをあざ笑う。
ちょっと手首をひねってやったくらいでは、転生前の俺がケンジにやられた事への仕返しとしては全く足りない。
それでも多少は胸がすっとした。
負けたくせに肩をイカらせてノシノシと去っていくケンジの背中は実に滑稽で哀れだった。

「さ、沢村くん…誤解しないでね? あ、あの…」

ケンジが見えなくなるのを見届けてから、隣に立っている須永さんがまた弁明を始めた。

「ご、強引に誘われただけなの。わたしは…島田くんなんて好きじゃなかったんだけど…島田くんって、その、ちょっと怖いし…それで…」

須永さんはどうやらケンジとセックスした事自体は隠せないと判断したらしい。
ケンジが悪い、という方向に話を持っていきたい様だ。
ケンジの話では須永さんもノリノリでセックスしていた様に聞こえた。だが、もちろんケンジが大袈裟に言っていた可能性もある。

「あいつにレイプされたの?」
「え!? え…えっと…」

俺は『レイプ』というキツい言葉を須永さんにぶつける事に内心では躊躇した。
だが、もしもレイプならば、ケンジの弱みを握れるチャンスかもしれない。
それがレイプだったのかどうか、はっきりさせておきたかった。

「…………い、いや…レイプじゃ… ない…けど」

須永さんは数秒間たっぷり考えてからそう答えた。
考えている間、視線がかなり泳いでいた。かなり葛藤した様だ。
須永さんからすればレイプされたという事にしてしまう手もあっただろう。
だが、須永さんは真面目な事で評判の女子生徒だ。
万が一『須永カエデはレイプ被害者』という噂が広まってしまえば学校生活が一変してしまう。
もちろん女子や大人達からは同情され慰めてもらえるだろうが、ポジションが変化してしまう事は避けられない。
おそらくそこまで考えて、レイプを否定したのだ。
こうして須永さんがケンジにレイプされたのかどうか、真相は永遠に闇の中に消えた。

……ただ、須永さんはついさっきまで、初対面の俺に対して、ウキウキのテンションで接していた。
それを見た後だと「ケンジもかなりイケメンだし、誘われてゴキゲンでヤっちゃったんじゃないの?」と、ちょっと、思ってしまう。もちろんこれはただの下品な推測だ。

俺はケンジとアリサに復讐出来ればそれでよかった。
なのに何故か全く関係無い須永さんへの印象が激変してしまい、なんとも不快な気分だった。

◇ ◆ ◇

その後無事に須永さんと教室に戻り、午後の授業を終え、帰宅時間となった。
帰り支度を整えながら、俺は内心身構えた。
また女子達の質問責めが始まるのではないかと思ったのだ。
だが、女子達は集まって来なかった。
その代わりに1人だけ、意外な女子が俺のそばにやって来る。
間中アリサだ。

「ねえ沢村くん、一緒に帰らない?」

俺はキョトンとしてしまった。
アリサはケンジと付き合っている。
それなのに何故俺を誘うのか。
今、ケンジはいない。
昼休み以降、ケンジは教室に戻って来なかった。バックレたのだろう。
ケンジがいないとはいえ、他の生徒達が見ている前で堂々と別の男を誘うとは凄い度胸だ。
他の女子達はアリサを白い目で見ているが、割り込んでは来ない。
俺が知らない間に根回しが済んでいたのかもしれない。さすがこの学校最大の女子グループのトップである。

「転校してきたばかりで学校の回りの事とか知らないでしょ? 人気の店とか教えてあげるよ。一緒に行こう? ね?」

アリサはそう言いながら、俺に腕を絡めてきた。

(…っ!?)

俺は必死に平静を装ったが、上手くいったか自信が無い。
アリサの腕は細いのにやわらかく、ちょっと腕を絡めただけで明らかに男の身体とは構造が違う事を感じさせた。
さらにおっぱいまで押し付けてくる。
学園一の美少女は身体もグラマラスだった。
少し硬い感触がするのはブラジャーだろうか。
それすらエロティックに感じる。
童貞の俺には刺激が強すぎる。
だが動揺を悟られるわけにはいかない。
陰キャだとバレてしまったら、せっかくイケメンに転生したのに台無しだ。
俺は努めて冷静に、精一杯のイケボでアリサに返事をした。

「本当かい? じゃあ案内してもらおうかな」
「そうこなくっちゃ♥️」

アリサは早速とばかりに俺をグイグイと引っ張る。

ケンジと同様にアリサも俺の復讐の標的だ。
ケンジの弱みを聞き出せるかもしれない。それが無理だったとしてもアリサと交流を持つだけでケンジを挑発出来るのは間違いない。
今の俺ならアリサを寝取る事も可能かもしれない。
寝取った後にアリサも捨ててやればケンジとアリサ両方の心を引き裂く事が出来るだろう。
俺はそんな風に作戦を考えながら、アリサに引っ張られて教室を出た。

アリサは友達とダベりたい時に便利な学校近辺の喫茶店を一件だけ紹介した後、俺を電車に乗せてさっさと移動した。
アパレルショップや映画館、ゲームセンターに流行りのスイーツ。
都心近くの若者が集まるエリアに俺は連れられて来た。
学校の周りを案内するなんてのは口実で、最初からデートするつもりだったのだろう。

「俺なんかと遊んでていいの? 間中さんは島田くんと付き合ってるって聞いたけど」
「あ、もう知ってたんだ? みんな口が軽いなあ~」

俺はアリサにケンジの事を質問してみた。
昼前に二人がケンカしているのは見たが、最後まで見届けたわけではなかったので気になった。

「やっぱり島田くんと付き合ってるんだね。じゃあ俺と二人きりでいるのがバレたらまずいんじゃ…」
「えー? 沢村くんチョーまじめー! もしかしてわたしが浮気してると思ってる? ちょっと遊んでるだけじゃん!!」

アリサは島田と付き合ってる事を指摘されても全く動揺していない。ケンジ以外の男と二人で遊ぶ事に本当に罪悪感が無い様だ。

(いや、陽キャ達の間では彼氏持ちが別の男と遊ぶくらいは普通なのか? 俺が非モテ陰キャだから神経質なだけ? こういう時の陽キャ達の基準がわからん…)

「今はケンジの事なんかいいじゃん。それよりさ、沢村くんのかっこいいところ見せてよ」

判断に窮してる間に俺はアリサに引っ張られてゲームセンターの前まで来ていた。

「かっこいいところ?」
「コレ一緒にやらない? わたし得意なんだよ」

アリサが指したのはガンコン(銃型コントローラー)でゾンビを倒すゲームだった。
アリサは俺の返事も待たずにさっさとガンコンを引き抜く。
仕方なく俺もガンコンを手に取り、硬貨を筐体に入れた。

プレイが開始された。
自分で得意と言うだけあり、確かにアリサは強かった。
何度かプレイした事があるのだろう。どこからどんな敵が出てくるのかある程度覚えているらしい。狙いも正確だ。手際よくゾンビの頭をぶっ飛ばしていく。

「うまいね!」

俺は思わず感嘆の声を上げた。

「でしょ~!!」

アリサは顔をこちらに向けてニカッと無邪気に笑った。

(か、かわいい…)

俺はこれまで、俺を見下してサディスティックに笑うイジメ女としてのアリサの顔しか知らなかった。
しかし今、ガンコンを握りしめてドヤ笑顔を向けてくるアリサは…とても…

(しっかりしろ! 性欲に流されるな! 目的を忘れるな!)

自分が持つ男の性欲というものに呆れてしまう。
かわいい女の子にちょっと笑顔を向けられただけでときめいてしまう。
目の前のアリサが、俺をイジメていたあのアリサとはまるで別人に見えてしまう。
だが騙されてはいけない。
このアリサは間違いなく、あのアリサなのだ。
ケンジに地面に転がされ、何度も蹴飛ばされてうめき声を上げる俺を見てケラケラと笑っていたアリサなのだ。
なのに。
「騙されるな」と何度も自分に言い聞かせるが、アリサがキャッキャと笑う度にほだされそうになる。
俺はゲームセンターでガンシューティングをしているはずなのに、内面では復讐心と性欲が激しく戦っていた。

「やったぁ~♪」

ボスを倒したアリサがわざとらしくピョンピョンと跳び跳ねる。そしてその度に大きな胸がポヨポヨと揺れる。

(ぐぁっ!)

俺は迸る性欲で声が出てしまうのをこらえるだけで必死だった。あざとい。わざとらしい。自分がかわいいと自覚している女にしか出来ない芸当だ。わかっている。これは攻撃だ。俺にアピールしているのだ。わかっていれば耐えられる。耐えられるはずなのだ。

その後しばらくゲーセンで遊び、太鼓を叩く度に揺れる胸や、アクセルとブレーキを踏み変える度に見える太ももや、プリクラを撮る時に腕に押し付けられた胸で俺の精神はすっかり疲弊してしまった。
しかし疲れを顔に出すわけにはいかない。俺はイケメンなのだ。いくらアリサが美少女でもいちいちドギマギしたりしない。恋愛慣れしている、セックスの経験も豊富、という『設定』を死守しなくてはならない。

「じゃあ次はあっちに行こう!」

俺はイケメンスマイルを保つ事すら限界に近付いていたが、アリサの方はまだまだ元気いっぱいだ。ゲーセンから出たアリサは再び俺の手を引っ張ってどこかへと連れていく。大通りを離れ、人通りが少なめのエリアにやってきた。
そしてある建物の前でアリサがこちらに振り向く。

「ね♥️ いいよね?」
(こ、ここは…!)

アリサはゲーセンの時とほとんど変わらないノリで俺を建物に引き込もうとするが、俺はその建物を見て絶句してしまった。

(ら、ラブホテルじゃないか!)

周囲に配慮してやや地味めの外観だが、間違いなくラブホテルだ。

「あ、遊ぶだけじゃなかったの? 君には彼氏がいるし…まずいって!」
「だから~、浮気じゃないってば。ただ"相性"をチェックするだけ♥️」

そういってアリサは微塵の躊躇も無く俺の唇にキスしてきた。さらに舌を絡めてきた。

そこから先の事はよく覚えていない。

ただ、間違いないのは、
俺は復讐を開始した初日に、
俺を自殺に追い込んだ張本人を相手に
童貞を卒業したという事だ。

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