鈴木雅之 5thアルバム「FAIR AFFAIR」(1992)レビュー

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●初の大ヒットアルバム

ベストアルバムを除くとこの作品が一番売れたアルバムとの事でなんと50万近く売ったらしい。ここまで大きく売り上げを伸ばした原因は、やはりシングル「もう涙はいらない」の大ヒットのおかげであろう!やはりアルバムの売り上げはヒットシングルがあるかどうかにかかっていると言っても過言では無いな。しかしどうしても「もう涙はいらない」の印象が強いアルバムだが、よく聞いてみると他の収録曲もかなりフックがありキャッチーだな。シングルでも良さそうなぐらい派手で分かりやすい曲が多い。鈴木雅之氏のアルバムに対してマニアックなイメージを持っている音楽ファンもいると思うが、意外とそんな事は無い・・・というか誤解を恐れず言うと相当大衆向け、マニアには少々物足りない曲が多いと思うぞ。個人的にはキャッチーなのは良い事だと思うんだけどね。分かりやすい事をチープだと言う人もいるらしいけど、そうは思わんね。

●気になった曲、布教したい曲の感想

01 もう涙はいらない
大ヒットシングル。14枚目にしてようやくガチのヒット。正々堂々真っ向勝負の受け狙い無し、分かりやすい元ネタ無しの正統派AOR歌謡。これ売れなきゃウソだろ!というぐらいしっかりした曲。この曲で名実ともにラブソングの帝王となった感がある?かも。作曲は中崎英也氏である。小田和正や大澤誉志幸などの大物シンガーからの提供曲ではなく、職業作曲家の曲でヒットを掴んだのはどう捉えたら良いんだろうかね?曲調も本人のルーツ的なドゥーワップや黒人音楽味は皆無の歌謡路線で、グループ時代の雰囲気も無く、しっかり時代に合わせた曲調という事でありがちな曲と言われればそれまでだが・・・でも結局はこのボーカルじゃなきゃこの世界観は成立しないしなぁ。そういう意味では鈴木氏はマイク一本で勝負する昔ながらの正に歌手である。それはさておき名曲。サビのメロディーは90年代のトレンドをしっかり取り入れた3連符強調のリズムだ!小田和正氏の「あーのーひあーのーときー」のリズムに似てるな。まぁそんな事言ったらミスチルのイノセントワールドもこのリズムだし、無限にあるけどね。流行りのリズムという事だ。アレンジは結構機械っぽい打ち込み音で優しいメロディーとは対照的に温もりは無いかもな。ザ・90年代!って感じでチープなシンセ音が今聞くと何とも言えずエモいよね~。待ってましたの間奏でのサックスソロは激渋アーバンで普通にカッコ良いぞ。この間奏まで打ち込み音だとさすがにしんどかったかもしれん。コーラスは本人と安部恭弘氏の共同らしく、抑えめながらも箇所によってはモロ安部氏の声が聞こえるぞ。

02 冗談じゃないぜ
インパクト大のド派手なイントロから一気に引き込まれる!ジャパーニーズファンクの傑作である。アレンジはやはりこの時期のトレンドであるニュージャックスイングの要素をふんだんに取り入れているな。主張の強いレトロなシンセベースが実にファンキーでダンサブルである。間奏では唐突に加工ディストーションギターが派手に登場し、ハードロックなリフが飛び出すのが面白い展開だ。Cメロの後に間奏ってのも意外と珍しいかも?普通逆な気がするぞ。しかし鈴木氏の圧倒的スキルを持ってすれば1曲目のようなベチャッとしたAOR歌謡もハッチャケファンクナンバーも何なく歌いこなせてしまう。アッパレである。最後はラップなんだか呟きなんだか妙に中途半端な外人のセリフ?が入ってきてちょっと面白い。

03 最初のYaiYai
鈴木雅之氏作曲。大々的にホーンをフィーチャーした情熱的なデュエットナンバー。お相手はかの杏子女史。一人で歌う箇所は少ないものの、ハスキーを超えた強烈ディストーションボイスで凄まじい存在感を放っている!全編にわたって聞きやすく、過去の曲でも見せていた氏のポップセンスが大爆発している!リードトラックとかシングルでも良いぐらい強烈にキャッチーだな!CMとかで使われてたら有名だったに違いない。間奏の後ほんの4小節ほどブラジルというか、ラテンっぽいリズムのピアノが急に出てきて妙に疾走感出るんだけど、ここもっと聞きてぇ~!

04 ためいき
湿っぽいAOR寄りのムード歌謡、なのか?演歌にも通ずる切なさと暗さである。1、2、3とブッ飛ばして来たのでここでグッとテンポが下がる構成はお見事。テンションも低すぎず丁度良い。生音ストリングスが高級感あって素晴らしい。鈴木氏が最も得意とするしっかりメロディーとボーカルを聴かせる曲。さすがに安定感がある。歌詞は全力で不倫(笑)。

05 君
安部恭弘氏作曲のちょい暗めのボサノヴァ・ナンバー。淡々とした雰囲気でそれほど盛り上がらず、それ故オシャレである。同じく安部氏の作曲である前作に収録されていた「それでもふたり」もボサノヴァ系だったが、情熱的だったあっちとは対照的にサッパリした曲である。ラウンジミュージックとでも言えば良いのか、BGM的な雰囲気ではある。

06 さよならいとしのBaby Blues
激渋ブルースナンバー。こういうのは本当に歌える人限られるよな~。とにかくダンディーな雰囲気。こういう重苦しい曲調は過去には「軽蔑」や「渇き」などがあったが、あちらが結構マニアックな雰囲気だったのと対照的にこの曲はかなりJ-POPナイズされている。にも関わらずダーティーでブルージーで曇り空な雰囲気は完全に表現できているのがすごい。間奏のギターソロは結構長くて聴き応えあるな。タイトル通りしっかりブルージーで激渋である。しかしファンとしてはコッチ系でも一曲ヒットがあったらな~と思ってしまうな。これは他の人には歌えん。

07 No Control
来生たかお氏作曲の異色のハウス(?)ナンバー。かなりレトロなメロディーとやたらバッキバキの打ち込みハウスサウンドが狂気のケミストリーを生んだ怪曲である。スタイリッシュなシンセストリングス音も妙な雰囲気だ。歌詞も正気を失った男の心情を歌ったものなので意図的なミスマッチを狙ったものかもしれん。それにしても不思議な雰囲気の曲だな!交わる事のない二つが交わった感がある。

08 十年はやいよ
J-POPミュージシャンなら誰しも一曲は作る事になるアース・ウィンド・アンド・ファイアーっぽい雰囲気のあるオーセンティックなディスコ感のある曲で、アルバムの中では少々浮いてるか? 。しかし一曲ぐらいこういうのもある方がバランスが良いな。十年はやいよの歌詞もあいまってやたらにキャッチーである。J-POPとして完璧に消化されているのである。この辺の手腕は昔の人の方が冴えてた気がするんだよな~。完璧に洋楽に聞こえるものがレベル高いのだ!っていうアホがたまに居るけど、まんま洋楽にするよりよっぽど高レベルな事やってると思うけどね。とにかく洋楽、邦楽の良いとこどりをしてバランス取るのは相当難しいと思われる。

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