Mr.Children 11thアルバム「シフクノオト」(2004)レビュー

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●ミスチル新章突入

2年ぶりのフルアルバム。過去最大のインターバルとなったのはフロントマン桜井氏が小脳梗塞で入院してたのが原因との事。大事に至らず何よりである。他にもドラムの人が活動再開を拒んだからとか、制作スタッフのスケジュールの問題があったとか色々言われてるが、まぁ客からしたらどうでもいいな。気になる人は調べてみてくれ。

このアルバムから明らかに雰囲気が今までと異なる感じがある。やはり人間本気で死にかけると思想に影響が出るのか、何かが違う。上手く言えんけど。一つハッキリしてるのは深海以降、今まで最低でも一曲は収録されていた厭世的で攻撃的なナンバーが収録されていない事だ。尖りが大分失われてきた感がある。年齢のせいも勿論あるだろう。ロック、ブルース寄りの曲がこの辺りから減少傾向にあるのは個人的には残念である。

●音の感じが以前とかなり違う?

専門的な事は分らんが何か音が以前よりクリアというかぺラいというか、そんな変化を感じる。ボーカルが浮いてるような?音との馴染み方も気に入らない。やたらボーカルが聴き取り易いというか・・・。とにかく過去のアルバムでは一度も感じた事の無い感じ・・・一言で言うと安く聴こえる。前作イツワンではムンムンに出まくっていた高級感が跡形もなく消し飛んだ。正直あの感じが好きだった自分にはかなりキツく、この妙にチープな音のせいでしばらく聴く気が起きなかった。せっかくの良曲を台無しにされた感じだ。これは調べてもあまり同じ感想を持ってる人が見当たらんので、結構謎だ。俺の耳がおかしいのか?滅茶苦茶安っぺぇ!何だこれ?

マスタリング?とかいう工程が海外から国内になったとか、全プロダクションがPro Tools HD Accelシステム上で、24bit/96kHzの環境で行われるようになったとか、その辺が原因らしいけど・・・。もうマニアック過ぎて何言ってるか全然分からん。呪文にしか見えん。一般人でも理解できるよう説明して欲しいもんだ。

●気になった曲、布教したい曲の感想

01 言わせてみてぇもんだ
このアルバムの中では一番過去の雰囲気を引きずっている感じの曲だ。イントロはマーチ?みたいな感じで妙に可愛らしいが、すぐさま不穏な空気に持ってかれる。開幕から音も内容も重いなぁ!アルバム中でもかなり上位にくる重い曲を開始1発目に持ってきたのは何か意図があるんだろうな。愚痴っぽく捻くれた、でも自己啓発感もある歌詞。どっしりエイトビートでミディアムテンポで且つ結構ロックなアレンジ。「ホーン入れるとポップになる」の常識を打ち砕く、ヴイヴイ言う重低音ホーンもいい味出してるな。十分ヘビィなハズだが、以前のミスチルならもっと分かりやすく泥臭くブルージーにまとめた気がする。歌部分が結構爽やかなせいか、間奏では思い出したようにブルージースイッチがONになる(笑)。ギターは結構複雑なフレーズが炸裂!聴きごたえ十分。しかし・・・やっぱ何か原因不明の音の安っぽさのせいで個人的には大分減点だ。歌入った瞬間もう音が受け付けなかった。何だこのチープさ・・・この後もアルバム収録曲はずっと安っぽく聴こえた。いや、この後どころじゃない。その後の全アルバムだ。ガッカリである。

02 PADDLE
ちょいテンポ早めの軽快で爽やかな王道8ビートポップ・ロック。前曲とちょっとだけ繋がってるのがオシャレで良いな。携帯のCMで結構しつこくかかってたので聴いた事ある人も多いと思う。ミスチルの中でもトップクラスにシンプルでストレートなアレンジで聴き疲れしない。筒美京平を参考にしてメロディーを作ったというが似てる部分がさっぱり分からん。結構特殊なメロディーに聴こえるが・・・難しいな。サビの最後の「もしかしたら今日は何も起こんないかも」の部分の譜割りがカッコ良すぎる。イノセントワールドでお馴染みの2拍3連符でもなく、クロスロードなどのスウィング系とも異なる、最新のヒップホップっぽい高速3連符だ。最後アウトロでギアが一段階アガるのが印象的だな。

03 掌
ダークでメッセージ性の強い曲。悲痛な叫びだ。これシングルってのは強烈というか、今じゃ絶対有り得ないな。Cメロの歌詞は多様性を謳いつつ分断を煽りに煽りまくる現代のクソッタレSNSに叩きつけるべき思想だ(笑)。
それはともかく、このリズム。完全にヒップホップ系だ。クソカッコいい!何と言ってもサビの連続でスウィングしまくる譜割りが最高。韻こそ踏んでないがこれはもうラップだ。ここまでワウワウしたファンキーギターもミスチルでは珍しい気が。「デルモ」ぐらいじゃないか。KingGnuの白日聴いてこれ思い出した人もいるだろう。譜割りも音も共通点が多い。こういうラップっぽいのはGReeeeNとか、優里とかあっち系に通ずるものもあるのかね?いや~今聴くと逆にナウいな。イカすグルーヴ。デジタル音がチープなのがちょい残念。

04 くるみ
ミスチルが一番得意としているであろう、王道のミディアムバラード。音的にはバンド感が無さ過ぎてロック、ブルース寄りのミスチルが好きな自分には少し物足りない。曲的にはかなりクオリティの高い曲だと思うが・・・何故か影が薄いような気が。相当良いけどなぁ。
一番の聴き所はサビのリズムだ。ミスチルと言えば譜割り!というぐらいに凝った譜割りで様々なグルーヴのメロディを披露してきたが、一番の得意技が合体したような印象だ。まず頭のリズム。ここはinnocent worldやTomorrow never knows等で披露した2拍3連符。「ラブストーリーは突然に」などでもお馴染みの劇的なリズムだ。更に深海の頃から多用し始めた字を無理やり詰めたような早口気味の譜割りもプラスされている。サビの後半ではクロスロードや掌で披露したスウィング系の譜割り。ミスチルに限らずこういうバラードでここまで早口なのも珍しいんじゃないか?とにかく盛りだくさんで集大成の感がある。素晴らしい。

05 花言葉
穏やかでレトロでコンパクトなミディアムバラード。アルバム曲っぽい壮大じゃない曲。これは初期っぽさあるなぁ!ボーカルのエフェクトもミスチルでしか聴いたこと無い、この変な加工。これよ!懐かしいぜ。メロディーはどこを取ってもフックがあり聴きやすいが、サビがあんま盛り上がらないせいか、Cメロは結構アッパー+最後転調してキーが上がる。これでバランスは取れた。

06 Pink 〜奇妙な夢
待ってましたのダークなナンバー!やっぱこういうのが一番好きだァ!この気怠い不穏な雰囲気、今はやらなくなってしまった・・・残念だ。かなり前作、イツワンの雰囲気あるなぁ。BirdCageとかこんな息苦しい雰囲気だ。何か聴きづらいイメージ持たれる事多いけど、メロディー自体はかなりキャチーな部類だと思う。サビ前のデジタルエフェクトがかなりイカしてる。ミスチルはデジタル音が上手く作用してる事が個人的には少ないんだけど、これはかなりカッコいい。全体に音がくぐもってるのも良いんだよな。
歌詞も夢がモチーフで結構ファンタジー色強めで珍しいかも。普段通り何か男女間のモヤモヤの内容だったらまだもう少し人気あったろうな。6分44の大作で特に大きな展開も無いので、飛ばす人も多いだろうなぁ。個人的にはこのアルバムの中でブッチ切りで一番好きである!この曲だけは繰り返し、繰り返し、聴いてられるな。

07 血の管
暗い通り越して黄泉感のある、ある意味インパクト大のイントロで幕を開ける。花言葉以上にコンパクトな曲。アレンジもほぼピアノのみでシンプル。イメージ先行で作られた雰囲気だ。BOLEROの頃の様な自己陶酔感があって良いっすなぁ・・・。ただ歌い方はもっと自分に酔いまくった感じが良かったかも。Heavenly kissぐらい気持ち悪く歌って欲しいと思ってしまう。微妙~にマイルドなんだよなぁ。しかしこういうのも今ではやらなくなっちまった。桜井氏は元々歌い方も動きもナルシスティックな感じがあるので、今もそういう曲を求めてしまう自分がいる。
生と死がモチーフの曲と詞でヴィジュアル系の世界観に通ずるものもある気がする。ちょい和風なのもポイント。そこもまたV系っぽい(笑)。ミスチルの中でも上位にくるぐらい芸術的で商業的な匂いがしない楽曲。ハマる人はハマる。

08 空風の帰り道
血の管からこれに繋がるってのがまた何らかの意図を感じさせる。テーマは壮大だけど、身の回りの小さな人間関係の話に落とし込んでいる。療養中に書いた曲との事で、なるほど納得という感じの歌詞とメロディー。本人的には思い入れ強いんだろうけど、何か、そうですか・・・って思っちまったな。やっぱ歌詞に比重が強過ぎる曲はバランスが悪い。まぁ完全に好みだけど。曲がフォーキーなせいか、音的には退屈だ。間奏で仕方なさげにブルージーになるのはこの時期の特徴だ。

09 Any
淡々としつつも鼓舞するようなポップ・ナンバー。ロック色は薄い。音の雰囲気は前作、イツワンを引きずってるな。引きずってるというか、その時期に作られたらしいから当たり前か。シフクノオトの中ではちょい浮いてるかもしれん。サビの強さは相当なもので、十八番の2拍3連符を使いつつも、異常な上下動で揺さぶる、ミスチル以外ではまず聴けない個性的なメロディーで素晴らしい。J-POPの王としての貫禄を感じる一曲。

10 天頂バス
数少ないブルージーな曲。Qとかその時期の雰囲気もある。やっぱこういう投げやりというかヘンテコというか、こういうの得意だよなぁ~。ミスチルの中でも名もなき詩ぐらい展開の多い歌。桜井氏本人によると「次々変化していく感じがまるで人生を描いているよう」との事で確かに波乱万丈な感じはある。最初はサビが全部裏声で驚くが、最後は地声でしっかり叫んでくれるので安心だ。ボーカルもいつにも増してキレッキレよ。この針金のように尖ったボーカルがたまらん。
こういう実験系?の曲では定番のデジタル音を駆使している。だが昔の深夜アニメの人気無いキャラのキャラソンとか、無名のPC18禁ゲームの挿入歌ぐらいのクオリティしか無いので勘弁していただきたい。このオモチャみたいなシンセ音。これが日本で一番売れている歌手の音とは・・・。チープ過ぎてミスチルには似つかわしくない。曲自体のクオリティに全く追いついていない。足引っ張るのやめてくれ~。当時でも酷過ぎて閉口したが、今改めて聴くとショボさが功を奏してノスタルジー過ぎて風情があり逆に良いかもしれん(笑)。クオリティの高い打ち込みだとこのノスタルジアは出ない。でも普通にバンドサウンドで良いと思うけどなぁ。

11 タガタメ
テーマも歌唱も歌詞も音も全てにおいて重すぎる(笑)。それが良くもあり悪くもある。元々はカントリー調のアレンジでもっと軽かった。そちらのバージョンは後にHANABIのカップリングとして収録されている。個人的にはそちらのバージョンの方がスッキリしたような気がしないでもない。聴き所はボーカル。途中のシャウト部分は間違いなくミスチル史上最大出力。今後もこれを越えるシャウトは恐らく無いだろう。控えめに言ってもデスボイスの領域。エレカシの最初期ぐらい怒鳴っているので、そこだけでも聴いてみる価値があるかもしれん。

14 HERO
タガタメとは別ベクトルの壮大な雰囲気の大作ロックバラード。ラブソングだと思ってる人も多いと思われるが、親の目線で書かれた曲。しかし子供を捨てた人間がこういう歌詞を書くというのは、色んな意味で重みが一味違いますな。ヘビーな人生を歩んでいる事は間違いないが・・・。もう何か覚悟が決まっているというか。人生色々というかね。我々には想像がつかない事も沢山あるんだろうなぁと思わされるな。
イントロのギターのフレーズは超が付くほどシンプルだが、何故か残るという名フレーズ。こういうのが本当はすごい。病み上がりという事でラスト以外のサビは裏声で歌われているが、逆にそれが良い効果をもたらしている。待ってましたの最後の地声の高音が、やはり胸にグッとくる。途中までは結構サラッとしった印象だが、Cメロからが本番でギャンギャンに盛り上げるのはさすがミスチルといった具合だ。このCメロのみ病気後に書かれたものらしい(歌詞の事なのか?インタビュー掲載の雑誌を持っていないので分からない)。

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