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【読書】羊と鋼の森

kindle unlimitedで読了
audible聴き放題にもラインナップ
2016年本屋大賞

▫️作者
宮下奈都(みやした・なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学文学部卒。2004年「静かな雨」で文學界新人賞佳作入選。2007年初の単行本『スコーレNo.4』が話題を呼び、ロングセラーに。2015年に刊行された『羊と鋼の森』が、2016年本屋大賞、王様のブランチブックアワード大賞2015、「キノベス!2016」1位という史上初の三冠を獲得し、ベストセラーとなる。登場人物の日常の風景や感情をみずみずしい文章で丁寧にすくいあげる作風で人気を得ている。著書に『遠くの声に耳を澄ませて』『よろこびの歌』『太陽のパスタ、豆のスープ』『メロディ・フェア』『誰かが足りない』『窓の向こうのガーシュウィン』『終わらない歌』『神さまたちの遊ぶ庭』『たった、それだけ』『静かな雨』『つぼみ』など多数ある。最新刊は『緑の庭で寝ころんで』。

▫️あらすじ
これまで音楽に触れたことが無かった外村は、偶然高校でピアノ調律師と出会い、調律に魅せられ、街の楽器店で調律師として働き始める。故郷の森で見た風景とピアノを重ねて、その奥深さ、美しさを感じながら、ひたすら音と向き合う。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、自分ができること、やりたいことを見つけ出していく。

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」


▫️感想
奥ゆかしさと、思慮深さ、丁寧さ、愚直さ、不器用なように感じるが、要領の良さとは真逆の強さを感じる主人公。芸術に携わるということ、正解が無い問いに答えていくことはこれほどに自分を曝け出すということなのか。
調律師は私の身近にいない。ただ、仕事に真っ当に取り組む方法として、ぼんやりした正しそうなことを言語化することで意識がはっきりする感覚はわかる気がする。例えば、これまでに美しいと名づけることのできなかったものたちを美しいと呼ぶことを知ったのは素晴らしい経験だと主人公が振り返っているが、この事柄が成功と呼ぶんだなとか、これが準備するということだなとか、言葉で整理されていくことはよくある。また自分の考えを曝け出して表現するということも多くの仕事に必要な事柄だろう。
ピアノの音を聞いて森の香りがしたのは主人公の心の大元に流れているものがそうさせると思うが、決して特別な感覚を持った人ではなく、我々にも同じようなものが流れていて、それを使って生きているのだと思う。自らのゴールを、明るく静かに澄んで懐かしい、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている、夢のように美しいが現実のようにたしかなものと表現した先輩の言葉をメモする主人公に見習うことが多い。この言葉の裏には尽きない情熱がなければならないし、自分との差があるとすれば、感覚ではなくこの情熱だと思う。
この小説で扱う「音」と「心」は文字にするとそれをそのまま表現するものと少しズレたりするが、読後の多幸感や清涼感は作者がそれをぴたりと著した証だろう。
本を読みながら静かで綺麗な風景を思い描きたい人にオススメの一冊。

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