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旅立ったRina


土曜の朝、上海。
部屋の窓辺でコーヒーを啜んでいると、二匹の鳥が何かを喋っているかのように泣いていた。春だし、求愛をしているかも知れない。

涼しい風を感じながらその光景を見ていたら、私は急に寂しさを感じた。それもそうだ。ずっと一人暮らしをしているのだ。寂しさを紛らわしたく、半年ぶりにTinderのアプリを開くと、ほぼ同じタイミングでRinaという女性とマッチングしたとの通知が届いた。少しチャットを交わした後、私達は翌日のお昼に会う約束をした。

日曜のお昼、カフェに現れたRinaは柴犬を連れていて、全身を黒い服でまとっていた。彼女は自分をRinaと名乗った。中国語の名前は教えたくないと言った。漢字が嫌いなのと言い、「中国から早く出たいの」「実は来週からヨーロッパに行くのよ」と明かした。

グンちゃん: ヨーロッパへの旅、どこの国に行く予定なんですか?
Rina: 旅じゃないけど、それは秘密!当ててみてください。

内心ちょっと面倒くさいやり取りになりそうだなと思いつつ、私は「どこだろう?イギリス、フランスとか?」と真摯に対応した。我ながら、自分の成長を感じる。すると彼女は「違うよ。たぶん想像できないところ」

グンちゃん: 有名どころじゃないんですね。ルーマニア?クロアチアとか?
Rina: あらら、また違います。さて、どこかな?

国当てクイズは数分続いたが、結局彼女はアルメニアという国に短期留学をいくとのことだった。美術の勉強のめだけど、それが全ての理由ではないようだった。彼女は「とにかく中国から出たいの。うまく言えないけど、上海の生活が窮屈というか…よく分からない」と繰り返した

Yoroちゃん

美味しいコーヒーを飲みながら、他愛ない会話をしていると、横で座っていたワンちゃんのYoroちゃんが退屈そうに「う〜」と声をあげた。私達二人はカフェを出てしばらくフランス租界地周辺を散歩した。そして、建国西路で別れた。別れ際、私は彼女になぜ私と会おうと思ったのかを尋ねた。

グンちゃん: 明日、長い旅に立つのに何で僕なんかに会おうと思ったの?
Rina: よくわからない。誰かとコーヒーが呑みたかっただけ。
グンちゃん: その誰かが何で僕だったんだろう?
Rina: 優しそうに見えたから。

私は苦笑いを隠しながら、手を振って彼女と分かれた。私のTinderには一切私の顔写真がないのに、なんでそう思われたんだろうかと思いながら、近所のベトナム料理屋で早めの晩御飯を食べた。

それがRinaと会った最初で最後である。私は彼女が元気で幸せであることを願っている。

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