筋トレのダイエット効果は「基礎代謝の増加」ではない。見逃されている「筋損傷のメカニズム」

はじめに

ウエイトトレーニングや他の高強度の運動は、筋繊維に微細な損傷を引き起こします。
特にエキセントリック収縮(筋肉が伸びながら収縮する動き)によって筋肉内の繊維が切れたり、壊れたりします。
しかしその損傷は人体が本来持っている「筋損傷の修復メカニズム」によって回復します。

巷では「筋トレのダイエット効果」について基礎代謝の増加が言われますが、実際にはそれは現実的ではないのはこのnoteでも何度も書いています。

「筋トレのダイエット効果」としては

1.実際の消費エネルギー
2.EPOC=運動後余剰酸素消費量の増加
3.安静時代謝率の増加
が挙げられますが、もう一つ見逃されているのは、上記の「筋損傷の修復メカニズム」です。

今回はこの「筋損傷の修復メカニズム」について書きます。


筋損傷の修復プロセスとエネルギー消費

トレーニングによる筋損傷は以下のプロセスで修復されます。

  1. 炎症反応
     筋損傷が発生すると、身体は即座に炎症反応を開始します。
    この過程では、損傷部位に血液が集まり、白血球や他の炎症メディエーターが送り込まれます。
    これにより、老廃物の除去と組織の修復が促進されます。この炎症反応はエネルギーを消費します。

  2. 筋タンパク質の分解と合成: 筋損傷後、身体は損傷した筋繊維を分解し、新たな筋タンパク質を合成して筋肉を修復・強化します。
    この過程は「筋タンパク質の回転」と呼ばれ、エネルギーを大幅に消費します。
    特に、アミノ酸の供給と筋タンパク質合成には多くのATP(エネルギー通貨)が必要です。

  3. サテライト細胞の活性化: 筋損傷に応じて、筋肉周囲に存在するサテライト細胞(筋幹細胞)が活性化され、増殖し、損傷部位に融合して新たな筋繊維を形成します。
    このプロセスは筋肉の再生と成長に不可欠であり、エネルギー消費が増加します。

  4. 再血管化: 筋損傷後、血管の新生が促進され、損傷部位への酸素と栄養供給が改善されます。
    このプロセスもエネルギーを必要とします。

エネルギー消費の増加

上記の修復プロセスは、運動後の数時間から数日間にわたり持続します。
この間、エネルギー消費が増加します。
この増加は、筋肉の修復・再生に必要な代謝活動が活発化するためです。
具体的なエネルギー消費量は個人差がありますが、以下の要因が影響を与えます。

  • 損傷の程度
    トレーニングの強度や量により筋損傷の程度が異なり、それに応じてエネルギー消費も変動します。

  • トレーニング経験
    トレーニング経験が豊富な人ほど、身体が効率的に回復するため、エネルギー消費が若干減少する可能性があります。

  • 栄養摂取
    適切な栄養(特にタンパク質と炭水化物)の摂取により、回復プロセスが促進され、エネルギー消費も最適化されます。

    筋損傷からの回復過程には多くのエネルギーが消費されるため、ウエイトトレーニングが直接的にダイエット効果を持つ一因となります。
    適切なトレーニングと栄養管理を組み合わせることで、このエネルギー消費を最大化し、効率的に体重を減少させることが可能です。

なぜ我が国ではこの事実が伝わっていないのか?

ウエイトトレーニングのダイエット効果について、特に筋損傷とその回復過程におけるエネルギー消費の増加は、日本のトレーナーやトレーニング業界で十分に認識されていない事実があります。

これにはいくつかの理由が考えられます。

理由と背景

  1. 認知度の不足
     筋損傷と回復に伴うエネルギー消費のメカニズムについての科学的理解が十分に普及していない可能性があります。
    この分野に関する研究や情報は、特に一般的なフィットネスコミュニティではまだ新しいか、難解と見なされることが多いです。

  2. 教育とトレーニングプログラムの内容
    トレーナー養成プログラムやフィットネス関連の教育カリキュラムにおいて、このような科学的な内容が十分にカバーされていないことがあります。
    これにより、トレーナーが最新の研究成果を基にクライアントに指導する機会が減少します。

  3. マーケティングと情報の偏り
    ダイエットやウエイトロスに関するマーケティングは、しばしば短期間での成果を強調する傾向があります。
    そのため、長期的かつ科学的なアプローチは見過ごされがちです。
    特に筋損傷と回復に伴うエネルギー消費は、短期間では目に見えにくいため、マーケティングのメッセージとして取り上げられることが少ないです。

解決策と提案

  1. 教育と研修の充実
    トレーナー向けの教育プログラムにおいて、筋損傷と回復プロセスに関する最新の科学的知識を取り入れることが重要です。
    これにより、トレーナーがクライアントに対してより効果的な指導を行えるようになります。

  2. 科学的情報の普及
    トレーニングコミュニティやフィットネス業界に向けて、筋損傷とエネルギー消費に関する科学的な研究成果をわかりやすく説明する記事やセミナーを開催することが有効です。
    これにより、一般のフィットネス愛好者やトレーナーがこの情報を理解し、実践に活かすことができます。

  3. 長期的な視点の強調
    クライアントに対して、短期間での成果だけでなく、長期的な健康とフィットネスの向上を目指すことの重要性を伝えることが必要です。
    ウエイトトレーニングによる筋損傷とその回復過程のエネルギー消費についても、長期的なダイエット効果として説明することが効果的です。

結論

ウエイトトレーニングのダイエット効果において、筋損傷とその回復に伴うエネルギー消費の増加は重要な要素です。
これを理解し、実践に取り入れることで、より効果的なダイエットプログラムを提供できるでしょう。
トレーナーやフィットネス業界全体がこの視点を重視し、クライアントに対して科学的な根拠に基づく指導を行うことが、今後の課題だと考えられます。

それを実現するためにはトレーナーとフィットネスビジネス業界そのものが「還元主義的」な「利益主義」に走らず、本来の社会的役割に立ちかえり、その責務を全うすることが重要なのではないでしょうか?

そしてそれこそが結局は金銭的な利益を生み出すことを認識していただければと感じます。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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