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蜜月の刻(とき)

彼女とは学校こそ違ったが、高校の3年間、同じバイト先で一緒だった。わざわざ約束して出かけることはなかったが、顔を合わせれば一緒に行動し、バイト上がりに食事する程度の時間を割いた仲だった。

アパレル:斎藤珠美

「さぁ、どっからでもかかってきなさい」
珠美は席に着くなりそう言い、腕まくりをする仕草をして見せた。
「やだ、そんなに構えられると返ってやり難いじゃない。普段通りでいいわよ」
なぜだか試されてるような気になった。

「初体験はいつですか?」
質問はシンプルにそれだけなのだ。

「やだ、いきなりなの?」
「だって、他に聞くことないんだもの」
「チロチロと責めるなり、誘導するなり、やり方ってものがあるでしょうに…。みんな、いきなりそこからなの?」
「チロチロって、言い方…」

珍しく言い訳がましい態度に違和感を覚えた。
いつもの珠美ならさくさくと自分の方から語り始めてもおかしくはないのに、遠回りをしている感じさえするのだ。

なにも馬鹿正直に答えなくてもいい。珠美のことだから、充分に自分を自慢できるアプローチを準備しているはずなのだ。大げさに言ってしまえば、こちらとしても、脚色や嘘も覚悟の上で臨んでいるといっていい。

(もしかして、お宝話でもしてくれるとか…? まさかね)

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