チャペル

連載『オスカルな女たち』

《 結婚記念日 》・・・6

10年。ひとことで言っても「ふたりの軌跡」、結構な歳月だ。

結婚記念日まで1か月を切った。
結局、この時点での「旅行」の話は自動的になくなっていた。
「10年だよ…。今年は10周年なんだよ、幸(ゆき)」

大事な水曜日の朝の朝食を済ませ、書斎に戻っていった夫の中途半端に傾けられた椅子に、織瀬(おりせ)は小さく投げかけた。
 
これが、織瀬の「気持ちが落ち着かない本音」というわけだ。


「へぇ10周年なんだ…早いもんだね」
いつものナッツを頬張りながら、ビールジョッキを豪快に傾ける真実(まこと)。
「なにか特別なこと考えてるの?」
いつも通り赤ワインを片手に、ちまちまと飾られたチーズをいただくつかさ。
「う…ん。そうなんだけど、ね…」
今日の気分はギムレット、誰も疑問をいだく者はいないが、相変わらず織瀬の飲み物は無言の注文。
「なによ? 歯切れが悪いわね」
玲(あきら)はドライフルーツをつまみながら、静かにビールグラスを傾ける。

「そういうわけじゃないんだけど…さ」
いつものバーで、いつもの顔ぶれ。
いつもと違うのは、丸テーブルではなく唯一設けられている要予約のボックス席だということ。

珍しく玲の号令で集まった水曜日の夜、本当なら今夜は幸と一緒にいるはずだった。話したくない…と言いながらも、話題が尽きたついでになんとなく話し始めた織瀬だったが、
「このままいつも通りで終わりそう…」
ついつい愚痴のようにこぼしてしまう。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです